その背中に傷無し
「おい、これでいいか? 食ったら早く教えろよ」
「おぉ……! おぉ……! パンなんて久しぶりに食べる……!」
じいさんのいた町の場所を聞いても吐かないものだから、食料で餌付けをした。
一つのパンを目の前まで運んでやると、それを両手で掴みまるで小動物の様に、あるいは獣の様に食べだした。
「じいさん、俺達はな? 探してるんだよ」
「中々美味い……。ふむ……、……探していると? 何を?」
「俺の座れる場所」
「そこら辺の岩に……という訳でも?」
「その腐った国の椅子に俺が座ると言ったんだ」
「そうかい、勝手にすればいい。わしはもうあんな国には帰らん」
「そうか、勝手にしろ。俺はそんな国を変える」
「その人達を助けに、行くの……?」
「そうだとしたら何だ?」
「そう……、いえ……、ちょっと意外だったから……」
助けに行くわけでは無く、奪いに行くんだけどな 。
じいさんに道を聞き指差した方向、北北西に俺達は足を向けた。
救ってやる。
もとい、巣食ってやるよ。
その国は俺が全部頂いて、代わりに玉座に座る。王が代わるだけの話だ。
「はぁ……、かっこいい……、さすがわたくしの見込んだお方ですわ……。……あら、スノーさん? 行かなくて?」
「私はこれを止めるべきなのか、私はわからない……」
「……? 何ですの?」
「いえ……、行きましょう。……私も決断出来ない女なのかもしれない……」
「えっと……頭でも、打ちました……?」
――――――――。
その国はそこまで労力を得ることも無く、意外と近い物だった。歩いて二時間、走って一時間、船に乗れば三十分で着くところを体重弱化で十五分。
とりあえず外側から見た感想は、申し分無い。
広さもあり、地面も簡単には緩みそうもない高立地。次いで城有高台マシマシの、非の付け所どころか反非を促す最高の場所である。
まさこんな近くにこんないい場所があるなんて思いもしなかったな。ここに俺の国を建てれば良かった、なんて俺は思わない。既に俺の物になった様なものだから。
「ほう……、割かし良い! 王に相応しい! ここが今から俺の城! 俺の場所だ! ……くっくっく……、はっはっはっは!」
高笑いが止まらない。面倒臭い土地から作っていく工程を省いて城が手に入るなんて、実に最高な気分だ。
正面から突破して相手のトップだけをたた……。
「おい待て! 何者だ!」
トップだけを叩く。
……警備の人間か。俺もよく絡まれる人間である。人気者か?
「何だ、まさかここも許可証とやらがいるのか?」
「いや、いらないが……、不審だろう。明らかに。そんな笑い声を上げていたら」
「不審か?」
「不審と言うか……、すまない、ここは通せないんだ。帰ってくれ」
「あぁ……。いや、その目は正しいよ。俺は不審者だ」
「自分から不審者と言う奴に……、何……? ……うっ!?」
目の前の警備兵は膝から崩れ落ち、理解できていないという顔をしている。相手の心が読めるわけでは無いけどわかるのだ。幾度と無く使ってきたから。
何をされたかわかっていないのは滑稽である。
「じゃあな、お仕事ご苦労」
「ま、待て……! ……お、……お前たちなら……! お前達なら、出来るかもしれない……。あの馬鹿をどうにか出来るかも……」
どうにかする為に来たんだ。「かも」では無く「やれる」のだから可能性を見出される筋合いは無い。
「うるせぇよ」
「そうだな、少しうるさかったな。……ここは誰も通っていない、と言うことにしておく」
「それは間違ってるぞ、俺が通ったと伝えておけ。酸いも甘いも噛み締めた新しい王が来たってな」
「……なるほど、だがそれは無理だ。脚が動かないのだ。……参ったな、トイレに行きたいのに……」
「あの、この町はどうしたのですか? 独裁国家の様だと聞きました」
「その事は入ればわかる、だから早く通ってくれると助かる。女性に漏らす姿を見せる訳にはいかない」
恥を搔くくらいなら漏らす。今時絶滅した中々男気に溢れた男なのかもしれない。
その心意気、しかと受け取った。
「スノードロップ。もう行くぞ」
「困っている人は助けるのよ」
「お前が今そいつを困らせてるんだ」
「え……?」
さぁ、思う存分漏らすといい。