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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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69話 『弟の先生がんばれなかった』

 権力者達が「スターダスト・バトルは邪魔だ」と判断した。

 だから殺しを依頼され、主催者を始末しに来た。


 そんな殺し屋の説明を聞き、新社長は眉間にしわを寄せた。


「邪魔? 始末? まったく、こんな時に……また悩みの種が増えたようですね……! ああもう、ああもう、ああもうどいつもこいつも!」


 唸りながら、再び血が出るほど頭を掻いた。

 その鬼気迫る様子に、百合は「うぇっ」と少々怯え半歩後ろに下がる。

 根元は呆れながらも、ソファの上から殺し屋に話しかけた。


「ああ、お嬢ちゃん。ちょっと良いか」

「お嬢ちゃんではない」

「どうしてこの、ヒーローなんてものとは縁遠い広告会社の社長が、スターダスト・バトルの責任者だと分かったのだい?」

「……私はただ、依頼された任務を忠実にこなすだけだ」


 私は知らない、という意味である。

 家元に言われるまま来ただけだ。


 だが根元は、つまり「この忍者が調査して突き止めた、のでは無い」のだろうと考えた。

 依頼人とやらが、社長の事を最初から知っていたのだ。


「……やはり、迂闊に動き過ぎたな」


 前社長の考えでは、無関係を装うために、この会社とは別個にバトル運営団体を立ち上げるはずだったのだが。

 新社長は、自社の従業員をそのままバトル運営に起用したり、何かあるたびに社長自らが口出しし続けていた。

 それでは当然バレる。


「だがまあ、もう関係ないか」


 どうせ既に失敗しているのだ。

 根元は体を深くソファに沈めた。


 一方新社長は、


「……たかが子供。それも、いつもカラテガールに軽くあしらわれている、弱き殺し屋……」


 そう言って、百合に手を伸ばす。


「逆に殺して差し上げますよ!」

「子供じゃない。あしらわれてなどいない。弱くないー!」

「うるさい子供は嫌いです……!」


 新社長の指先が、抗議する百合の肩に触れた。

 そして彼の切断能力が発動。

 百合の体が、袈裟懸けのラインで真っ二つになる。


「ふん、他愛な……」


 と、格好良く台詞を決めようとした新社長……だが、何か様子がおかしい事に気付く。

 第一に、血が噴き出していない。

 第二に、切れた体が地に落ちない。

 第三に、百合の体が、透けている。


「馬鹿だな。霧が切れるわけないだろう」


 と呟いたのは根元である。


 新社長が切断したのは、空気と霧。

 百合の体は、最初から霧化していたのだ。

 根元は百合を一目見た時から気付いていたし、ネットの動画で霧化についても知っていた。が、新社長は興奮のあまり気付いていなかったらしい。


「全てが迂闊なんだよな」


 根元はそう言って、寝返りを打った。


「なっ……こ、子供のクセに……」

「私はオトナだ」


 百合は毒霧を固め緑色の棒手裏剣(クナイ)を作り、それをダーツのように投げ、新社長の両手両足に一本ずつ刺した。

 一瞬の早業。

 いつも子供っぽい言動をとって失敗してしまう百合だが、今日はキッチリ決めることが出来たのである。


「ぐうぅ……」


 新社長は全身が痺れ、膝から床に崩れ落ちた。


 それを見て、百合は新たに得物を作る。先程より長い、棒手裏剣というよりは小太刀。

 新社長は恐怖で目を閉じ、「……畜生」と自分の死期を悟った。


「さあ、覚悟しろ」


 と、格好良く言った九蘭百合……だが、実は、非常に緊張していた。

 今からやるのは、初めての『殺し』。本格的な家業。


「その心臓を一突きし、毒霧を注入し体内から溶かす……」


 百合の手が、ガタガタと震える。


「い、今から……殺すからな! いいか、いくぞ……いくぞ」


 が、中々殺さない。

 新社長は片目を開け、ちびっこ忍者の様子を見た。躊躇しまくっている。


 何が何だか定かでないが……助かるような気がして来た。


「わ、私は……私は……う、うあああああん、死ねええええ!」


 百合は小太刀を振り上げた。

 新社長は「やはり、死ぬのか……」と思い、目を閉じ……


「…………?」


 やはり、死ななかった。


「う、うぅぅ……」


 百合は緑色の小太刀を床に落とし、しょんぼりと俯いていた。


 意味が分からない、という表情の新社長。

 だが根元はなんとなく察した。この小さい殺し屋は、人を殺したことが無いのだろう。


