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02 勇者は、未だ諦めず

グレイルとは別の所に、ある大きな城があった。どこも崩れかけた建物が多いが、その城は周りと比べるとおかしいほど綺麗だった。装飾的な綺麗さではない。形的な綺麗さだ。


その城には、崩れている箇所が無いのだ。


他の建物はほとんど崩れ、壊れているのに、その城だけ元の形を保っていた。


黒く、この世界を表すかのような石で建てられた城。ゴツゴツとし、装飾はすべて鋭利で触れれば切れてしまいそうな印象を受ける。


魔王城。人々はその城を〈悪魔の城〉、とそう呼ぶ。




悪魔の城の中。暗い廊下を歩く者がいた。ハッとするような美しい男だ。少し長めの漆黒の髪を後ろで軽く結わえていて、その顔には鋭く光る深紅の瞳があった。


不機嫌さを隠さず、着ている黒いマントの裾を翻しながらズンズンと進んでいく。しばらく行った先の扉をノックもせずに勢いよく開け、大声で言葉を発する。


「いい加減にしろ!いつになったら見つけられるんだ!」


扉の先でまず目につくのはその大きな長机だろう。次に真っ赤な毛の長い絨毯。


机の装飾にあった椅子が20、机の周りに置いてあり、その内の5つが埋まっていた。


椅子に座る人物達は入ってきた男を見るなり慌てて立ち上がり頭を下げながら言葉を発する。


「申し訳ございません!ディアリ様!」


「謝るのはもういい!最初の2人を捕まえて終わりか!?2人を捕らえたからと言って───」


「ざまぁみろ。お前らなんかにアイツらは捕まえられない。俺の仲間なんだから」


ディアリ、と呼ばれた男の言葉を遮って言葉を発したのは、その部屋には似合わない椅子に座らせられている青年だった。


その青年は、ブラウンゴールドの髪に青銀の瞳を持つ、少し小柄な青年だった。瞳は、光の加減で青にも銀にも見えた。


部屋の調度品は豪華な物が全てだが、青年はそんな部屋に合わない無骨な金属の椅子に鎖で体を拘束されていた。


「一生かかったって無理。お前が俺に勝てても、“俺ら”には勝てない」


わざとディアリを煽るような言葉を紡ぐ青年に、ディアリは表情を消して近づくと無言で青年の顔を殴り始める。


「黙れ。敗北者が」


何度も、何度も。


「………ふっ……あがっ…ぅ……っ…………いっ…くら、やったって…無駄……うがっっ!………っっ…いってぇ…………」


何度殴られても態度を崩さないその青年に、イラついたようにディアリは顔を近づける。


近づいたディアリを見、青年は顔をしかめながら背を逸らし離れる。


だがディアリは青年の髪を掴むと無理矢理上を向かせ、自分の方へと固定する。


「お前は、負けた。負けてもなお、なぜそんな態度を貫ける?もう、世界は終わった。今更元には戻せないぞ?希望は全て潰えたんだ」


「………………希望は、生きていること。消えていないこと。お前は、俺を殺せない。だからいつか、光は戻る」


「…………チッ……」


青年の瞳から光が消えないのを見るとディアリは乱暴に手を離した。










青年はまだ知らない。


世界は取り返しがつかない程に終わってしまったことを。


世界が終わった後の世界を。


灰色の世界を、青年は知らない。









また、青年がこの終わった世界を知らないことをディアリは知らない。

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