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侵入者と影

 完璧。


 何事にも欠点や不足が無く、完全なものの事を言う。


 一つでも足りていないと完璧とは到底言えない。だと言うのに一から十まで、特に頭の構造が一部欠損している奴が完璧だと名乗るのだから、片腹がとてもとても痛い。


 ふざけているのか? そう思ったが、真顔で言っているの所を見るに本気な事が伝わってくる。伝わってしまう所が不味い気付かないこいつはどうかしている。


 ポンコツぶりをあらかた見せた所で失敗作だとわかり、適当な部屋に置かれそのまま放置されたんだろう。


 今のは完全な予想だが、絶対に外れていない。


 目の前でそれを証明してくれている。


「着きました。玉座です。」


 白く輝き光を反射しほこり一つ無いその椅子は、上に蓋まで常備し清潔感を忘れない所は自らの役目を全うしているようにも見える。


 日に一回以上はお世話になるのだから少しくらい汚くてもおかしくないのだが、全く汚れは目に見えず、よくよく掃除が行き届いている証拠である。


 実に立派な玉座。


「なぁ、……王がここに座って格が付くと思うか……?」


「わかりません。」


「ここさぁ……、お前はここをどこだと思うんだ……?」


「生物が用を足す為の専用の場所です。」


「そうだな、それをお前は玉座と言い切ったんだ。玉座の意味知ってる?」


「凄い椅子の事です。これはうぉっしゅれっとを完備だと聞いたので凄い椅子なのだと私は思います。」


「はぁ? トイレは出すもの出してそれで終わりだろ、訳のわからんもの付けるなよ……」


「お気に召しませんでしたか?。」


「気を害した。侮辱された気分だ」


「それはお気の毒でしたね。」


 遠まわしに馬鹿にしているようにしか聞こえない淡々とした喋り方。玉座の意味を知らない、何故かトイレに案内する、挙句王が変わった事にさえ気付かず俺を客人だと言う。


 螺子の二、三本が別の所に刺さっているのではなかろうかと言う無能極まりない発言は、本当に壊してしまおうかと思うくらいに憎たらしいポンコツっぷり。そりゃあ捨てたくもなる。


「最後のチャンスだ。次ちゃんと案内しないとバラバラにしてスープの出汁にでもしてやるからな」


「私は様々所に油が使われています。油満点のギトギトなスープになりますがきっと美味しいと、私は思います。」


「うるせえよ。とっとと歩け失敗作」


――――――――。


 とっとと歩いた結果、二十分近くの時間が経過。


 今隣の壁にかけてある絵を見るのは三回目の様な気がする事を抜けば順調に歩を進めている。この扉もさっき見た気がするが、ここまで広いと同じ物が何個かあってもおかしくはない。


 階段を上がって、廊下を右に進んで、階段を降りて、廊下を左に進んで、階段を上がって。これを繰り返して得た物が同じ絵を三度見る権利と苦労。


 いつ着くのだろうか。ここはそこまで広いのだろうか。俺はどれほど歩けば目的地に着くのだろうか。この隣にいるメイドはここの経路を知っている筈で、辿り着かない訳が無い。


 このまま信じて歩けば絶対に着くだろう。このまま苦労すれば。このまま我慢していればいつかは。そう思っていた、数分前までは。


 このままだと一生着かないだろう。

  

「おいてめぇ!! いい加減にしろよ!! 温厚な俺もさすがに我慢出来るか!! 何故俺が我慢する必要がある!! 何故俺が苦労する必要がある!! 答えろポンコツがぁ!!」


