一昨日から二日間の出来事
それぞれは、それぞれの思った事を言う。
「ま、町の人が苦しんでる……、は、早くしないと……、急いで、助けないと……」
「その体じゃ流石に無理ですわよ……」
「アザレア!俺は置いていけと言ったんだ! 何故こいつらを連れてきた! これは重大な命令違反だぞ!」
「はっはっは! 見てくれ旅の方達、私の積み上げた国が消える姿を! 国民が苦しむ姿を! はっはっは!」
無事広がる毒を逃れ、城は出ることが出来た。アザレア持ち前の運動能力が役に立ち、三人を抱えるというリスクを考えないアホな方法での脱出で。しかも城の最上部に逃げるという抜かりの無いアホっぷりも見せてくれる辺りは俺との格の違いを見せ付けてくれる。
「毒が充満しだしている……、このままじゃ皆……、皆死んでしまう……」
スノードロップも毒を吸ったのか意味のわからない事を言っているのが気に障る、みんな死んだから何だと言うのだ、それで死ぬ様な奴はどちらにしても遠からず死ぬだけの話だと言うのに。
いや、それよりも。
「そんな事はどうでもいい! てめぇら! どこに行っていた! 俺を瓦礫で寝かせてまでどこへ行っていた! アザレア、答えろ!!」
「はい、いきなり地面が割れるものですからスノーさんを……その、落としてしまって、それにあなた様の力で体が上手く動かなかったので、少し時間がかかってしまったのですわ」
「言い訳をするな!! その一つの勝手な行動が俺を傷付けるとわからないのか!」
「ごめんなさいですわ」
「ごめんなさいだぁ!? その程度で許される事かよ! お陰で俺も毒を吸ったんだぞ!! どれだけ重大な話かを理解し考え返答しろ!! ……間違えば命は無いと思えよ?」
「はい、処罰は後程受けます。ですからまずはあなた様の吸った毒を散らす事を優先しないと。……この毒はここの王様であるあなた自ら作ったのですわよね?」
話を逸らしやがった、自分の立場が危ういとなると逃げる弱い奴。
「あぁ、私が長年の研究と愛娘に対する様な愛情を込めて作った一つの傑作だ、素晴らしい拡散力であろう?」
「見事ですわね。でも、この様な化学兵器を産み出せる程の人物です、解毒薬も作ってあるのですわよね?」
「勿論、ここに二本とある」
無駄な贅肉の付いた懐から二本の小瓶を取り出し見せつけるようにして言った。毒の禍々しい緑色とはうって変わって、澄んだ水のような透明感満載の青い液体だった。
なるほど、確かに解毒薬ぽい。
あるなら最初から出せってんだよ役立たずが、頭にまで脂肪が回ったか。
「二本……、それだけでは町の人全員を救えない……、もう少しあれば」
スノードロップの割り込み芸を炸裂させて会話に入っていった。
「もう少しも無い。決戦兵器と言うのは文字通り決戦、侵攻してきた相手諸とも全てを消して、私も死ぬつもりの兵器だ。これからこの解毒薬も効かなくなる毒を開発しようとしていた所だ」
「開発って……、あなたは何を考えているですか! こんな危険な物を作って! それで皆を苦しめて! 何が目的なんですか!」
「ただのロマンだ。男とは上を目指す生き物、自分の作った物に自分が越えられないなんてそんな恥ずかしい話は無い」
「ただのロマンで、大量に人が死ぬ事にになんとも思わないのですか……?」
「元々使うつもりも無かった代物だ、何とも思わんよ。しかし、ここまで上手く行ったのだから特に言い残すことも無い」
「残してもらわないと困ります、小瓶二つでは二人しか救えない」
「私の作品をみくびるなよ小娘、広がりきっていない今の毒なら二、三滴含めば回復もする」
「それは本当なの!? だとしたら一本で……二百人は救える!」
会話なげぇなこいつら、この間に毒が広まってることわかってるのかね。俺はもう問題無いから別にどうでも良いけど。
「飲んだところでその場しのぎにしかならんよ、しかも国民は万といる、どうせ足りん。皆で大人しく死のうではないか」
「それでも、無理だとわかっていても、私はやらなければならないの。目の前に苦しんでいる人がいれば救うのが人のやるべき事です」
聞き捨てならないセリフが飛んできた、それは間違っている、根本的な所から。
「お前は人じゃ無いだろスノードロップ、人より下だ」
事実を言われた本人は赤い目をひん剥いてこちらを見てきた。
「……またあなたはそうやって馬鹿にして!! そんな状態で無いことはわかっているでしょう!? 今はこれ以上被害が広がらない様に最善の策を考え……! …………その手に、……何を持っているの……? ま、まさか……それ……」
俺の手に持っているものに対して追及をしてきた。論破されたからって論点をずらすなんて情けない。
それとも俺が何を持っているか理解も出来ないほど狼狽しているのか?
