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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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63話 『姉も弟も関係無いのに巻き込まれつつある』

「貴様、カサバ・コナーだな!」


 迷彩服の男がそう言った。

 それに対し、ラフなTシャツ姿の筋骨隆々な白人が、


Uh hun(アーハン)


 と、軽く答える。

 その返事を聞き、迷彩服の男は「やはりそうか。ついに見つけたぞ」と頷いた。


「俺はヒーロー『キラーウォーカー』。貴様を倒す正義の使者だ!」

「アッ、そうナノ? セイギなのに、キャラクターネームにKILLが付いてるノ?」


 カサバ・コナーと呼ばれた男は、オーバーに手を上げ肩をすくめ、


「フー。でもそうか、ユー()『KILL』なのか」


 と溜息をついた。

 一方迷彩服の男は、熱心に自分語りを始める。


「ある日ふと気付くと、この『星の力』に目覚めていた。そして支援団体の者達がやって来て、正義のヒーローになったのだと知らされた。歓喜に震えたよ。やはり俺は他人ひととは違う……特別な選ばれし者だった!」

「WOW、それは良かったネ! でもネ、世界に住む皆それぞれが特別(スペシャル)なんだヨ」

「俺がこの正義の力を得ると同時に、テロリストにして殺し屋である有名な死刑囚カサバ・コナーが脱獄。これはまさに、俺が貴様を倒せという神の啓示だろう」

「ユーはジャパニーズなのに神を信じているのかい!? ああそうかソーリー、八百人の神がいるんだったネ。やっぱりイエスキリスト(ジーザス)も八百人いるのカイ?」


 カサバがそう言って笑うのを気にせず……というか、自分に酔っているため茶化されている事に気付いていないキラーウォーカーは、そのまま話を続ける。


「貴様は元アメリカ軍人らしいが、わざわざ日本にまで来て人殺し家業とは、恐れ入るな」

「NO。軍人じゃなくて傭兵。それにボクの国籍はジャパンだヨ。パパが帰化してるからネ。そんなユーも迷彩服(カモ)だけど、自衛隊員なのカイ?」

「違う……俺はどこにも属さん、正義のヒーローだ!」

「ソーリー、よく見るとチャチなオモチャの迷彩服だネ。コスプレが趣味なのカイ?」

「……貴様ぁ!」


 そこまで会話した時、スターダスト・バトル運営の撮影部隊が到着した。


「オウ、やっと戦えるヨ……いちいちカメラの前で相手と対峙して戦わないと、報酬も貰えないからネ……メンドクサイヨ」


 カサバ・コナーは、誰にも聞こえない小声で呟いた。

 彼は本当なら、遠くから狙撃してさっさと倒したいのである。


「さあ、覚悟しろカサバ・コナー! このキラーウォーカーが貴様を倒す!」


 同じくカメラを待っていたキラーウォーカーが、待ち望んでいたとばかりに叫んだ。

 そしてそのヒーローの腕が、ぐにゃりと変形する。


「DUDE! ユーはトランスフォーマーだったのカイ!」


 カサバが嬉しそうに手を叩いた。

 キラーウォーカーの右腕が巨大ななた、左腕がショットガンの銃身銃口になったのだ。


「これが正義の力! 俺は両手両足を武器に変えられるのだ!」

「COOL!」

「地獄に送ってやる。正義の鉄槌、受けてみよカサバ・コナー!」


 そして正義のヒーローは、鉈を振り上げ悪人に襲い掛かった。

 カサバは後ろに飛び退き鉈を避け、続いて放たれるであろうショットガンの攻撃前に、


「ヘイ、待て待て(ウェイトウェイト)。さっきからボクの本名呼びっぱなしだケドサ」


 急に真面目な顔になり、手をかざしキラーウォーカーを制止した。


「それがどうした」

「一応、ボクのヴィランとしてのキャラクターネームもあるんダヨ。そっちで呼んでくれないカナ」

「ぬっ……」


 キラーウォーカーは、撮影隊の方をちらりと見た。

 確かに「キャラクターに徹してくれ」と運営から言われている。


「だが貴様のヴィランネームは知らん。呼ばれたいのなら名乗れ!」

「アアそうダネ、いつもは名乗る前に相手を殺しちゃってるカラ。ボクのキャラクターネームは、勧誘の人が考えてくれた『キルア―ミー』……は、他と被ったって言われたから変更したんだったかナ。えーと今は……あっ?」


 ふと、カサバはキラーウォーカーの頭上を見上げ、驚愕の表情になった。


「オーゥ……What the fuck?」

「……?」


 つられてキラーウォーカーも空を見上げる。

 すると……


「ソウソウ。ボクのキャラクターネームは『KK』だヨ。ただのイニシャルだケドネ」

「……んっ……?」


 キラーウォーカーのけい動脈が、切断されていた。

 背丈の倍まで飛び上がる血飛沫。身体中の力が抜ける。


 カサバ・コナーの手には、血に染まった小さなナイフが握られている。

 この小指程しかない玩具のような刃物で、体表から数センチ下にある丈夫な血管を、一瞬のうちに掻っ切ったのだ。


「あっ……え……?」


 何が起こったのか把握しきれず、足をふらつかせるキラーウォーカー。

 左手のショットガンをカサバに向けるが、


「ダメダヨ、サバゲーくん。スーパーパワーに頼り切ってしまうのハ。こんな子供騙しのフェイントにも引っ掛かってサ」


 カサバはその丸太のような腕でショットガンを握り、冷静に銃口の向きを自分から逸らした。

 そして腕を捻り上げる。キラーウォーカーは、なすがままに地面へ組み伏せられた。


「うあ……貴様……」

「だってショボいんだモン、『星の力』ってネ。ボクもせっかくそれを身に付けたケド、それでもナイフや体術を使うヨ。だってそっちの方が強いカラ。この程度のスーパーパワーなら、あくまでも補助的なモノだと考えなきゃネ」

