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43 絶望の、始まり

視点コロコロ変わります

「いつ、僕は……その」


「後少しだよ。ほら見て。ここからだと、向こうからは見えないのに、玉座が丸見え。危ないよね、後で教えないと。あ、来たよ。勇者の登場だ」


薄暗い玉座の間に、僕たちはいる。


魔王と、その配下の者たちが揃って静かに佇んでいる中、向こうからは完全に隠れる位置にルーナフェルトの魔法で転移してきた。


見えない、というよりか見えづらい位置、だと思う。広間を支える支柱と、外からの光の影の具合でちょうど見えなくなっている。もちろんそれだけじゃ見つかるから、ルーナフェルトが魔法で何かしているはずだ。


「……来たか」


位置も離れていないから、声もきちんとここまで届く。僕たちが普通に話せていたのは、ルーナフェルトがそういう魔法を使ったんだろう。


「レノはどこだ。レノをどうした!」


ルトは魔王が僕を攫ったと思っているのか。ルーナフェルトが、魔王の配下がどうした、という話をしていたから、そのせいか。


「さあな。俺を倒してこの城を探せば見つかるんじゃないか?」


わざと煽っているのか。魔王も大変だ。ルーナフェルトのせいで、ルトがここまで来てしまったんだから。……いや、ルトを捕らえたいとは思っているはずだから、いいことなのか?


「……決着をつけよう。前は、俺が負けた。今回は、俺が勝つ」


「いいだろう。今回も、俺が勝ってやろう」


勇者と魔王の戦闘が始まる。


両者の威圧と魔力が場に広がっていく。強い魔力に立っていることができず、僕は膝をついてしまった。


「シュティル、きちんと見ておきな。戦いって、ああいうものだよ」


魔法と魔法がぶつかり、金属の打ち合う音が聞こえる。


結界に魔法が衝突する音。結界が壊され、中の者に当たる音。


今まではそんな音を立てる側だった。


「……あの、私。レノさんには死んでほしくない、ですけど。でも。あの」


「大丈夫、シュティル。僕は、大丈夫だから。後で少しだけ思い出してくれれば、それで」


戦いと言える戦闘を今までシュティルは見てきたことが無かったのかもしれない。それであんな激しい戦いを最初に見せられたら、躊躇するのは当たり前だ。


「でもすごいよね、生きた年数も違うのにあそこまで魔王について行けてるのは。さすが勇者だ」


魔王の剣と、ルトの剣がぶつかる。押し合い、ルトが弾かれる。すぐに魔王から追撃が来る。ギリギリの所で防御する。魔法が使われる。どっちの魔法だ?またルトが飛ばされた。でも魔王にもダメージは入ったようで、追撃がない。


早くて、今の僕では動きが追えない。


「お姉さんでも見ておけば?中々だよ。兄妹の戦いは」


「……姉さんは戦うと、あんな風になるんですね。始めて見ました」


リルアの戦いは、普段を見ていると差に驚くと思う。


猛獣。表すならそれ。


体に魔法を纏わせ、強化し、己の拳で殴る。それで殴られると、拳の範囲のみのダメージではなく、倍以上の範囲にダメージが入る。仕組みはわからない。1度間違えて殴られた時があったけど、腹の一部分だけを殴られたはずなのに胴体全てに衝撃がきた。一瞬意識が飛んだ。


兄妹、か。じゃあ相手はお兄さんなのか。確かに、同じような赤髪に紫の瞳だった。


「いつか聞いた、暴走獣の意味がなんとなくわかった気がします。確かに獣です」


暴走獣。聞いたことあるな。リルアが呼ばれている名の1つだ。


「……本当に、レノさんは死なないと駄目なんですか。何で、勇者と魔王はまた戦わないと駄目だったんですか。私は何もわかりません」


「うん、そうだよ。その場が、勇者と魔王の戦場っていう。いいタイミングが来ればいいんだけど」


タイミング……?


