捨てられていないと信じる鉄くずは誰にも拾われない
俺が手に入れたこの国、そこの正門から真反対に位置するのが王の座る玉座が置いてある城。
これからはここが俺の住まいとなる場所だ。しかしトイレの場所、寝る場所、倉庫やキッチン、挙句玉座の場所すら頭に入っていない。一体どこを通ればどこに繋がるのか、何をすればそうなるのかと言った天地万物を理解していない。
俺の空けた穴や壁を直そうとして、結局辿り着く道順がわからなかった事から今に至る。最早知っているのは出入り口と牢獄の場所だけ。
城の中に入ったのが最後だったのかもしれない。
「だとすればまずいな、これは相当面倒臭いぞ」
別に迷子と言う訳でも無い。自分の家で迷子とか知能が付いているのか疑ってしまうものだ。
つまりあの二人は迷ってしまって俺に付いて来れなくなったと言う訳だ。全くあほ過ぎる話だ。こんな部下を持ってしまったのが情けない。
最悪壁だの天井だのは破壊して進めばいいんだけど、それは最終手段として今は詮索を続けるしかない。
例えば今この横にあるドアを開くと何があるのかとか。ガキの頃はこうやって良く探検をしたものだ。
…………ガキ……、アイス……。……いや、忘れてしまおう。このドアノブと一緒に。
「……これは……っ!」
この空気の通りの良さ、掃除のしやすそうな配置、ここで落し物をしようものなら一瞬で見つかる気立ての良さ、そして何より情報量の少なさ、この部屋の良い所は探せばまだ見つかるだろう。けれどそれ以上に、不満な点が勝っている。
何も無い。カーペット一枚にベッド一個、鏡一つに小物入れ一つ。このつまらなさは何だ、まるで上品な収容所だ。こんな所で寝泊りするくらいならこんな城虫の家にでもしてやれ。
まぁこんなに広い場所なら無駄があっても仕様が無いか。
それなら隣の部屋はどうだ。
「……なるほどね」
全く同じ配置。全く同じ物。どうしようも無いほど無個性。
次も。次も。その次も。どこまで言っても個性を塗り潰したような個性ばっかり。
いっそあの豚野郎を連れてくるか、多分構造を知っているだろう。
……いや、ゴミ投げられ過ぎてあいつ自身ゴミのみたいなものだったからな、ここには入れたくねえな。王が住まう家は綺麗に使う必要がある。
っていうか何で同じ部屋ばっかりなんだよ、おかしいだろ。どういう頭の使い方をすればこんな無駄な事を思いつく、全部無駄だろ。
この部屋も。あの部屋も。その部屋も。無駄無駄無駄。この部屋だってどうせむ……。
「うおおぉう!? 」
誰かいる……?
電気も付いていない真っ暗な部屋で、一人分の影。
この城の生き残りか、それとも何かしらのもっと恐ろしい何か……。とは言っても俺に怖い物なんて存在しないのだから恐ろしくと言ったってたかが知れているのだけれど。
「そこのお前動くなよ! お前だよお前、大人しくしろよ? でないと、どうなるかわからんぜ……?」
天下無敵のこの力が幾千万の相手だろうと返り討ちにして見せるだろう。つまりはそう言う事だ。
この城には三人しか居ない筈だからな、少なくとも怪しい人物だと言う事はわかっている。不振な動きを見せれば即座に拘束をして無賃労働をさせてやるのだ。
「まずは名を名乗って貰おうか」
「…………」
「……名乗れと言った筈だが……?」
「…………」
ほう、これは中々度胸のある盗人が入って来たな。名を名乗らない顔も見せない、なんなら一切動こうとしない肝の据わった奴。
これは相当の場数を踏んでいるのかもしれない、一瞬でも目を離せばその隙を突きすぐさま逃げ帰る事だろう。
それはそれで構わないが、王が泥棒に入られた上に逃げられたとなると面目も丸つぶれだ。生け捕りにしてこいつもみせしめの刑にしてやるのだ。
「……怪しい動きをすれば即座に殺す。盗みに入るなら、命の一つ二つ捨てれる覚悟は勿論持っているよな?」
「…………」
「…………」
「…………」
…………。
あぁ、なるほど。どうりでおかしいと思った。全く動きも喋りもしないから人形みたいだなこいつとは思っていたんだ、最初からこうして電気を付ければよかった。
こいつ、あの豚野郎の下で働いていたメイドか。
機械なんだったな、目開けたまま直立で立っているのはかなり不気味だが、動かないという事は壊れている?
まぁまた爆発されても腹立つし、オンボロはこのまま放置でいいか。どうせ役に立たんだろう。……と思ったけど、道が知りたいと言う今の現状をかんがみれば丁度良いタイミング。
全ての城の事を聞き出し把握した後、破壊すれば万事解決。
さて、起動スイッチはどこだ?
