01 世界は、もう終わっていて
その時、世界は終わった。
勇者は敗れたようだ。
その事実と共に、なんの説明もないままに、世界は終わった。
なぜ?
どうして?
たったそれだけのことで?
そう、それだけのことで、世界は終わった。
取り返しのつかない程に、全て。
たくさん死んだ。新しい世界の、終わった世界の環境についていけなかった。
世界は、終わった。そのことだけは、確かだった。
これは、今の世界の現状は、いずれ訪れることだった。
なぜかはわからないだろう。疑問だけが残るだろう。これを引き起こしたのは自分たちなのだと、深く傷つくだろう。
すぐに終わらせる。
それまで、耐えていてほしい。
◼️◼️
守ろうとしたものがあった。
それは、必ず守らなければいけないものだった。
────この命に代えても。
後悔して、嘆いて、悲しんで。どうやっても結果は変わらない。だけど、だから……。
“嗚呼、神様、何故世界はこんなにも無情なのでしょうか。私が何をしたでしょう?ただ………”
────ただ、世界を守ろうとしただけなのに。
◼️◼️
暗く、暗く、暗く、暗く、暗く、暗い。
笑顔や幸せなどひとかけらも見えずそこにいる人々の顔には影のみがあった。
大地は枯れ果て、緑は消え、全てが灰色の世界。
目に見えるところに緑は無く、魔力に侵され凶暴化した獣が闊歩する。
この世界、〈ナハト〉の現状はソレだった。
◼️◼️
灰色の世界の中、かつて栄え、今も残る数少ない都市にはそこそこ多くの人が住んでいた。
とはいえ、今はどの都市にも昔の名残はほとんどなく、集まる人の数も昔に比べれば少ない。世界全体の人口自体少ないのだからそれは当たり前なのだが。
そんな都市の一つ、グレイル。かつては世界の中心とも言われた都市だ。
そのグレイルの中、世界よりも暗い灰色のフード付きマントに、大きな長い布で顔を隠すように首に巻いた者が歩いていた。体格からして男だろう。大柄ではなく、小柄でもない。
ふと、男が足を止める。その先には、“指名手配者”と書かれた紙が貼ってあった。擦り切れ、今にもその場所から剥がれてしまいそうな紙だが、書かれた文字はかろうじて読める。文字と一緒に、その手配犯の似顔絵らしきものも描いてあった。
手配犯は5人。
『 指名手配者
見ツケ 捕エタ者ニハ 賞金ガ渡サレル
♦︎クラム・カラジアス 確保
♦︎セラ・セレニティス
♦︎リルア・グラナティス 確保
♦︎レノルアム・プラータ
♦︎フィア・ライム
若シ、保護シタ場合ニハ厳シイ罰ヲ与エル』
どんなことをやったのかは書かれていない。
確保、と名前の後に書かれる2人は捕らえられたのだろう。似顔絵に大きく赤いバツ印がある。
男はその一人一人に軽く触れて行く。
「……らむ……ら……りる……ふぃー…………」
4人目だけ飛ばし、周りに聞こえない声量で書かれた名前を呟く。
その声には隠し切れない痛みと切なさ、懐かしさが混ざっていた。
やがて男はその紙から目を離しまた歩き出した。フードと首に巻いた布の間から唯一覗く瞳は、4人目の手配犯と同じものだった。