熱 と 冷
俺は人々から歓声を貰うに相応しかった。
死ぬ運命にあった全人類の軌道を修正し全人類を助けたのだから全人類から感謝と感激と感動を受けても申し分無い。
目の前の群集共は城の最上階に立つ俺を見上げ、歓声を上げ狂喜に満ち溢れた笑顔で喜びを表現している。その姿はまるで屠殺を免れた動物の様に見えるがれっきとした人間である。
これは何の苦労疲弊も無いし、爆発や毒なんて全く無く無事に国を手に入れる事の出来た者への褒美とも言えるだろう。
これで新たな王となる為の式典は済んだ。全く面倒臭いのなんのとやってられないが、その面倒臭さもこうして城に立つ事の出来た賜物だな。
ふっふっふ……、くくく……、はっはっはっはっは!! はーっはっはは……!
「あの、それで前任の王様はどうされたのです?」
「…………あ?」
「あの後無抵抗の元王様を縛って牢に入れましたわよね?」
「……あぁ、あの脂肪しか取り得の無い豚か……」
悦に浸っている人間を引き上げたと言う罪深さをこのですわよ中毒者に教えてやろうかと思ったが……、まぁ今回は無礼講で許してやる。
あまりにもあまりある事を聞いて何になると言うのだ、それは何の得にもならないし何の教訓にもならな……いや、町を見回って尊敬と敬意の黄色い視線を浴びる遊びをたしなむついでに見せてやるか。
「そんなに気になるなら今から町の広場に行くぞ。……一応言っておくが、笑い転げても知らねえからな?」
期待は十二分にしてくれて構わない、して頂こう。俺もこれを考え付いたときは笑いのセンスが光り輝いたと思い至ったね、この常人とは掛け離れた才能が俺の持ち味なのだとしみじみ思う。
それでは軽快な足取りを足枷に、町に出向こうか。
――――――――。
町は式典後の祭りで大変賑わっていた。踊る阿呆に飲む阿呆がそこらかしこに散らばり、この聖誕祭を楽しんでいるようだ。
新しい王である俺の為の祭りをしているのだから、そこに主役が来れば尚盛り上がる。頭を下げる者。挨拶をする者。視線を送る者。さまざまな方法で俺にアプローチを施してくれる。
それも当然で、命を救った恩人に感謝しない者などいない。俺は間接的にと言えど全人類を救った実績があるのだから。
「あなた様、凄い人気ですわね」
「誰だと思ってんだ? 当たり前だろ」
「正直ここまで綺麗に国を手に入れるなんて思いませんでしたわ、多少のトラブルがあったとはいえ」
「あぁ、そりゃああれだけの毒を一人で消したんだ。尊敬と敬意と信仰を浴びるのは最早宿命だな」
「…………あなた一人の力な訳が無いでしょう……」
「あ? お前何か言ったか?」
「……何でも無いわ」
アザレアとの会話に入ってきたスノードロップが何か言ったかもしれないが、群集で上手く聞き取れなかった。
喋るならもっと聞き取れる様に喋れと前も言った筈だがな、学習能力皆無か?
「お前なぁ、会話をするつもりなら「何でも無い」で片付けてんじゃねえよ。いちいち聞き返す手間と時間を考えたらどれだけ無駄な事か、少し考えたらわかるだろうが。報告と連絡と相談を一個に纏めてやろうとするからこうやって無駄な時間が生まれて、俺だってこんな労力が生まれる原因となっている。これからは国を束ねるのに膨大な作業が発生するって事を理解して物事に取りくまねえと滞りと言うものが各所で起きて作業が詰まり、その詰まりが重なりいずれ重大なミスに繋がるんだと理解しろボケが」
「あなた様、足に……」
「あ!? 何だよ!? てめえも良く聞こえねえんだよ!」
「足に……、子供が……」
そう言われて、足に冷たい感触がある事に気が付いた。
足にはとても冷たい何かと、蚊がぴったりと張り付いていた。
「あの……、ご、ごめんなさい……」
そこには子供が地べたに座りながら謝ってきた姿と、王の足の太もも辺りに付着したアイス。
少しの沈黙と同時に、べったりと衣服にへばり付いた庶民の食べ物が重力に負け、ゆっくりと地べたに落ちた。
子供との接触で起こった事故だった。
「す、すみません!! この子がとんだ無礼を……!! ほら、謝りなさい!」
「謝ったもん!」
「もう一度! しっかり謝りなさい!!」
「謝ったよ……、謝ったもん!! ぅわあぁぁぁあああああああああ!!」
「あ、あの本当にすみませんでした!!」
…………この糞ガキが。もっと誠心誠意謝れよ、誰に何したかわかってているのか。
「大丈夫ですから、頭を上げて下さい。ユリー・フレゥール、問題無いわね?」
「スノードロップ……、勝手な事をしてんじゃねえよ……、てめぇ……」
何が問題無いわね、だ。大有りだ。お前の勝手な行動も、このガキの不手際も、足に残る冷たさも全て。
少し教育が悪いようだから、俺が責任持って育ててや……。
「あなた様、ここは穏便に済ました方が良いですわ。回りに人もいますし、今問題を起こしては今までのが全て水の泡となりますわ」
「…………指図するな」
どいつもこいつも勝手な真似をしやがって、そんなの俺が一番良くわかっている。ここで怒ったり反撃をしようものならただちに信頼は地の底、まだ信頼され切っていない現状だとそれは尚更。
ここで許せる者が王になれる。にこやかに笑って許せる者が上に立てる。こんな反逆罪同然の行為をされても、何もせずに立っているだけで良い。ただそれだけで、解決する。
心を殺せ。感情を消せ。怒りを見せるな。
「……大丈夫か? ほら、立てるか? どこか怪我してないか?」
「う、うん……」
立たせる為に子供に近づき、他の奴には聞こえない音量で告げる。
「身をわきまえないと殺すぞ。……家族ごとな」
泣き止んだ。
さっきまで騒音発生装置よろしく泣き叫んでいた動物がぴたりと止まった後、俺と少し目が合い、また直ぐにそらした。
ガキといえどこれがどういう状況か飲み込めている所は、野生の本能と言えるだろう。成長と共に消える野生は、幼い分大人よりも危険を察知する能力に長けているか。そこだけは褒めてやろう。
頭を下げながら不貞を働いた生意気な親子は、へこへことどこかに去っていった。
「…………正直、意外だったわ。何もしないと言うのは」
「それはそうですわよ、何せ王様なのですから。そうでしょうあなた様? 顔が怖いですわよ? 足、拭きますわね」
「……とっとと行くぞ」
ここにいたらストレスで髪の毛が抜けそうになる。
底辺に甘んじて居座り向上心の欠片も無い、王を立てる事だけにしか存在価値の無いまるで置物の様な国民に出鼻を挫かれたのだ。あのガキは運が良かった、回りに誰もいなければあの爆破魔と同じ運命にしてやったのに。
何じろじろ見てんだよ国民風情が、お前らも罰を下してやろうか? お前ら命の一つなぞそこら辺に落ちている石ころ同然だ、俺がちょちょいとすれば消えてなくなる無価値の安いモブ共が。
……あぁそうだ、町の中央広場に行くんだった。これから面白い物が見れると言うのに全く興醒めな話だ。
あのガキもこれ以上俺の前に現れる事は無いだろう。ゴミに当たったと思って、切り替えて行くか。




