五と六の間
「あいたた……。んん……。ここは一体……?」
「知っている事を全て教えろ」
俺達を追っていたらしいメイド。投石で気絶させ拘束、及び弱体化で逃げる力を奪った上で尋問に移行した。
ここで働く以上何も知らないで通せる訳が無く、今知っているだけをあらいざらい吐いてもらう為だ。何故か「あまり手荒なマネはしないで」とスノードロップに釘を刺された、ただの質問に手荒なんぞ存在しないのに不思議な話である。
ただ、場合によっては拷問になるかもしれないから間違ってないけど。
「んえぁ!? 私は……!?」
「んえぁじゃねえんだよ。お前に時間をかけている訳にもいかねえんだからさっさと吐けよ」
「……そうだ、頭に何か当たって……、それで……。えぇと……お客様、失礼ながらこのお城に関する様々な情報は流出を控えさせていただいております。ですのでこの拘束を解いたのち、お引き取りを願います」
いやに冷静で落ち着いてるのが癪に障る。三対一で拘束されている側だと言うのに悠長にしているのは、肝が据わっているのかそれとも恐怖心が欠如しているのか。
「その言葉で引き取れるほど心底穏やかでも無いんだよ。お前、今の立場わかってる?」
「私が失態を犯し、拘束されています」
「だったらさぁ……」
「しかし、メイドは何があっても裏切りを起こしません。このような場を持ちようと無駄です」
強気である。無駄かどうかはやってみない事にはわからない、と言うより最後には洗いざらい吐く事になるだろうから、別にどうしたという事もない。
まず最初に一個目の問い。どうして俺達を追っていたのか。あの豚野郎の命令なのかどうか。
「存じ上げません」
メイドはそう答えた。
次に問い二。あいつの居場所を教えろ。
「それも存じ上げません」
問い三。知っている事を教えろ。
「空は青いです」
問い四。指は何本あると思うか答えろ。
「十本です」
足の指を含めて二十本だ。
「それが何なのですか?」
別に関係は無い。その指を、こうする。
「……うぐぅ……っ!!!」
メイドから伸びる一本の綺麗な人差し指。水仕事や掃除をしているとは思えない、白く傷一つ無い手。それをちょっと力を使って摘まんで倒してやれば、簡単に間接とは逆の方に折れ曲がる。
何も言う気が無いのなら、何か言う気になるまで「何か」をするだけだ。
まず、これで一本目。
「ふざけないで!! 手荒なマネは止めてって! 言ったでしょ!!」
スノードロップが激昂した感情をぶつけて来た。動けない体で口だけは良く動くものだと少し関心してしまった。口だけ動く動かない人形は放って置く。
「痛いだろ? 嫌だろ? これが後十九回だ」
「痛いです、嫌です、凄く。…………ですが易々と捕まってしまった失態を犯した以上、覚悟は出来ています」
「……そうかよ」
物事の重さを量る事が出来ない天秤の壊れている馬鹿だった、自分の手は何とも知らない情報よりも軽いらしい。
「あぐ……っ!!」
二本目。中指。
叫ばない所だけは褒めてやりたい、女の叫び声は耳に付いて嫌だからな。
さて、次はどこにしようか。人差し指、中指と続いて、定石で言えば薬指をイって中三本を制覇したい所だけど、変化球で逆の手の小指とか良いな。片手の指を先に全部潰すより、両手の指をそれぞれ潰したほうが歪な感じがしていいかもしれない。いや、先に足の指をやってしまった方がダメージあるか?
……これ、意外と悩むな。
「アザレアさん! 止めさせて!!」
「う~ん、でも先に手を出したのはあっちですわよ?」
「…………え?」
「先に毒を仕込んで、わたくし達を嵌め様としたのはあちらですわ。因果応報とも言えますわね」
「あ……、え……? アザレアさん……? もしかしてあなたも……、あの男と同じ思想なの……?」
「え? 何を言っているのかちょっとわかりませんが。わたくしは物事を平等にしているだけですわよ」
「……なら、国を盗めと言ったのは……?」
「国を失った殿方がいたのですから他の国を持っている方々と比べて、それは平等とは言えませんわ」
「今指を折られている女性を、ただ見ているだけなのは……?」
「さっき申しました通り、因果応報ですわ。やられたのだから、やっているだけの事ですわね」
「……それは平等じゃない! 何か……別の何かよ! う……っ!」
「あらあら、叫ぶと怪我に響きますわよ? ……スノーさんに大怪我をさせたのですから、指くらいならまだまだ釣り合いは取れませんわね」
「爆発をさせたのはこの国の王様でしょう! あの人は関係無い!」
「関係ありますわよ。現にその王を庇って情報を隠蔽していますわ。まぁ連帯責任ですわね」
「…………うそ……、アザレアさんなら、抑止力になると思っていたのに……」
「??? 何を抑制するのですか?」
「今の目の前で起きている異常性よ!」
「あの女性が無実でしたらなら確かにあんまりな行為ですけれど。ありますわよ。罪。」
「仮にあったとしても! 程度と言うものがあるの!」
「罪は償うべきですわ。どうであろうと、それが人です。今目の前に写っている光景、これが人なのですわ」
「…………私は……! 私はあの男を止める為に……! 他の人に……、もうあんな思いをこれ以上させない為に! 私はここにいる!」
「スノーさん……? 目、真っ赤ですわよ?」
「もう、これ以上誰も……! 誰も傷付けさせないっ!!」
「あら? スノーさん……? 立てますの……?」
「この小指を折れば、……ええっと、六本目か。吐く気になったか?」
計五本。左手三本、右手二本を折ってみた。けれども一切吐くことは無く、四本目からは何も言葉を発しなくなってしまった。もう今は、ただただ無抵抗の人間の指をへし折ると言う作業に勤しんでいる。別に楽しくは無い。
「……じゃあ次は右手の小指な」
一応そう告げて、メイドの小指を摘んだ辺り。その辺りから、俺がこれ以上指を折る事は無かった。折れる状況では無くなった。
「あなた様! 後ろ!」
「あ?」
スノードロップが王に対して殴りかかって来たのだから、尋問の手を止めても仕方が無い。




