どう足掻いても成功する運命にある人間は自惚れる
国を奪う。その発想は無かった。
元より一から作り上げるよりよっぽど現実的だ。いかんせん現在、王を含める全三名しかいないていたらくっぷり、それなら最初からアザレアみたいな変人を集めるより、既にいた国民を俺色に染め上げるほうが効率的。
何故こんな簡単な事に気付かなかった、それに地盤が良い広い場所なんて穴場は他の建物が先に建っているに決まっているのに。「国を作る」の言葉の創造性にかまけて一から作るんだと連想してしまっていた、別にそんなことしなくても既にある物を再利用すればいいだけなのだ。
「そのアイデアは実にナイス。アホにしか出来ない発想で俺には到底思いつかなかったぞ」
「そうでしょう! そうでしょう! わたくしはあなた様の為ならこの身滅びるか世界が終わり終焉を迎える時まで……否、迎えようとしている時でもあなた様の隣を離れませんわよ!」
「そうか、その意気や良し! じゃあ国を奪いに行くぞー!」
「おー!!」
「……待ちなさい」
「ん? どうしたスノードロップ?」
意気揚々といずれある合戦への意気込みを揚々にしていた所、横槍を刺してくる騎兵。
その姿は、幾戦もの戦場を駆け抜けた老兵の様な顔をしていた。
「国を奪うだなんて、そんな事が許される訳ないでしょう……?」
「あ、何で? 俺がより良い国に変えるんだからその国も幸せ、国民も幸せ、なんなら世界が良い方に変わって全世界幸せだ」
「だとしてもやろうとしている事が単なる侵略なのよ。国を作り変え争い事を根絶するって考えは支持するわ、けれどそうやって手に入れた物は本物とは言えない、略奪を繰り返して得ただけの紛い物に過ぎないわ」
「……? ちょっと意味が良く分からねえんだけど、修正して良い方に変えるんだから何の問題も無いだろ」
そこまで理解しているのなら何が問題と言うんだ。存在価値の無い国を作り変え、全てを調節しなおす。
そうすれば争いは無くなり平和となる。だと言うに反論してくる意味がわからないのだからどうしようもない。
「……そこに既にいる王様はどうするの?」
「さぁな、しょうも無い国を作り上げた罪で罰は与えるかもな」
「……ふざけないで!!」
「ふざけてなんかいない」
「他人を貶めて自分の好き勝手に行動しているはふざけているとしか言えないわ!」
「えぇ……何? 一緒に来るの? 来ないの?」
「……行くわよ! こんな事をみすみす見過ごせる訳無いでしょう!」
「何で怒ってんだよお前……。 ……よっしゃ! そうと決まれば行くぞ二人共! 新天地へ!」
結局何が言いたかったのか理解に苦しむが、まぁ付いて来ると言うのならどうでもいいか。
これから俺の国を手に入れるのだから野暮な話は終わり終わり。
「何だか仲が悪いですわね……」
――――。
奪うにしてもどこが最適だろうかと考える。
さっきの町は許可証が必要だったりその割りに警備が薄かったりでアホ丸出しだから却下。
俺の元々いた町は俺が消したから却下。
そして他は知らなかった。
「うぅ……た、助けてくれぇ……」
なるべく広く活気のある町が良い。城もあり出来るだけ大きく、港もあるとなおよし。
交易を盛んとした町にしたいな。
「そこのおかた……、何か食料を……」
そして何より大事なのが反乱を起こさない様にすることだ。俺の国は反乱が元で壊滅してしまったからそこを気を付けて立国しよう。
……今思えば俺の国も住民だけを消せば良かった。何も町全体を地の底に追いやる必要はなかったのに。失敗失敗。
「神よ……私に慈悲を……」
「あのお人何か言ってますわよ?」
「ほっとけ、ただの物欲しだ。見るな、触るな、関わるな」
なるほど、あれが乞食と言う奴ですわね、初めて見ました。と付け足した。
スノーさんが話しかけてますわよ? とも付け足した。
……な、なにぃ!?
「大丈夫ですか? ……今食べ物は無いですけれど……、立てます?」
「食べ物無いのか……、そうか……、じゃあちょっと立てないかな……」
「こんな所にいたら危ないですよ? どうしたんです?」
「親切にするのが親切じゃないんだ……、悪いが放っておいてくれないか?」
ほうら面倒臭い奴だった。
食い物が無いとわかるや邪魔者扱い。物欲しというのは物欲しになってしかるべきなのだ。
関わるだけ無駄だとわかれ。
「だったら砂でも食ってろじいさん。行くぞ」
「駄目よ、ここに放置している訳にはいかないの」
親切にするのは親切じゃ無いとそのじいさんも言っていただろうが。
情けは人の為にならずとも言うが、それは自分の為に動けと言う意味だ。為にならない事に時間を費やす義理も無し。
「わしのいた所では……、上の者ばっかりが良い思いをしてな……下の者は……」
「うわ、何か始まった。これ以上面倒臭くなる前にここを離れるぞ」
「皆わしみたいに人権を奪われ……ゴミのように扱われ……酷い王様じゃった……」
「いえ、あなた様……この話は……」
「ん?」
聞いてみれば、俺達には都合の良い話だった。
一つの国が不に満ちている。王の独裁国家。国民は酷い状況になっている。助けを求めている。
つまり、俺が王にすげ代わり良い方に変えれば国民の支持を一気に得られる。
と言う事ではなかろうか。
コツコツやっていく必要が無くなった。千載一遇とは正にこの事だ。棚からぼた餅。鴨がねぎ背負って。思わぬ収穫。瓢箪から駒。
やはり俺は、持っている人間であるとしみじみ思う。