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「い、痛い痛い! そこの君に! 私を助けてくれ!」
「俺も腹にナイフ刺されて痛いんだよ! 黙っとけよ死にぞこないが!」
神に与えれらたとしか言えない無敵の力でも、弱体化はあくまで弱体化。いくら天才の俺であろうと、つまようじで刺される程度の痛みは残っているのだからやってられない。
「だいたいおっさん。お前が盗みを働いたせいで刺されたんだろうが、自業自得だ」
「何、私が盗んだ? いやいや滅相も無い、私はあいつに盗まれた物を取り返そうとしただけなのであ……痛い痛い腹が痛い!」
「は……? いやもういい、ややこしい」
「それより助けてくれ! 腹を刺されて痛い! 死ぬ!」
「じゃあ死んどけよ、俺は構ってやれるほど暇じゃねぇんだよ」
「そんな殺生な! 同じ腹部を刺されたよしみじゃないですか! お礼はしますぞ!」
「うるせえよボケナス! 黙ってろ!」
くそ……っ! とりあえず止血しないと……! ……ていうか止める物もねえし、やってられねぇ……。
こんな寂びた空間まで俺を馬鹿にしやがって。
「あなた様? こんな所で何をしてらっしゃるのです?」
「あ? ……アザレアか、見て解るだろ」
いつの間にかアザレアとスノードロップが立っていた。
いつからいたのか知らないけれど、来るのが遅すぎる。
「お言葉ですが……、これではあなた様があの方と果し合いをした、と言う風に見えるのですが……」
「ちっ……、面倒くせぇな。……おいおっさん、こいつらに説明してくれ」
「痛い痛い! 腹が痛くてそんな気の利いた事は出来ませんぞ! 助けてくれるのならばいくらでも説明いたしますぞ!」
「はいはい、わたくしが介抱いたしますわ。宿に泊まっていた方から少し薬を分けて貰いましたの」
「……お前、薬持ってんの?」
「少しだけしか無いですけれど」
「だったら、それを寄越せ。王の俺に」
「ちゃんとあなた様にもお分け致しますわよ。数も少ないのですからあの方と二人で使いましょう?」
「…………王が、寄越せと言ったら寄越せよ……?」
「それなら代わりにこの包帯はあの方に使いますわよ?」
「何だそのボロボロの布切れは。そんなの俺が使えるか」
「わかりました。それではこれがお薬ですわ。…………殿方、大丈夫です?」
汚らしい包帯を持っておっさんの所に歩み寄っていった。
無償でよくやるよな、俺は死んでも嫌だ。
……しかしこれ、何の薬だ。…………自然治癒促進剤? 遠回りな薬だな、もっとこう、飲んだ瞬間傷が治る薬とかなかったのかよ。そのくらい簡単に作れるだろうが。
まぁ、無いよりマシか。
「ちょっといい……?」
「あ? 何だよ」
スノードロップ。
ここまで一言も喋らなかった女が、ここぞとばかりに寄って来た。
「宿の店主が倒れていたのよ。……何故だか知らない?」
いきなり発狂してうずくまったままうろたえだした気持ち悪い奴か。
「……知らねぇよ」
「……そう。その店主の鼓膜が破れていたのよ。だから、聞いてみただけ」
「……鼓膜って、耳のか?」
「えぇ、それが破れていたのだけれど。……あなた何か知らない?」
「いや何でそんな事になってんだ……、……あっ?」
もしかして、耳から血出してもがいていたのはそのせいか?
……まぁ、だとしても俺には関係が無い、俺はなにもしていないのだから。
「……心当たりがあるの?」
「無ぇよ」
「そう……、私の勘違いなのね」
「お前何だよその言い方……、俺を疑ってんのか……?」
「そんなこと無い、ただ聞いてみただけよ」
「そうかよ……、……くそ劣等種が……」
「…………」
それを聞いてくるって事は疑ってる証拠じゃねぇか。隠す気もなく遠回しに言いやがって。
何も知らないと言ったら何も知らないんだよ。
「いやー、助かりました! あなた方がいなければ、私はこんな所で死に絶えていました! どうかお礼をさせて下さい!」
小太りのおっさんが腹を揺らしながら語ってきた。傷はアザレアがなんとかしたみたいで、さっきまで苦しんでいたのが馬鹿らしくなるほど軽快なおもむきを見せているのがまた腹ただしい。
「お礼です? わたくしの一存では決めかねますわ。……どうしますあなた様?」
「……さぞかし手厚く歓迎してくれんだろうな? 命を助けた代償は重いぞ」
「わかっておりますぞ。私は恩はちゃんと返せ、と言われて育ってきましたので。ふむ、でしたら何に致しましょうか……、金……、宝石……、物件なんかもよろしいですな……。ふーむ……。む……? それより先に、その傷を治療することが優先ですかな?」
俺の腹の、出来たばかりの傷口に指を指して言った。
ただの一般庶民の分際で金だの宝石だの、軽々しく言ってくれる。
「王であるこの俺が、その程度の物で満足すると思ってるのか?」
「おや、もしやそちらも王様でしたか? これは奇遇ですね!」
私も王様なんですよ。
目の前の小太りのおっさんは、聞き間違いで無ければそう言った。