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機械仕掛けの押し問答

「私を見ろ……、ユリー・フレゥール・サンバーク……!」


 顔の隣を掠める様にして、スノードロップの拳が空を裂いた。


 顔の中心にしわを寄せ、些か年寄りの様なしわくちゃな顔をしながら俺を睨んでいるように見える。その顔はどこか見覚えがあり、初めて出会った時と同じみたいだった。


 角は生え、目は更に赤く、オーガの臨戦態勢を強く前面に押し出している見た目をしている。それに加えて爪まで伸びているのは今までとは違うところか。さっきまでボロボロだった体の傷も、見た所見受けれない。


 ……それよりも。


「何のつもりだスノードロップ……? 誰に対して、どういう意図でやっているのか、一応聞こうか?」


「あなたは人を傷付ける事に、何の感情も湧かないのか!」


「俺が聞いてんのはそういうんじゃ無ぇんだよなぁ。……誰に向かって拳を降ろしたのかと聞いている」


「簡単に手をかけて……! 相手の事も考えず……! ……まずその人から離れろぉ!」


「はっ。 俺の事も考えず求めてばかりで、言葉通りにする訳ねえだろが、この劣等種が」


「……離れろぉおお!!」


 人では到底出せない様な踏み込みを見せた。


 踏み込むだけならば、俺の力でどうとでもなる。脚の筋力を弱体化させれ……。


「させるかぁああ!!!」


 石。投石。


 既にこっちのやることを読んでいるかの様に見計らった行動に少し驚いてしまったものの、こんものは硬度を下げてしまえばいい。


 しかしこいつらは良く石を投げるな。投石大好きか。


「食らえ化物!!」


 横に現れた。石は囮で俺を誘導する為か。


 全く実に浅はかで片腹痛い。やる事が完全に子供のいたずらだ。


 劣等種のやる事なぞ、見え見えである。


「頭上に気を付けろよ化物。いや、獣か?」


「な……っ!?」


 壁に立て掛けてあった剥製が、スノードロップに向けて落ちた。


 横から来るだろうと思ってあらかじめ接地面を弱らせておいたのだが、こうも上手く引っかかるとは。人様の領域に入ってきて易々罠にかかる所が何とも獣らしい。


 そう思いながら無様に転がっている獣を見ていたら、剥製をどかしながら立ち上がった。


「くそ……! こんな物で!!」


「そんなものでもお前には勿体無い代物だ、剥製作るのだって時間かかるんだぜ? まぁ俺は作った事ねえけど」


「でえぇやああああ!!」


 今度に投げてきたのは石ではなく剥製。人の大きさ近くあるそれは、そこら辺の石とは比べ物にならない立派な質量兵器だった。そんなのが化物級の腕力で飛んでくるのだから、溜め息を吐きたくなっても仕方が無い。


 こんなもの質量が無くなれば、ただの紙で出来た塊に過ぎない。


 本当に面倒臭い事をしてくれる。片手で弾き飛ばすのだって労力がいるのに。


「大丈夫ですか? 指以外にどこか怪我は……」


「いえ、見ての通り指だけです。五本」


「……すみませんでした、私が責任を持って……」


「大丈夫ですよ、これくらいなら」


「これくらいって……」


 こいつ、俺を無視してメイドと会話を始めた。


 始めやがった。


 目の前に誰を相手しているかも考えず、ここで一番偉い人間を袖にし、格の違いも知らずに、良くここまで人をコケにする事が出来るものだ。


 あんまり俺を怒らせると、うっかり殺してしまうかもしれない。


「……くっ!」


「お客様? どうされました?」


「腕が……動かない……。……またあの力を使って……」


「あの力、ですか? それはどう言った物なのですか?」


「何でもかんでも弱体化することの出来る……、悪魔の力よ……」


「なるほど、ありがとうございます」


 それでも尚会話を続けようとしているのが腹ただしい。


「おいおいおい、俺を忘れるなよ……?」


「離れて! それ以上近付かないで!!」


 一歩進んだところで止められた。


 効き間違いでは無い。拒絶の言葉は明らかに俺に向かって言っている。


 おかしいだろ、サイクロプスにやられそうなっていたのを助けた恩人に向かってその言い草は。


「スノードロップ……。お前が森で一人寂しく暮らしていたところに、救いの手を差し伸べたのは誰だ……?」


「救いの手……? 誰が、私を救ったって言うの……?」


「だれだろうなぁ?」


「……まさか……、あなた……?」


「わかってるじゃねえか、なのにその態度は無いだろ」


「冗談でしょ……? 救ったって……、あなたが道に迷ったって言うから……、私に案内を求めて来たから……、それで私は……、脅されてここまで……」


「脅した? 誰が?」


「……あなたでしょ! ユリー・フレゥール・サンバーク! あなたが! 私をここまで!!」


「……俺? 俺が脅した? 何かの間違いだろ、そんな事ってあるかよ」


「っとぼけるなぁ!!」


 こいつが、スノードロップが困っている俺を助けたんだ。そこからは、俺の国まで案内して貰って、そして俺の新しい国を作るためにあの朝日に誓って、一緒に付いてきて、……そんな奴を脅すものかよ。