「見てわかるだろ、解毒薬だ」
「ひ、一人で一本飲んだの!?」
「うるっさ……、王の俺が飲んで何が悪いんだよ、アホかよ」
「さっきの話聞いていたでしょう! それ一本で何百かの人を救えるの! それをあなたは……! 自分勝手な行動で……!」
「いや当たり前だろうが、下の者は上の者の為に身を粉にして犠牲となる。常識だ」
「どこの常識よ! あなたは今二百人の人を見捨てたのよ!! その自覚があ、ゴホッ……! ゴホッ……!!」
何故俺は責められているんだ、上が生き残るのは当たり前の事だろう。この状況で混乱しているのだろうけど八つ当たりは良くない。
「避難勧告をしないと……、町の皆に、逃げて貰わないと……、うぅ……、全部、私がやらないと……」
「避難勧告? いくら逃げようともう間に合わんよ、後はじっくり全世界の生物が死滅するのを待つだけだ」
「そうですわね……、もうこの広がり方はどうしようも無いですわね……」
スノードロップ、豚、アザレアの順位それぞれ愚痴をこぼした。一人を除いて完全に諦めている。
無理も無い、俺みたいに弱体化で毒を防ぐ方法も無い連中達にはどうしようもない状況だろう。このまま死んでいくのが自然の摂理。
しかし、俺だって折角見つけた最良の土地で作ってある国を見捨てる訳にも行かないのだ。
「俺がやってやるよ。俺が毒を蹴散らせば、名実共にこの国の王だろ?」
「それが出来るのなら……、こんな事にはなっていないわ……」
「うるせえよ、そこで俺が神に選ばれた人間だと言う事を見ておくんだな劣等種。……おい肥満体、この毒より解毒剤の方が強いんだな?」
「あぁ、だからこの毒は欠陥品とも言える。故に、それすらも凌駕する最強の化学兵器を作ろうとしたのだ」
「そこまで聞いてねえよ。今どこまで広がっている?」
「ふむ……、もう少しでを飲むだろうな。しかしこれ以上の毒となるとどういった調合をすればいいのか悩むところだ」
だから聞いてねえって。
……まだこの町に収まっている範囲なら問題無い。全人類はいずれ俺が収めてやる、こんな変な気体に先を越されてたまるかよ。
体重を弱体化して……、空気抵抗も弱体化しないとな、それと風で飛ばされないように風も抜かりなく。これで準備完了。
「さてと、やるか」
城の上から更に上にある町の上空に、自らの体を飛ばした。何度やってもこの浮いた感覚には慣れない物である。
空から見た町の様子は中々に悲惨なものだった、悲惨と言うか汚いものだった。ゲロ吐いてる奴がいるわ、頭抱えて転がってる奴がいるわ、発狂してる奴がいるわ、自暴自棄になり暴行を行ってる奴がいるわで大盛り上がり。
なんならまだ上空から覚めやらぬ事の無い一夜城の見物をしていたいところだが、国民に死なれても困るし、割かし面白かったからそろそろいいか。
さて。
「聞け国民!」
町全体に響き渡るように、声を大にして言った。
結構の人数が空を見上げ俺を見た。このくらい注目されれば後は伝播され全員が見るだろう。
「みなも気付いている通り、この国は今毒に犯されている! 大の男であろうと数時間で死に至る猛毒だ! このままではいずれ確実に死ぬだろう、……だが! もう安心して頂きたい! 俺が、ここの王になるこのユリー・フレゥールが! お前ら国民を救ってやる!」
下々は誰も、何も言わなかった。
