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ローリング・クオレル

 聞き逃しはしなかった。


 メイドの言っていた独り言「探し物は下を探すと見つかる」。それでわかる事は、つまりここの王は城の下のほう、地下に逃げたのではないか。


 そう思ってならなかった。

 

「なんで、あの方は爆発してしまったんでしょうね?」


「知らねえよ、ここの奴らは爆発癖でもあるんだろ」


「わたくしが思うに、あのメイドさんは見つかったせいで自爆したのだと思いますわ。安全装置か何かが働いて、それで……」


「だとしても、今更どうこう言ったってこれ以上情報を得る事は出来ねぇんだから諦めろ」


「いえそう言う事では……、あら、スノーさん寝てますわね」


「はぁ? 起こせよ。一人だけ休憩してんじゃねえって」


「大分重症ですし、このまま寝かせておいて上げましょう」


 ……まぁどうせその状態じゃ役に立たねぇしな、回復したら今回のツケを首輪巻いて存分に働き回って貰おう。


「それよりこれ以上下に行く道、見当たりませんわね」


「見当たらないじゃねえんだよ、探せ探せ」


「でも、無い物は無いですわよ?」


「あのなぁ、物事はあるか無いかの二択で語られるんだよ。探さなくなったらそれは無いと同義、探し続けるならそれはあるも同義、つまりは見つける事が出来なければお前の命が危ないぞって話だ」


「なるほど。さすがわたくしが見初めたお方ですわ、この事を教訓に生きて行きます」


 結構の時間探したが、ここまで見つからないとなると何かしらの隠し通路で塞いでいるとしか考えられない。それらしい場所もみつからない以上、地下が存在しないとも思い難いが。


 ……もしかして、あのメイドに騙されたのか? 意味深な事を言って俺を誘導する為の罠を張っていた? いや、あんな拷問紛いな事をされて口を割らない奴はいない、現に今までの奴らは全員が全員吐いて来た。 ……だとしたらこれ以上正攻法で探していても時間の無駄か。


 正直これはあまりやりたくは無かったが、真実を知る為には仕方が無い。あの豚を罰する為には仕方が無い。


 もうここでいいか。この辺りで……、…………あ、そうだ。


 面白い事を思いついてしまった。これは爆笑間違い無い。……ははは! 想像しただけでも面白い。地位と力以外にもこんな笑いのセンスがあっただなんて、全く俺も罪な男だ。

 

「おい、アザレア。ちょっとそこでジャンプしてみろ」


「え、ジャンプですか?」


 スノードロップを担いだままぴょんと一回、軽々跳ねた。


 しかしその着地と同時に、面白い事が起きた。


 なんと不思議な話だが床が壊れ、下に落ちたのだ。


 いや、落としたのだ。


「……はっはっは! 落ちやがった! ばっかじゃねえのお前! 引っ掛かってやんの! ははははは!! 体重重いんだろ!! ダイエットしろダイエット!! ひひひ……馬鹿が……。はは……、おい、下はどんな感じだぁ?」


「う~ん、特に変わった雰囲気はありませんわね、もう少し下に行かないと」


「…………うわ何お前、つまらねぇ……」


 何事も無かった様に立ってやがる。落ちる前と寸分変わらぬ姿で。


 もう少しリアクションとか出来なかったものかね、「きゃあ」だの「うわ」だの一言も無いのはつまらねえよ。王を楽しませるのも下々の仕事だろうに、こいつらはもう少し自分の存在価値を自覚をするべきだな。