 無礼を働かせた奴には容赦は無いが、ただの親切心でやってくれた行動はむしろ評価に値するのだ。


 スノードロップを評価している、だから決して脅して無理矢理付いてこさせたなんて事は無い。


 それは断じてないと、俺は俺にに誓って言おう。


 ……まぁだとしても、王に歯向かった罪は償って貰う。それはそれ、これはこれ。


「……お前らは石を投げるのが好きだったな?」


「どういう意味……?」


「まぁ、こう言う意味だ」


 石を投げて見せた。


 手のひらくらいの大きさの石を一つ、あいつに向かって投げた。


「くっ……!!」


 何故か、その石は標的とは違う方に当たった。


 気を取り直し、再度瓦礫を投げる。


「あう……っ!!」


 また違う方に当たってしまった。


 おかしいな、どうしてだろうな。ちゃんと狙った所に投げているのに。


 いや、おかしいね。


「この人は……、関係無いでしょう……」


「どけよ、そのメイドに当たらねえだろ? お前がそいつの前にいるから全部お前に当たってるじゃねえか」


「私が立ち塞がると解ってやっているくせに……。……早く逃げて下さい! 足の骨は大丈夫なんでしょう!」


「いえ、それが足に力が入らなくてどうにも」


「…………またその力を使って!! 好き放題して!! そんなので王を名乗れるとでも! ……うっ!」


 ほら、どかないからまたスノードロップに当たっちゃったじゃねえか。


 最初の目的通り尋問をしているだけなのに、あいつが邪魔をしているだけなんだよな。全く謝って欲しいものである。




「私達メイドはどの道、失態を犯した以上どうやったって一緒です。守って頂く必要はありません」


「そんな訳にもいかないのよ……、私はもう誰も傷付けさせない……、私が代われる事ならば代わってみせる……」


「いえ、本当に大丈夫です。それよりもここを離れないとあなたも被害を受けます」


「既に受けているのだから一緒よ……」


「そうですか、了解しました」


「あなたも災難ね、あんな奴に目を付けられるなんて」


「最初に目を付けたのこちらからですのでおあいこです」


「ふふ……、何よそれ」


「……あ、そろそろまずいかもしれません」


「私が守って見せるから、心配しないで」


「そうですか、了解しました」




 何笑ってんだあいつ、気持ちわりぃ。


 これで十三個目か、そろそろ腕も疲れてきたんだよなぁ。


 そうだ、もう直接瓦礫で殴るか。


「それ以上近づいてみなさい、私はあなたを……」


「お前両方と喋ってるからどっちに向かって言ってるのかわからねえんだよ、どっちかに集中しろ。俺以外と喋ったら殺すぞ」


「なら、殺される心配は無いわね……」


「はぁあ……。アザレア、この状況どう思う?」


「何がどうなってるのか、ちょっとわからないですわね」


 以外にも俺と同意見だった。何故スノードロップはあのメイドを庇いあそこから離れないのか。


 何か目的があってやっている事か? 俺の怒りを買ってまでやるべき事があるってのか?


 やけに近づかせるのを躊躇う。


「何を企んでんだ?」


 一歩前へ出る。


「近づくな!」


 構わず一歩前へ。


「近寄るな!」


 一歩前へ。


「来るなぁ!!」


 目の前へ。

 

「で、何を企んでんだ?」


「……離れて」


「俺の話を聞け」


「話す事なんて無い……」


「この瓦礫で人の頭を殴ったらどうなると思う? 例えばそのメイドとかに」


「そんな事をしたら、私はどうなるかわからない」


「何だそれ、面白そうだな。……おいメイドのお前、今から俺はお前を殴るけど文句を言うなよ? ただ尋問を再開するだけだ」


「了解しました。…………、それはそうと角の生えたお客様、探し物は下を探すと見つかりますよ」


「え……?」


「それでは御機嫌よう。お時間です。」


 ここから見た光景は、数時間前に見た物と同じ物だった。


 熱い風が飛び、衝撃の波が伝わり、破壊された片が舞い、まるでお家芸とも言わんばかりの芸の無い二度目の炸裂。


 爆発が起こった。


 さっきの密閉状態ほどの威力は無いにしても、距離の問題で相当強い爆発だったのだろう。


 正直言うと驚いた。前動作も無くいきなりメイドが爆発するなんて思いもしていない、一本取られた。スノードロップが目の前に立っていなかったら危なかったかもしれない。


 こいつが肉壁となったから何とか大事は免れ、俺は後出しで熱風や衝撃を弱体化しやけどの一つも無く済んだ。


 けど、壁となった者はそうはいかない。


 アザレアが駆け寄り声を掛けるが、スノードロップは動かない、喋らない。


 さすがの頑丈な体の持ち主もこれには駄目だったのだろう。体は焼け焦げ肌色の面積より焼けた面積の方が大きいくらいだ。いくら再生力があると言っても瞬間火力には負けると言った所か。


 ……まさかこいつ俺を守る為に、爆発する事がわかっててメイドから離れなかったのか? ……だとしたら、だとしたらこいつも側近としての自覚が出て来たか。


 最後の最後で泣かせやがって。


 お前の事は忘れないぜ。


「もうさすがにこれは駄目だろ。行こうぜ」


「……ふざ……けるな……」


「スノーさん……? あなた様! まだ生きてますわ!」


 えぇ……何こいつ。あれでまだ生きてるのかよ……。何かちょっと気持ち悪くなってくるな……。


 生きてるなら、まぁいいや。

 

「じゃあアザレア、そいつおぶってやれよ……、そんなボロボロなの俺は嫌だけど……」


「勿論ですわ! 放置なんて出来ませんもの!」


「どうして……、私は……、何をしていた……、何も出来なかった……、また……、また私……」


 その状態で喋れるのかよ……、名実共に化物になったなこいつ……。


 ……次のメイドを尋問するか。


「あ? これ……」


 メイドの爆散した後の残骸を見ると、機械が散らばっていた。細々した機械仕掛け、その残骸。

 

「あのメイド、機械だったのかよ」

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