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怖い人

 店主を問いただすのはとりあえず後にした。


 俺も確かに疲れているし、何よりあの二人の馬鹿さかげんに悪態を吐きたくなるからだ。


 一人じゃないと寝れないので馬鹿共には出て行ってもらってから、小汚い薄い布団を三百歩くらい譲りながら渋々嫌々使う事にした。


 布団に入って数時間。日が昇り始め、周りが白み翌日へと変わる。

 

 結局熟睡なんて出来なかった。


 まさかである。、まさか綿製の布団が存在するだなんて、羽毛すら使われていないなんて思いもしないだろう。囚人用の寝具か何かか、あれは。いや、あんな薄い布団では囚人ですら寝不足に陥るくらいに薄汚い。控えめに言って捨てた方が良い。


 商売道具を買い換える金すら無いのかこの店は、貧相にも程がある。賠償金を寄越せとまでは言わないが、謝罪くらいはしてもらいたいものだ。でないと、こんな所壊してしまいそうな衝動にかられて仕方が無い。


 だから目の前の店主に謝罪を求める。


「おい店主ゅー? 俺が何故怒っているかわかるか? なぁ?」


「お、お客様……、胸倉を掴むのはお止め下さい……。な、何が気に入らなかったのでしょうか……?」


「わからねえか? この顔を見てもそう言えるか? そうだよ寝不足なんだよ。宿屋に泊まって寝れないなんてあり得るか? あんな豚小屋みたいな所に押し込む嫌がらせをして満足したか? あぁ俺はとても満足したぞ、おかげ様で感情で湯が沸かせそうな程な。屈辱と言う名の最高のサービスをありがとうだよなぁ店主?」


「我が宿最高級のルームが……、お気に召しませんでしたか……?」


 ……。 あ……? さ、最高級……?


 おいおい……、俺を動揺させるなんて、俺はこいつを少し見くびっていたかもしれない。


 あれがこの店で一番の部屋だって言うのか? ゴミ捨て場と鑑別所を足してもみくちゃにしたような、ギリギリ人が住んでも大丈夫と言えるくらいの場所だったというのに最高なのか。呆れて声も出せないとはこの事か。


「いや、もういい……。もういいや……。馬鹿しかいないのかこの町は……」


「ええと……、では朝のお食事は何時頃にお持ち致しましょうか……?」


「それもいい……。どうせ便所の蓋みたいな物しか出て来ないだろうからな」


「で、ですが……。お客様がご不満なのは昨夜の寝具に件ですか……? 言われた通り、今お渡し出来るだけの布団をお渡ししたのですが……、駄目でしたか……」


「紙を五枚重ねた所で厚紙にはならないんだよ。もういいから黙れ」


「お客様の不満な点は削除していかなければ良い店になりません。口頭でお申しつけ辛いのなら後ほどアンケートで……」


「ここ真っ先に潰してやるからな、余命は無いと思えよ糞店主」


「申し訳ございません……、ではこちら次回無料券を……」


「…………いいと言っているだろうが!! 黙っていればいいんだよ愚民風情が!!」


 しまった、うっかり怒鳴ってしまった。俺とした事が冷静さが足りなかった。


「……あ、……あ……。……っあ゛あ゛ああっ!!!」


 その後間もなくして、店主の叫び声が当たり一面に響き渡った。


「な、何だ……?」


 両耳を両耳で抑え、その場にうずくまり獣の様な声を上げるばかりで何が何だかわからない。


 どうしたと言うんだ。俺はただ本当に怒鳴っただけなのに。他に思い当たる節はクレームを入れた事のみ。


 まさかそれか? ただ悪いところを指摘しただけなのに 、ここまで理性を失う様な声を出すものなのか。それならば生きていくのが辛くなるレベルの短気だ。耳から血まで出している始末。

 

 …………血?


「ああああ……っ! ああ……っ!」


「お、おい店主……? ……頭でもイかれたか……? 何だよいきなり……、……だ、大体大げさ何だよお前、注意された程度で血なんか出してんじゃねぇよ。根気が足りねぇんだよ。根気がよ」


 それでも尚うめき続ける。まるで聞こえないみたいに自分の世界に入り込んで俺に迷惑を掛け続ける。


 何だよこいつ……、何なんだよこいつ……、気持ちわりぃな……。


 世界にはこんなヤバい奴もいるのか……、国を頂く前にわかって正解だった。


「ううぅ……、ぐぅ……っ!」


 いつまでも這いつくばって、エンターテイナーかよ。


 ……そうだ、こんなのの近くにいては関係者だと思われて後ろ指を指されないか……?それは駄目だ、俺のプライドに関わってくる。王の尊厳に関わってくる。


 ……離れよう。急いで。今すぐ。


「じゃ、じゃあな。いつまでもそうしいていると気持ち悪いぞ店主。 俺は知らないからな。豚小屋みたいな宿だったぞ」


 は、反省もしていることだし今回の数々の無礼は水に流してやる。今度はこんなこと無いように注意して生きて行く事を胸に秘め精進するんだな。


 気持ち悪い奴を置いて、一人店を後にした。


――――――――。


 ああいう、頭の構造からかけ離れた一般人もいるんだな。実に勉強になった。のさばらせておくと国民を脅かす危険性が出てくるかもしれないからな、後々一斉に除去しておかなければな。


 また王の仕事が増えてしまった。より良い国にするには俺の時間も、変な国民も、多少の犠牲はやむをえない。あんなのはいなくなってしまった方がマシだ。


 ……いや、この事を言いふらされたら全部俺のせいにされてしまいそうだな。そうなると王の支持率が減る。


 俺は悪くない。俺は悪い所を指摘して良い方向に修正させようとしただけだ。本当に何もしていないんだ。


 ……しかし、ここはどこだろうか。するすると道なりに進んでいっただけなのに迷ってしまった。路地裏か? いやにゴミが散乱して臭さが漂う。


 もう飛ぼうかな……、でもあのふわってする感覚だけはどうしても慣れないんだよなぁ。


 王が困ってるって言うのに、あいつらはまた隣にいないんだな。側近クビにしてやろうかな。


 誰かいねぇかなぁ。


「あ。」


「あ。」


 いた、人。


 人と目が合った。


 男と目が合った。


 その辺の風景に紛れてしまいそうな特徴の無い見た目に、口をポカンと開けて、赤い液体の付着したナイフを持っていて、その足元にはうつ伏せの人が倒れている。


 そんな殺人現場が、俺を見た。

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