 はぁ……、……何が面白かったんだか、流石に冷めるわ。


 ……俺も降りるか。全くアホらしい。こいつのせいで笑いの渦が渦巻かなかったわ。


「お前さぁ、落ちるにしても何かしろよ。何もせずに落ちるって、つまらなさ過ぎてぶち殺してやろうかと思ったぞ」


 乾いた感情を足元に込めながら、抜けた床に足をかけ降りようとした。


 今にして思えば、このまま飛び降りて衝撃を弱体化すればそれで良かったのに素直に降りようとしたのが間違いだった。


 信じたくないが、こんな事はあってはならない事だが、現実に起こってしまった。


「お……、おお!?」


 足を踏み外した。


 そのまま百八十度を八回経由してから転げ落ち、上手く受身も取れず、弱体化も完璧に出来ず、体に走る少しの痛みに欠落したプライドが覆いかぶさったのを感じた。


「いってぇ……」


「あなた様!? 大丈夫です!?」


 …………ちっ。糞が。馬鹿にしてんのかよこいつ、上から見下ろしやがって。


「お怪我はありませんか? 何かあるといけませんから立つのはゆっくりで構いませんから……」


 糞が。


 糞が。糞が。糞が。糞が。


「えっと……、今は手は使えませんが……、わたくしの服を掴んで杖代わりにして下さいませ!」


 俺が杖が無いと立てない様に見えるって事か? それは随分と下に見られてしまったな。


 はっはっは……、いやぁ参った。

 

 本当に。

 

 俺を舐めてるらしいな。 


「……アザレアァア!! どうして俺を受け止めなかったぁ!!」


「いえ、スノーさんを抱えたままでは受け止める事なんて……」


「そんなのは捨てておけばいいだろうが!!」


「それは出来ませんわ。スノーさんはわたくしの、お友達ですもの」


「そんな物より優先するべき事があるだろうが!! お前は俺の何だ!? 俺はお前を使ってやってる身だぞ!? 俺はそのボロ雑巾より下かぁ!?」


「ここにボロ雑巾なんてありませんわ。この方はスノードロップさんですわよ?」


「お前がそいつを捨てて俺を助けていれば!! こんな事にはなってねえんだよ!! 痛みを味わう事も無かった! 大声も出していなかった! 全て上手く行っていた!! これもそれも何もかも! 全部お前の判断ミスのせいなんだよ!! お前が俺を貶めたんだ! お前が俺のプライドを踏みにじったんだ! お前が俺を!! 殺したんだよ!!」


「ごめんなさい」


「あ……?」


「わたくしの不手際で手間をかけさせてしまって、ごめんなさい」


ごめんなさい……? ごめんなさいだと……? 殺されても文句が言えない様なことをして、ごめんなさいで済まされるとでも……?


 どこまで、俺をコケにすれば気がすむんだこいつは。


 どこまで、俺に手間を増やさせるつもりなんだこいつらは。


「……アザレア」


「……わかっていますわ。どうぞ、わたくしは大丈夫ですので」


「……あぁ、そうかよ。…………そうかよっ!!」


 握った拳を、目の前で澄ました顔をしている生意気な馬鹿の顔に下してやった。


 その馬鹿は殴られた反動で顔を横に反り、前髪が目に被さる。


 わかっていない馬鹿な脳足りんには制裁が必要なのだ。こういう事から変えていかないと、改革なんて出来やしない。


 なめ腐った奴の考えは全て俺が訂正して、正して、導くのだ。王である指命を果たすために。


「……これでわかったか、俺が王だって、自覚出来たのかよ?」


「はい、あなた様は王であるべき存在だとわたくしは信じていますわ。ですからここにいるのです」


「わかってねぇんだよ!! だったらそんな物捨てて! 何より真っ先に俺を助けろ! 何故そっちを選んだ! 何故俺を助けなかった! 答えろアザレアぁ!!」


「スノーさんの方が、重傷だったからですわ」


「……ふっざっ、けるなぁ!!」





 その後の事は、正直あまり覚えていない。


 何発か顔を殴ったのは覚えている、殴られていた側も特に何も言わなかったのも覚えている。痛そうにしていなかったので弱体化した上で殴ったのも覚えている。俺が覚えていないのは、いつのまにかよくわからない場所にいた経緯だけ。


 そこは暗く、回りを見渡しても良く見えない。上から降り注ぐ光だけがこの空間にあるだけだった。

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