裏を切る存在
「アザレア!! こいつを殺せ!! ミンチにしろ!!」
「あなた様? ……その方は……」
「アザレアだと? あぁ、アザレアか。久しいな」
「あら、お兄様。 生きてましたのね」
俺は殺せと命令したのに、俺の言う事より上に乗っている雑魚の言う事を優先しやがった。
ただの側近の分際で。
「てめぇ何をしている!! 今すぐ殺せ! そう俺が言ってるんだぞぁ!!」
「助けたいのはやまやまですけれど……。ごめんなさい、それは出来ないですわ」
「出来ないだと……? 出来ないって何だ、王の命令を聞けないって事か? ……お前を拾ってやった恩人の、隣に置いてやった君主の言う事が聞けないって言いたいのか。お前は王の命令が……! 聞けないって事かぁ!!」
「そうではありませんわ。わたくしではその方に勝てないんですわよ」
「あぁ!? 勝てない訳あるか!! お前は最強の俺である次に強い筈だ!! こんなゴミ直ぐにでも殺せるだろうが!!」
だからわざわざお前なんかを隣に置いたんだ。糞の役にも立たない案山子よりは役に立つ、その程度の理由でしか意味を成さなくても、それくらいの存在価値がある事を自覚して今すぐ命令を聞けよ役立たずが。
「勝てないんだよ。僕達はそうやって教えられて育ってきたから、どうやっても俺には勝てない。アザレア、お前に与えられた三ヶ条は何だっけ?」
「一人称が定まらないのは変わっていませんわね。三か条です? えっと、物事は公平に持つべき。誰よりも強くあるべき。そして、兄を超えてはならない、ですわね」
「そうだ。ちなみ兄である俺を超えたか?」
「いえ、お兄様の成長具合を予想して調整しましたわ。ですから超えてはいない筈です」
「と言うことだ」
肉親だろうが知った事か。アザレアは俺の部下だ、俺の言う事を聞き、王の駒となり死に絶える運命にある。
「命令違反は反逆罪だ! このまま学習しないのなら、お前から殺すぞアザレアぁ!」
「勝てない相手には挑むなと母に教えられましたので、ごめんなさい」
「……………………あぁぁああああああ!! くぅそぉがぁあああ!!!!」
「うわうるさいな。それに反逆罪って不似合いな言い方をする、それは権力の持った人間がやる事だろう? 君はそんなに偉かったか?」
「王に対してその口の利き方は何だぁ!? お前も反逆罪だ!! 処刑にしてやる!!」
「いや罪人は君だろう」
「あ!? 俺が何をした!? 窃盗か!? 侵入か!? 傷害か!?」
「殺人だ」
「……ははははは!!! 俺がそんな程度の低い事する訳ねえだろうが!! ありもしねえこと並べてんじゃねえよカス!!」
ただのゴミだと思えば面白い事も言える喋るゴミだとは。殺人だと? 俺がいつ人を殺した、俺がいつ誰を殺した。
そんなの一切記憶に無い、なんなら窃盗や傷害だって一切無い。多少は手を出した事もあるが、それは王に歯向かう分からず屋に罰を与えただけだ。それの何処が罪になる。
「国を丸々地に埋めて潰しただろう? 記憶に無いか?」
「俺の前の国がどうしたって!? 自分の国を潰す事は罪になるのかよ!!」
「確かにそれだけでは罪状は存在しない、けどその国にいた人はどうなる? 君は幾数千もの人間を地の底に落とし殺した。それは立派な殺人だ」
「町を壊したついでに勝手に落ちていっただけだろうが!! 俺はわざわざ町を壊すと宣言してやったんだ! その程度でどうにかなるならそいつらの事故責任じゃねえのかよ!! 俺は関係ねえよ!!」
「…………はー、凄い言い分だね、正直驚いたよ。アザレア、何でこんなのに付いて行ってるんだ?」
「その力に惚れたからですわ」
「お前も落ちぶれたなぁ。何かしらの力は持っていても品性の欠片も無いじゃないか」
俺に乗ったまま会話してんじゃねえよ馬鹿が。こいつだけは絶対に殺して、死んだ事を後悔させるまで死後でも殺し続けてやる。
…………何故こんな事態になっている。何故俺はうつ伏せで動けなくなっている。
それもこれもこの男がしゃしゃり出て来たからだ。こいつがいなければ俺は今頃、椅子に座って優雅に食事を取っていたと言うのに。
いや、今は現状をどうにかするのが先か。アザレアとか言う役立たずが全くもって役に立たなかったから、他の方法を探すしかない。
「……何故俺を拘束する」
「犯罪者を捕まえにここにいる」
「人を捕まえるのはそれこそ権力の持った人間がやる事だ。お前みたいなゴミの分際で勤まるかよ」
「君は何も知らないな、一から説明するのも面倒臭いよ。俺達はただの正義の味方だという事だけ知ればいい」
「はっ! わざわざご苦労な事だな。俺を捕まえにこんな所まで足を運んだのかよ」
「いや、君はついでだ。ここの国の王が毒を密造しているのは前からわかっていた、元々この日に攻め入る予定だったんだよ。それのついで」
ついで……? この俺を捕まえておいて、ただの一緒にいたから捕まえましたってか……?
