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ノン・ブライダル

「……逃げましょう」


 そこら辺を歩いて、飯をのんびり食って、それから警備の者が来るなんて随分と意識の低い町だと思った。

 許可証なんて作って統制してるから不備の事態に弱いのだ。


「逃げる必要はねえよ、何故か教えてやろうか? 教えてやろう。何故なら動かずに勝てるからだ」


「それだからよ。これ以上、誰かが傷付くのを見ている訳にはいかないの」


「良い子ちゃんぶってんじゃねぇよ。最初に俺を殴ったのは誰だ?」


「それはあなたがっ……! ……がっ!?」


 会話を中断し虫みたいな悲鳴の上がった方に目をやると、と言うより隣を見ると、スノードロップが拘束されていた。


 首を絞める形で。太い男の腕が、細い女の首に巻き付いている状態で。


「やった……! 初めて俺も役に立つことが出来た……! これで、俺も昇進だ……!」


 兵士の一人が我先にと褒賞を目指したらしい。


「あ……! 放し……、なさい……!」


「へへ……! 昇進……! 昇進……! 昇進……!」


 やりすぎだ!。という他の兵士の声も耳に届かず、十人に聞けば十人が人を殺しそうな目だと答えるであろう狂気の眼差しを振り撒き正義を執行する男。


「へ……! ははは……! 死ねよぉ……、死ねよ犯罪者ぁ!!」


 その腕に更に力が上乗せして、食い込むまで入る。


「あ゛……!? 。あぐぁ……。あ゛ぁ……、ぁ……」


 顔が青白く染まり、目が虚ろに泳ぎ、脚に雫が伝う。しかし一向に振りほどこうとはしない、オーガの腕力なら難しく無いはずなのに。


 なすがまま〆られるのを待つだけのその姿勢に、嫌々嫌気が差す。


「はははは……! 正義は必ず悪を踏み倒し! 頂点へと上り詰める器がある! それを俺は持ち合わせていたんだ! もう下っ端なんて呼ばせないぞ、糞上司がぁ! ははははは!! ……は? あ、あれ……?」


 兵士の弱体化された腕が、だらりと下に垂れ下がる。


 ギリギリ意識を失わなかったスノードロップは咳き込み、自らの感覚を取り戻し始めた。


「ゴホッ……! ゴホッ……! お゛……、おぇ……! ……はぁ、……はぁ……」


「何やってんだよお前、あんなの振りほどけるだろ。さてはポンコツか?」


「あなたと……一緒にしないで……、わ……私は……、おぇ……」


 息を整えてから喋ればいいものを、何を言い返そうとしたのか焦り散らして前へ出ようとするからそうなる。


「……すまない、私の下の者が無礼を働いた」


 別の男が喋りかけてきた。


 先程の頭のおかしい兵士とは逆にいやに落ち着いている様子で、しかもちゃんとヘルメットを外している。


「誰が下だぁ!? てめぇだった下だろうが下士官がぁ!」


「……おい、そいつを懲罰房に連れていけ。……申し訳無い、あの新兵にはしっかりと罰は与えておく。してその娘は大丈夫か……? 念のため救護班を要請しよう」


「いらん」


 オーガは自己治癒も早いと言うし、問題は微塵も無い。その特性が劣等種に適応されるのか知らないけれど、気絶もしていないのなら大丈夫だろう。


「そうか……、行き過ぎた行為、猛省する。……それと、それとは別にそなたを拘束せねばならないのは変わらない」


「一応言っておくが、見逃した方が身の為だ」


「戯言を。……皆のもの! かかれ!」


 あくびが出るほど待った兵士達が、掛け声と共に闘争心あらわに剥き出し、闘争を始めようと血気盛んに迫ってきた。


 人は争う心が争う心をを連れて来て、そして争いに発展する。何事も許す心と争う心だと、押そうが引こうが争いは発生しない。だから俺は、許せる心を持った国民になって欲しいと言う願いを込めて立国した。だと言うのにあいつらは、俺の国民だった奴は俺を川に投げ捨てた。争う心を持ってしまった。もしかしたら気持ちだけでは必ず闘争心が生まれてくるのかもしれない。


 だから俺は、争えない様に、争える体を奪う事にした。


 そして周囲を見渡した。


――――。


 結局いつもと同じ戦法。


 足や手の筋力を弱体化して動けなくしただけの一辺倒。


 阿呆と言われようと、これが一番効率の良い方法なのだから後ろ指を指す奴の指をへし折るくらいの反論はある。


 事実、卑怯卑劣と喚き上げた新兵の指を間接の数だけ逆に折った。


 とても痛がっていたと記憶する。


 そして現在。


「あなた様はとっても強いのですね! ばったばったとちぎっては投げ、ちぎっては投げのあの姿には正直惚れ倒しましたわ! どうぞわたくしをコキ使ってくださいませ! 何でもしますわよ! 家事でも洗濯でも食器洗いでも!」


 飯も食ったし、地盤も警備も緩かったこの町に用は全く無くなり、嫌味たらしく堂々と正面から出て行って見せた。


 その後ろからパタパタと着いて来た女性が、要約すると「お供になりたい」と、そう言ってきた。

 

「名をアザレア! 趣味は花嫁修業! 特技は人間観察! スリーサイズはヒ、ミ、ツ! どうぞよろしくお願いいたします! 未来の旦那様!」


 気持ちの花びら満開のブーケがトスされたが、誰も受け取らずそのまま地面に落ちた。

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