「血圧の上昇を感知。冷却システムを起動します、――作動失敗。ポンプの残量不足を確認。直ちに水、または消火剤の補充を願います。」


「同じとこぐるぐるぐるぐるふざけているのか!! 俺が誰だかわかっているのか!! 俺に手間を取らせて何が目的か!!」


「質問の回答を検索。――検索完了。同じところをぐるぐるぐるぐる回っている件についてですが……」


「言い訳をするな!! 俺は何故だか聞いているんだよ!! 答えろ!!」


「再度検索。――検索完了。別の回答を用意しました。ぐるぐるぐるぐる回っている件についてですがそれは……」


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!! さっさと正しい道を歩け鉄クズが!!」


「かしこまりました。歩きます。階段を降りますので足元にご注意下さい。」


「四回も注意しなくてもわかってるわボケ!! 子供じゃねぇんだよ!!」


「かしこまりました。注意を止めます。」


「あ!? じゃあ俺が転んだらどう責任に取るつもりだ!? その為の注意だろうが!!」


「お客様が転んでしまわれた場合、私が責任を取って自爆します。」


「はっはっは!! これはいい!! ナイスジョーク!!                 …………いいから黙って歩け」


「誤解を検知。ジョークではありません。本気です。」


 この世界は本当に広い。今までは知らなかった事を沢山知る事が出来た。


 俺の国だったサンバークでも奇人変人は少なからずいて、国を好くするため矯正して来た。それがまさかあいつらより上がいるとは驚いた。


 世界は頭のおかしい連中が多すぎる。そりゃこんなのが蔓延っていれば喧嘩も起きるし争いにもなるだろうな、全員俺みたいになれば平和になるのに。


 平和は良い、静かだから。


 全くこの修正対象の多さを見ると、実に嫌になる。


「あなた様?」


「……アザレア? ……何でお前……」


「えぇ、あなた様の大声が聞こえて来たのですから、それはもう飛んで来ますわよ。あら、その方は?」


「始めまして。メイドを勤めております、GM-3と申します。どうぞお見知りおきを。」


「ご丁寧ですわね。アザレアと申します、よろしくお願いしますですわ」


 よろしくしている場合ではない、今すぐに聞きたい事があるんだよ。


「アザレア……、お前もしかして、この城の道を知っているのか……?」


「え? えぇ、勿論」


「勿論……? 知ってて当たり前って事か……?」


「えぇ、知らないと直ぐにあなた様の元にいけないですから」


「……だったらお前、何故俺に全ての場所を教えなかった……?」


「場所です? どこかと聞かれたら速やかにどこでもお教え出来ますわよ、側近として当然の事ですわ。どこに行きたいのです?」


 ……どこに、行きたいのか……? 何も状況を理解していないのか……? 見ただけで、何をしたいか読み取れないのか……?


 全然自分の立場理解していないゴミが悠然と語りやがって……。


 何が当たり前だ……。


「…………お前も、俺を舐めているのか……」


「え? 何ですの?」


「どこに行きたいだ!? そんな事も言わないとわからないのか! 俺がどこに行きたいか、何をしたいか一字一句言わないと伝わらない事なのか! 場所を知っているくせに来るのが遅い! 状況を飲み込めず何を探しているかの説明させる手間を取らせる! 俺に城の内部を説明しておかない! 何の為に側近だ! 何の為のお前だ! それくらい事前にしておけよ! そのせいで俺は途方に暮れる事になったんだぞ! 何だよ糞の役にも立たねぇじゃねえか! お前の立場を教えてやろうか!? 上に仕えるだけで一生を終える負け組みだ! そんなので生きてて恥ずかしく無いのか!?  自分がゴミだと自覚していないのか!? そんな惨めな人生だったら俺なら死にたくなるけどなぁ!!」


 どいつもこいつも舐め腐った事ばかりしやがって。こんなに明確な格の違いがあって、何故そうも不安定な接し方しか出来ないんだ。何故俺を不機嫌にさせる事が出来るんだ。


 俺が力を使えばお前らなんぞそこら辺に落ちているゴミと大差無い所まで落ちるんだぞ。価値では無く、物理的にゴミと同然の姿に変えてやる。それを種火に肉でも焼けばさぞ上手いだろうな。


 まぁゴミで焼いた肉なんぞ、そこら辺の物乞いにでも食わせるのが等価だがな。王の口に入れるなんて勘違いしてんじゃねえよ豚の餌如きが。


 いや、豚の餌ならあのポーク野郎に食わせるのがお似合いか。はっはっは! これは傑作だ! ユーモアのセンスがありすぎて溢れ出ちまう!