は~、殺したい。
「勿論町を消した主犯を探してはいたんだけど、まさかこんな近くにいるとは思いもしなかった。協力者に感謝したいね」
「あ? 協力者……?」
「「ここにこういう事をした奴がいるから止めてくれ」って頼まれたのさ」
…………あぁ、そうか。そういう事か。
俺はまた、同じ道を踏んでいるのか。
また裏切られた。
「……アザレアぁ!! お前の仕業かぁ!! お前が俺を嵌めたのか!!」
「違いますわ。わたくしはそんな卑怯な真似はしないですわよ」
「最初から怪しい奴だったもんなぁ!! 身分も明かさずいきなり擦り寄ってきて!! 付いて来たいって言ったのも最初からこれが目的だったって事かぁ!? 信頼できない人間のやりそうな行動だなぁ!!」
「わたくしをそんな風に、思っていらしたの……」
「何だその顔はぁ!? 人を売った分際で被害者面とは随分とおこがましいなぁ!! てめぇのせいで俺は!! お前が存在していたせいで俺はぁ!!」
「アザレアさんの言っている事は本当よ、ユリー・フレゥール」
俺の名を呼びながら、門の前に立っている一人の人間。それを人間を言うのならばそうなのだろうが、しかしそれは人とは言えない化物との混血種。
目が赤く、怒ると角や爪まで生えてくる上に致命傷でも簡単に再生する。完全に人とは掛け離れた存在。
化物は続けて言う。
「私があなたの居場所を教えたのよ。全て私一人でやった事、アザレアさんは悪くない」
「スノードロップ……。……お前劣等種の癖して、何をやってるんだ……?」
「あなたを止める為仕方が無かった。もう私一人では、どうにかできなかったのよ。だから……」
「だから何だ……? こんな誰の馬のかもわからないゴミに頼み込む程、今の生活に困っていたか……?」
「その人なら何とかしてくれると信じた。すがった。……それで正解だった。あなたはそうして、負けているのだから」
「あぁ!? 誰が負けてるって!? 何が正解だって!? お前の言っている事はいつだって聞こえなかった!! あの時も! その時も! この時も!! ちゃんとまともに喋れぇええ!!!」
「あなたは、自分のしてきた事を償いなさい」
「……スノードロップぅうううああああああ!!!!!」
「私は、スノードロップなんて名前じゃない」
――――――――。
あれから俺はどうしたか、俺は覚えていない。
気付けば牢獄の中に入れらていた。何も見えない、どこも動かない、冷たい床の上に両手両足を縛られただそこに居るだけの王。
どうしてこうなった。俺が何か悪い事をしたか。世界の無駄な争いを無くそうとしてきただけなのに、意向に逆らう人間を片っ端から修正して、醜さの一切無い綺麗な世界を作ろうとしただけなのに、何故こうなる。
この世界はやはり馬鹿ばかりだ。そんな馬鹿は、居てはならないんだ。
次は、上手くやる。
全てを殺戮してでも。