悪いと、駄目なのか?いつでもいいというわけではなさそうだ。


「チャンスはそう多くないけど、大丈夫。失敗はしないから」








◼️◼️









魔族の者たちを倒して魔王の元までやってきた。少しだけ楽だ、と思っていたら玉座の間に精鋭を集めていたらしく、楽だと思っていた理由がわかった。


「レノはどこだ。レノをどうした!」


レノがいない。てっきり、魔王の近くにいると思っていた。


もしや、もう殺している、とか……。


そうなら許さない。殺した魔王も、守れなかった俺自身も。


「さあな。俺を倒してこの城を探せば見つかるんじゃないか?」


魔王の言葉だけじゃレノが生きているのかわからない。どっちとも取れる言い方だ。


なら、魔王を倒す。倒して、レノを見つける。


それだけのことだ。


「……決着をつけよう。前は、俺が負けた。今回は、俺が勝つ」


「いいだろう。今回も、俺が勝ってやろう」


飛び出したのは同じタイミングだった。


剣と剣がぶつかる。


打ち合う内に、目の前のことしか考えられなくなる。魔王の剣について行くので精一杯だ。


魔法で動きを妨害し、剣を躱し、同じように魔法を撃たれ、躱され、離れ、近づき。


思考の余計なものが消えていく。目の前だけを見て、魔王の動きを注視する。


「ボロボロの相棒は気に入ったか?」


魔王が口を開く。


「ああ最悪だよ」


特に何も考えずに言葉を返す。


火の魔法が飛んでくる。それを剣で払い、お返しに同じ火の魔法を飛ばす。


「相棒が隣に居なくて大丈夫なのか?」


「じゃなきゃ今戦えてない」


余裕があるのか、魔王は言葉を止めない。


話している内にも剣と剣はぶつかり合い、衝撃でお互い体は傷付いている。


魔王は、知っているのだろうか。ルーナフェルトが言っていたことを。元は勇者も魔王も同じだと言うことを。


そのことを思い出したせいで、思考がわずかに乱れる。


「遅いぞ」


受け切れなかった剣が、体に迫る。無理だ、間に合わない。


剣での防御を諦め、小さな結界を張る。体の一部分だけを守るもの。もちろん、一瞬で攻撃を通さないものなど張れるはずもなく、結界は壊れる。


少しだけ威力の落ちた魔王の剣が胴体を打ち付ける。


ドッ、ゴガッ!


簡単に体が飛ばされ壁へと衝突する。全身を打ち、目の前がチカチカとした。


魔王が迫ってくる。


すぐに立て直し、迎え撃つ。


剣を受けた腹が痛む。ゆっくりと治癒はされているが、魔王への攻撃へ魔力を使っているため、遅い。


ダラダラと血が抜けていく。


「【全体回復】なのです!」


意識の隅で、フィアのそんな声が聞こえた。途端、腹の傷はもちろん、打ち付けた体の痛みも消える。


「……チッ、厄介な」


傷の消えた俺に対し、魔王は大きな傷はないものの、細かな傷は残っている。体力だって消費しているはずだ。


「行くぞ!」


魔王への合図ではなく、自分を鼓舞するために声を上げる。行ける。


魔法を使い、勢いよく魔王へと飛び出した。剣を上段に構え、振り下ろす。


「くっ」


俺の大剣を受け止めた魔王の表情が、わずかに歪む。


ぐぐ、と力を入れれば魔王の体が少し後ろに下がるのがわかる。


「ぁぁぁあああ!!」


魔法と、自分の力を込め、押し込む。下から受けている相手の剣から、わずかな震えを感じる。魔法だ。魔法の準備をしているらしい。


ならこちらも魔法で受ける。


使う魔法は推測できる。絶対に、合っている。なら俺が使う魔法も決まっている。


力を緩めることをせず、魔力を練る。お互い詠唱は、無い。解き放つ言葉のみ。


「【覆う闇(ダンケルハイト)】」


「【放つ光(スヴィエート)】」


お互いの剣から光と闇が溢れ出る。拮抗するそれは、凄まじい音と光量を発している。


闇は光を飲み覆い尽くそうとし、光は闇を塗り潰し消そうとする。押す力を一層強くし、魔力をどんどん込めていく。


「飲み込めっ!」


「塗り潰せっ!」


周りへの被害など考えない。仲間は自分たちで対処しているはず。俺はただ、目の前の敵を倒すことだけに集中する。








◼️◼️









物凄い音と光だ。


玉座の間の中心で、ルトと魔王が魔法を使った。魔王の黒い魔法と、勇者の白い魔法。どちらも拮抗していて、押される気配がない。


余波が広間中に広がり、壁や床、装飾が壊れていく。僕達の周囲にはルーナフェルトが結界を張っているのか、何の被害もない。


魔族達は個人個人で防御魔法を使っているのか、顔をわずかに歪めながらもその場で動いている。リルアはフィアが、クラムはセラが結界を張り、防御しているらしい。でも、張った側から結界は少しずつ壊れていき、随時展開し直している状態。


「やー、すごいねー。でも、この魔法、2つとも本当はこんな威力じゃないんだけどな。2つが衝突した時、余波でもっと魔王城ごと震えるような、こんな広間なんて吹き飛ぶくらいの威力のはずなんだけど。……なんでだろ。あ、剣……かな?」


これでも充分凄いのに、本当はもっと凄い?