「緊急防御システム、起動します」
「あ?」
別に何もしていないのに勝手に起動した。別に何も望んでいないのに防御システムが発動した。
この気持ちは何だろうか。
「熱反応、生態反応から見て人と断定。記録照合……、該当無し。不法侵入者、及び不審者と断定。排除します」
「……は?」
「自衛兼排除武装腕部多弾頭ミサイル。標的にロックオン。標的、不法侵入者。発射。」
「はぁ!?」
片腕の上腕部中心が上に開き、そこから複数のミサイルが発射。煙を撒きながら素直に飛んで来るお構い無しの殺傷兵器は、何も考えていない所があいつが作ったんだと思い知らされる。
毒だの爆弾だのミサイルだの人型機械だの、面倒臭い事この上ない奴だ。
そういえばあいついつの間にか脱走してたな。縛り付けられた状態で逃げるとはとてつもない根性だ。
まぁ、どうでもいいか。
「異常事態発生。ミサイルの無効化を確認。」
ごろごろと坂道を転がるおにぎりの様に地面を歩くミサイル達。噴射口を弱体化してそもそも飛ばないようにしただけだが、これでどうにかなるのだから大したものでもないだろうな。
「他武装を検索。両腕部多弾頭ミサイル――、残弾無し。掌部ビームサーベル――、エネルギー無し。肩部スパイクショルダー――、損傷。脚部レーザー装置――、起動せず。武装確認失敗。保護装置起動、緊急脱出します。…………腰部ブースター反応無し。緊急脱出失敗。異常事態発生対処プログラム検索中……少々お待ち下さい……」
えぇ……、何こいつ……。
何が来るかと思えば付いてる武装あれで全部かよ……、しかも大体使い物になってないじゃねえか……。さてはポンコツか?
「対処プログラム検索完了。拘束させていただきます。」
「拘束? 俺を? はっ……! ……かかってこいよ産廃野郎!」
「侮辱を検知。」
結局普通に走って来た。無表情のままガッシャガッシャ音を立てながら、ついでに早くも無い速度で走って近づいてくるのはさすがに兵として失敗作なのではないか。そんな気がしてならないが、何をしてくるのかもわからない以上このままって訳にもいかない。
このミサイルでも投げてみたら、以外と何とかなったりしてな。
「ほら、プレゼントだ」
「ミサイル接近中――、自らの兵装なので問題無いと判断。このまま接近します。」
「は?」
適当に投げたミサイルなのだがそのまま接近してきたメイドロボに命中、爆発した。
一体何やってんの……? と聞きたくなる様な思考回路が壊れているのではなかろうかと疑っても仕方が無いくらいに、頭のおかしい行動にはさすがに面食らう。
こいつは避けるという判断すらしなかった。
「緊急事態発生。緊急事態発生。緊急事態発生。」
「あぁ、異常事態発生だな……」
「損傷箇所検索。脚部――。腕部――。一部衣類――。どれも軽損です。問題ありません。」
「お前のご主人様はもうここにはいないだよ。警備する必要も無いだろ、止まれ」
「確かにあのおでぶさんはこのお城に見当たりませんね。お出かけでしょうか?」
「……お前が何でこんな所で停止していたのかわかった気がする、良く処分されなかったな」
「失礼致しました。お客様と言う事ですね」
「客じゃねえよ。この城の持ち主だ」
「いえ、私の認識ではポークがこの城の持ち主です」
「お前、主人の事ポークって呼んでるのかよ」
「あ、その言い方は止めろと言われていたのでした。失礼致しました。」
「いやどうでもいいけどさ……、とりあえず玉座に案内しろよ」
「それは出来ません。あの場所はポ……、ご主人様の許可無しではお通し出来ない事になっているのです」
そこだけはしっかりしてるんだな。まぁそんなほいほい案内してたら即刻解体されてただろうし、自制心が働いたか。今でさえグレーゾーンだからこれ以上はロクな情報は出てきそうにないな。
……いや、ちょっとこれだけ試してみるか。
「玉座までとは言わないからさ、玉座の間の前にあるドアまで案内してくれ」
「かしこまりました」
うわぁ……、マジかよこいつ……。機械って皆こう頭のイかれたポンコツなのか……? だとしたら人間は最高の種族言うのは間違い無かった様だ。
「お前良く捨てられなかったな」
「当たり前です。私は完璧なメイドです。証拠にこの部屋を二年と三ヶ月と二十三日、十三時間守る事に成功しました。この偉業を達成したメイドは私以外にいません」
「完全に捨てられてるな」
「捨てられていません。私は信頼されここに置かれているのです」
機械だし疑う事を知らないだけか、幸せな事だがなんと愚かか。惨めで無様で役立たずと言う事を一生理解出来ない可哀相な鉄くずって所か。
最後に城の内部を吐かせてから破壊すれば、こいつも本望だろう。俺が同情して救ってやるよ。
「それならちゃんと案内してくれよ?」
「勿論です。私は完璧なメイドです」