「わたくしは惨めで汚い人生であろうと、それでもあなた様の隣にいますわ」


「俺は必要としてねえんだよ。お前も、あいつも、そこのポンコツ鉄クズも、全て等しいゴミだ」


「誤解を検知。私の名はGM-3です。」


「どうせその名前も失敗作のゴミ三号機とかそんな意味だろ。はっ、お前にぴったりじゃねえか」


「感情ユニット、驚きが作動しました。私が三号機だと当てられた事で作動しました。」


「すごいですわ! あなた様どうして解ったのです? さすがですわ!」


「当たり前だろ。俺は才能と力に恵まれた存在なんだ、神だろうが悪魔だろうが中指を三百六十度おったてて全員糞袋に詰め込んでやる」


「わたくしが見初めただけありますわね」


「盛り上げる必要があると判断。宴会システム起動、――モード、拍手。わー、パチパチパチー。」


 俺が凄いのは全世界共通の一般常識なのだからそんな事をわざわざ言われても全く嬉しくない。スプーンを持って褒められているのと一緒だ。


 二人からの拍手だけでは足りないが、まぁ慕う気持ちがあるというだけでよしとしてやろう。


 ……そういえば会話が逸れた気がするが、何だったかな……、まぁいいか。そんな事よりも早く……、えぇ……と、……そうだ、玉座に行かなくては。


「アザレア、お前玉座の場所知ってるんだろ? 早く行くぞ、まずあれに座らないと俺の気が済まん」


「了解ですわ」


「お客様方は王への謁見に行かれるのですか?。」


「謁見も何も、……ってあぁ、お前王が変わった事知らないんだったな。俺がこれからここの王だから」


「それは偽りを疑います。玉座には既に座っている者がおり、それが王様だと判断。ポークだと予想します。」


「何ぃ!? ……何でそんな事わかるんだよ、ここからまだ距離あるんだろ?」


「えぇ、わたくしの記憶が正しければ五分以上は歩く必要がありますわ」


「私の城内の地図から人体反応を検出した結果、人だと判断しました。玉座に一人、浴槽に一人です。」


 俺達の他に二人……、一人はスノードロップだとして、もう一人……?


 浴槽と言うことは、風呂に誰か居る。仮に盗人だとしてわざわざ風呂に入るわけが無いのだから素直に玉座に向か……、いや、あえて俺達を欺くために入っている可能性も捨てがたい。


 しかもあいつは化物との混血、劣等種だ。自分が劣っている自覚があるから、一生座れることの無い王の椅子をこそこそと座っている可能性の方が高いか。


 だとしたら、風呂にいる奴が侵入者になる。


「風呂はどこだ!」


「それならそこですわ、三つ目の扉です。でも今は……、あっ……」


 殺す、殺す、殺す。俺の家に無断で入って来る様な侵入者は八つ裂きにしてからこいつも糞袋に詰め込んで、ついでにスノードロップもおまけで入れてやる。


 一つ目……、二つ目……! 三つ目!


 …………ちっ、鍵とは小癪な。篭城作戦か。……いいだろう、お前がそこまで俺に対抗して来るのならば俺も容赦は無しだ。


 ドア全体を弱体化。そしてそこから……、蹴破る!


「どこだぁ!! 出て来いやゴミがぁ!! …………あ?」


 そこで見た物は、砕け散ったドアの破片、白く濁る湯気、広い部屋の中心に一つだけ置かれた浴槽、そして見覚えのある赤い目。


 その周りにある白の眼球部分が良く見え、目をひん剥いている女が一人。湯気で全体はよく見えないが、その生意気な赤い部分だけは何度も見たあいつの物だ。


「何だよ……、お前かよスノードロップ。紛らわしい真似するなよな」


「…………紛らわしい真似って、いきなり入って来ておいてその言い草なの? ……早く出て行ってよ」


「あ? 勝手に許可も無く風呂入ってる分際で何言ってんだ? お前はいつからそこまで偉くなったんだよ? なぁ?」


「…………」


「ちっ……、お家芸かよ……。黙ってるだけじゃ誰にも何も伝わらないって早く気付け。……俺はお前如きに構っている場合じゃねぇんだよ、手間かけさせんな」


「…………どっちが悪いか、良く考えてみなさい……」


「あぁ!? どう考えって無許可のそっちだろうが!! …………あぁ、それともお前も生き埋めにしてやろうか? あの村のガキみたいに」


「……なっ!?」


「ははは!! わかりやすいな! 角が出て、目がより赤く! お前の感情が不安定なのが直ぐにわかる! その便利な機能だけは良い点だな、化物に中々良い物を貰ったじゃねえか? ……何だどうした、やるか? 王に手を上げるのなら死ぬつもりだと思ってやれよ?」


「…………もうすぐあなたは、終わるのよ……」


「あ!? 何て!? 全然聞こえねぇんだけど!? ……っていうかこんな所で時間使ってる場合じゃねえや」


 ここにスノードロップがいるなら、玉座に座ってるほうが侵入者か。


 俺よりに先に座るような奴は死ぬよりも苦しい罰を与えた上で、家畜の餌行きだ。


 みんな従えば良い。俺に付いてくれば良い。そうすれば、全ての人間が正しい道に進めるんだ。

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