何の避難も飛ばさない辺りは評価しよう。口を開けてアホ面を噛ましているのは気になるが……、まぁいいか。
「ど、どうやって救うって言うんだ! お前一人で!」
ん? いや何か言ってるな、前言撤回。時間差とは考えて無かった、そうか常人は理解するのに時間が掛かるものだった、考慮していなかった。
そしてそれは瞬く間に伝播する。募った不満と、積み重なった不安。
「てめぇ一人でどうにか出来るなら誰も苦しまないんだよ!」「大体誰だお前!」「ぶち殺すぞ! 降りて来い!」「お前じゃねえのか毒撒いたの!」「ここに王なんていらねえんだよ!」「そうだそうだ!」「消えろ! ゴミ! カス!」「そのまま落ちて死ね!」
だのだの罵詈雑言。後は混じってよく聞こえなかった。
まぁこうなるだろうとは予想は出来たがな。俺が予想していなかったお前らまずかったぞ、うっかり町ごと潰してしまう所だ。
「てめぇいい加減にしろよ! 俺がぶち殺してやる!! 降りて来い雑魚が!! …………あれ?」
人々を黙らせる手段は前の俺の国で学んだから大丈夫、心配しなくても大丈夫。
まずこうやって一番いきの良い奴の体全体を弱体化してやるんだ。そうしてこの空の瓶をそいつに落としてやる。
上手く当たるかな?
「え……? 瓶……?」
あ、外したか。もう少し右だったな。
まぁこれはこれで良いか。
「お前の体を弱体化してある。その状態で空から落ちた瓶が当たれば、どうなるかわかってるな? まぁ、腹くらいなら貫通していただろうな。 ……自分の体を大切にしたいのなら黙っとけ」
「そ、それが何だ! そんなトリックで俺を脅した所で何の統制にもならないぞ!」
また泣き出してしまった。
それに続く様に、再度吠え出す動物達。
「その程度が何だって言うんだよ!」「こいつが勝手に足を滑らしただけだろ!」「そうだ! お前なんかどこの馬の骨かわからない奴に何が出来る!」
何が出来る、か。何でも出来るからそんなぼ考えた事も無かったな。
まぁあえて言えば。
「お前らを跪かせる事が出来る」
人とは不思議な物で、言葉と行動が伴っていればそれ以上何も言わなくなる。
事実この町全体を跪かせてしまえば、結局誰も何も言わなくなった。
統制とはこんなに簡単な事なのに、何故誰もやらないのか謎である。
「俺がこれからはここの王だ! よろしく頼むぞ、国民」
それからは町に広がった毒全体を弱体化して、見事町を救って見せた。広がり方が激しいだけにかなり苦労は強いられたがやはり俺が天才で選ばれし人間なのだから不可能ではなかった、完璧な人間は完璧にこなすから完璧なのである。
弱体化しただけで消える毒など放っておいても良かったのではないだろうかと思いもしたが、まぁこれで無事国が手に入ったのだから良しとしよう。
あいつらも本当に助かるなんて思っていなかったのだろう、俺が毒を消して見せたら歓喜を起こしたのだから全く大変だったものだ。
地位と名誉と、勲章と慈悲と王冠とを纏めて得る事の出来た最高の二日間だった。
明日は国立式を執り行わなければいけないのだから、忙しいものである。
あの豚野郎に対する罰も考えて置かなければな。
順風満帆。綺麗に物事が収まった。国民に愛され、回りに尊敬され、これからは幸せで静かな生活が俺を待っているだろう。
あぁ、忙しい、忙しい。