 どんな組織かは知らないが、こんな子供に人殺しをさせるとはなんと非情なのだろうか。

 と考えた後に、自分も似たような事をスターダスト・バトルでやっていたことを思い出し、自らの卑しさが急に恥ずかしくなった。


 それに根元は勘違いしているが、九蘭百合は本当に大人である。


「……た、助かった……?」


 殺し屋の異変に気付いた新社長は、動かぬ体のままでニヤリと笑った。


「は、ははは……どうやら、あなたは未じゅ」



 そして、次の瞬間。

 新社長の頭が、溶けて無くなった。



「……え?」

「……なんだと?」


 驚く百合と根元。


 百合は慌てて室内を見回した。

 天井、クーラーの隙間に、緑色のガスが漂っている。あれは……


「また百合ちゃんの尻拭いをさせられたのですか?」


 人の姿を成さぬまま、毒霧が言葉を発した。

 言葉と言っても、グロリオサの毒霧同士にしか分からぬ、霧を震わせて伝えるモールス信号のようなもの。

 この天井の毒霧に化けている者は、百合の曾祖父の兄弟の孫……いつも嫌味を言う、遠い親戚であった。


「まったく、いつまで学生気分なのでしょうか? 子供なのでしょうか? 脳ミソが幼稚なのでしょうか?」

「ぐっ、伯母上……」

家元(いえもと)には、やはりお子様な百合ちゃんには早かったようですとお伝えしますね」

「うぅ、やめてくださ……」

「え? なんと?」

「うううう……」


 どんどん落ち込んでいく百合。

 一方根元は、ここで初めてソファから腰を上げた。ちなみに彼はクーラー裏に潜んでいる毒霧親戚には気付いていない。

 つかつかと百合に近づく。


「貴様は……」


 百合は身構える。


 あの社長は超能力を使っていた。

 この男についての情報は無かったが、もしかすると同じく超能力者かもしれない。


 しかし根元は呑気な様子で、


「俺も殺すのか?」


 と、気の抜けた顔で尋ねた。

 百合は少々拍子抜けしつつも、警戒を怠らず、手にクナイを生成して答える。


「……貴様は、ターゲットには入っていない……」

「そうか。まあ、そうだよな……それなら良かった」


 この殺し屋に依頼した者は、全ての根源が根元であるという事までは知らなかったのだろう。

 この事実を知っているのは、死んだ滝野川と新社長だけだった。


「……我々は商売で人を始末しているんだ。無駄な殺生はしない。殺さずにおいてやる」

「それは助かるが……しかしお嬢ちゃんの事はカラテガールの件で知っていたが、本当に殺し屋だったんだな」

「そ、そうだ……私は殺し屋なんだ!」


 百合は自分に言い聞かせるようにオウム返しし、


「あとお嬢ちゃんじゃない! 子供じゃない!」


 との言葉を残し、体を霧散し窓の外へと消えていった。

 クーラー裏に潜んでいた親戚毒霧もそれを追う。

 社長室には、根元一人だけになった。


「能力者だった社長も死んで……これでスターダスト・バトルに関わっている人工超能力者は、本当に残り五人だけになってしまったわけだ」


 根元はそう呟いた後に社長秘書を呼び出し、事の顛末を伝えた。

 その後すぐに、役員や関係者達が慌てて社長室へとやってくる。


「どうする、誰か代わりの代表を決めて……」

「お、俺は嫌だ……殺される!」


 責任を擦り付け合う役員達。

 根元は、そっと室外へ出た。


 これでもう、完全にスターダスト・バトルはおしまいだ。

 ここから立て直しは不可能……いややろうと思えば可能かもしれないが、誰も関与したがらないだろう。


「さて、後は……」


 根元の脳裏に、人工超能力者にした者達の顔が浮かんだ。

 最初駅で会った女性から、順々に思い出す。

 そして最後の少女……彼女は、スターダスト・バトル参加を断ったらしい。それなのに、望まないまま他のヒーローに襲われた。


「あの女子高生に謝っておかないと、夢見が悪いかもなあ……いや、今更かもしれんが……」


 既に様々な人間を巻き込んでしまった根元。

 たった一人に謝った所で、何が許されるわけでもない。


 ただ今は、何かをやりたい気分だった。

 面倒臭がりで体を動かすのさえ嫌いな根元には、珍しい心境である。


「……とりあえず、一度会いに行くべきか」


 だがどうやって会いに行こうか。彼女には発信機も付いていないし、居場所は分からない。


「ふむ……」


 ふと、根元は目を閉じてみた。

 姿形の変わったレンを一目見ただけで分かった時のように、人工超能力者達との見えない『縁』を感じる。

 その『縁』に、更に意識を集中させた。


 空に、昼間でも分かる程に輝く流星が落ちた。


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