「剣ってどういうことですか?」


「ああ、いや、多分なんだけど。彼……スヴァルトは、ディアリの持つ剣の方が相性がいいんじゃない?ディアリは、逆。魔法の使い方を変えればお互いもっと強くなるはず」


疑問が増えた。だけど聞いても僕にはもう関係のないことか。


「まあそれを今言っても意味がないけどね。お。すごい。勇者が勝ってるよ」


見れば、闇より光の方が大きくなっている。闇を、魔王を光で塗りつぶそうと大きく、大きくなっていく。


「よし、いい感じだ」


眩い光が目を焼く。目を細め、ルトを見つめる。魔王を光が貫いていく。








◼️◼️








光が、俺の魔法の威力が魔王の闇を上回る。闇を塗り潰し、魔王を貫き傷つけていく。


「うぉぉおおおおお!!」


力を込める。剣にも、魔法にも。


「ぐぅっ……!」


押す力に、また魔王が後ずさる。それに合わせて俺は勢いよく剣を振り抜いた。踏ん張ることができず、今度は魔王が吹き飛ばされて行った。魔王のぶつかったのは壁ではなく、玉座の背。


「終わりだっ!」


俺の攻撃で魔王は傷ついている。すぐには反応できないはず。俺が飛ばされた時とは違う。


座るように玉座にぶつかった魔王に向け、俺は剣を振りかぶり、勢いをつけて迫る。


「うらぁぁあああああ!!」


剣を突き出す。魔王はまだ動けていない。このままいけば剣は魔王の胴体を貫くことができる。


後、少し。


だった。




目の前を影が遮る。








◼️◼️







ルトによって魔王が飛ばされた。魔王は玉座にぶつかり座るような形になる。


「終わりだっ!」


魔王にルトの大剣が迫る。


「さあ仕事だ、レノルアム」


ルーナフェルトが僕の名前を呼んだ。覚えたくないと言っていたのに。


「うらぁぁあああああ!!」


ルトの叫ぶ声が聞こえる。瞬間、僕はルトの目の前に立っていた。ルーナフェルトがやったのか。


大剣が迫る。僕へと、一直線に。






◼️◼️








勇者の大剣が迫るのを見ながら、俺はすぐに動くことができずにいた。


光のあの魔法のダメージは思ったより大きかった。 自分も同じレベルの魔法を使っていたから魔力が少ない。あの剣を防げるか怪しい所だ。俺が今できるのは、受けた後でそれが致命傷にならないように魔力を練って準備すること。


だが。


目の前、勇者の大剣を遮るように立つ者がいる。勢いがついた勇者は止まることができず、剣はその者を貫き俺の寸前で刃を止めた。






◼️◼️








肉体を剣が貫く、嫌な感触がする。


それが魔王なら良かったのに。


「レ、ノ……?」


俺の大剣は、レノの胴体を縦に貫いていた。血がゆっくりと剣を伝ってくる。


「かふっ……」


レノの口から血の塊が溢れた。


剣を持つ手から力が抜けていく。倒れるレノにつられ、剣が下がる。レノの体がゆっくりと剣を伝い、落ちる。


傷口から血が噴き出していく。


結構な勢いで床が赤く染まり始める。


「嘘、だ」


「……驚いた、な。まさか、突然そこに現れるとは」


レノの横に膝をつく。魔王が動く様子はない。


「なんで……待って、嘘だ」


「る、と……。僕は……」






◼️◼️








冷たい金属の塊が体を貫く。驚いた表情で、ルトは剣を止めた。


「レ、ノ……?」


許容量を超えた痛みは、熱さに変わる。


「かふっ……」


口から血が溢れた。


足から力が抜け、立つことができなくなる。同時に、剣が下がり体が抜けていく。


寒い。傷口は熱を持つのに、手足の先から冷えていく。


「嘘、だ」


「……驚いた、な。まさか、突然そこに現れるとは」


ルトが、泣きそうな顔で僕を見ている。血が、止まらない。


ああ、そんな顔しないでほしい。死ぬにも死にきれないじゃないか。







◼️◼️








上手くいった。


レノルアムは勇者に刺された。


あれじゃあ、いくら仲間が優秀でも治すことはできないだろう。刺されたのが魔王なら、まだ死にはしなかっただろうが、レノルアムは魔法を使えない。自分で治癒もできない。


死ぬしかない。


「レノ、さん……。ルーナフェルト様、治せます、よね?レノさん大丈夫ですよね?」


自分なら、治せるかもしれない。いや、治せるだろう。治すつもりはないが。


レノルアムが勇者に殺されることで、この呪いは解ける。


「無理だ。行くよ、シュティル。見送りたいだろう」


「……はい」

次回で2章終了です。

サブタイ間違えた感

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