「うわ、ああが……」


 カサバは更に腕を捻り上げ、キラーウォーカーの左腕を無慈悲に破壊した。

 残った右腕の鉈で抵抗しようとするが、簡単に避けられ、逆に自分の体を傷つけてしまう。


「き、あ……」


 頸動脈を損傷した場合、失血のショックにより意識が数十秒で飛ぶ。

 彼の意識もそこで途絶えた。

 そして後は死を待つだけ。

 

「アイノウ、暗殺稼業してたら、ユー達の何百倍も凄いスーパーパワーを色々見たよ」


 相手の意識が飛んだのに気付いているが、それでもカサバは台詞を続ける。

 これは、カメラを通じてスターダスト・バトルの運営に語りかけているのだ。


「特にこのジャパンには、毒霧にトランスフォームして一分ワンミニッツで千人殺しちゃうような、モンスターオジーサンがいるんだヨ。それに……」


 キラーウォーカーの頭を掴み、とどめを刺そうとしながら言う。


「カラテガールってキュートなスーパーヒーロー。あれは『星の力』とは、違うパワーだよネ?」


 骨が折れる、鈍い音がした。




 ◇




 テルミと鈴を追っていた、二人組の男達。

 彼らは息を切らし、公園のベンチで水分補給をしていた。


「あーあ。結局あの子達見失っちゃいましたね先輩。どうするんすか先輩。ねえ先輩。先輩」

「うっさいな。今考えてるんだよ」


 先輩と呼ばれる男は煙草に火を点け、携帯電話をいじり始めた。


 この二人は、根元が作った人工超能力者に、


「あなたは『星の力』に選ばれた能力者――星屑英雄スターダスト・ヒーローズの一員。人々を助ける使命を授かったのです。そして星に選ばれたのはあなただけでは無い。ヒーローも、悪人もいる。『星の力』は超能力者達を戦わせ、最後に生き残った一人の願いを叶える……」


 という()設定を信じ込ませる役目を担っている。言うなればヒーロー勧誘員である。


「なんで人助けするヒーローとして選ばれたのに、悪の能力者だけでなく他のヒーローまで倒さないといけないんだ?」


 と聞かれれば、


「それは分かりません……『星の力』の考えは、我々凡人には計り知れないのです……!」


 と、宗教神話の解釈のような曖昧な返答をしておく。

 現に超能力が使えるようになったという事実があるので、こんな適当な答えでも皆なんとなく納得してくれるのである。


 そして能力と容姿からヒーロー名を一緒に考え、コスチュームも一緒に選ぶ。その他道具や武器も貸し出す。

 そんな保険アドバイザーのようなサービスをしているのだ。

 たちが悪い能力者は、ヴィランとして誘う場合もある。


 それらの業務を、広告業で培った交渉術を駆使し遂行する……予定だった二人組。

 ヒーロー勧誘員は他にも数組いるのだが、この二人は今日が初任務。

 しょっぱなから出鼻を挫かれた。


「早々ミスったって事で、僕達怒られますね先輩」

「うるせえな。どうにか怒られないよう、バレない内にリカバリすんだよ!」

「そうやって誤魔化して報告連絡相談(ほうれんそう)しないつもりですか先輩。それってドツボに嵌って結局もっと大きい失敗してしまって、また係長に怒鳴られるパターンですよ」

「黙れバカ」


 痛い所を突かれ理不尽に怒鳴った後、先輩社員はスマホ画面を後輩に見せた。

 そこにはテルミと鈴の姿が映っている。

 何枚もある画像をスライドし次々に表示させた。後姿の写真、横顔の写真、振り向きざまの顔写真。


 胸ポケットあたりに仕込んでいる特殊な隠し小型カメラを使い、尾行中怪しまれないように撮影。その写真データがスマホに転送されていたのである。


「とにかくあの子の、そして一応友達の方も顔は分かってんだ。まだ失敗したと諦めるには早いぞ」


 先輩はスマホのアドレス帳を開く。


「とりあえずは駄目元で、知ってるヒーローに『保護してくれ』と頼んでみるか」

「なんでヒーローの個人メアド知ってるんですか先輩。勧誘員としてもまだ初日なんで、担当ヒーローもいませんよね。なんすか。友達なんすか」

「一応登録してるだけで、実際に電話したことはねえよ。お前と組む前に、一回だけ勧誘員を手伝う機会があってな。そこで、連絡先書いた紙を勧誘員全員に配ってるヒーローがいたんだよ」


 先輩社員はそう言って、ヒーローの電話番号を表示させた。


「おっと。ヒーローに俺の携帯番号知られちゃ多分不味いし、非通知で……いや一応公衆電話から掛けるか。それで、このヒーローは男子高校生なんだけどな。なーんか変なヤツだったなあ」




 ◇




「どうやらいたようですね」


 ビルに囲まれた裏通り。

 追手がいないことを確認し、テルミはずっとお姫様だっこしていた蕪名かぶな鈴を、地面に降ろした。

 鈴は「重かったよねー?」と申し訳なさそうにする。


「あのー、輝実てるみさまー」


 申し訳ないついでに、鈴がテルミへ頭を下げながら言った。


「私のバリアについてー……桜さまには、秘密にしといて欲しいなー……」


 悲しい目で訴えかける。


 桜に余計な心配をかけるかもしれない。

 桜の邪魔になるかもしれない。

 桜に嫌われるかもしれない。


 鈴は、そう思っているのだ。


「……そうですね。分かりました」


 テルミは先輩女子の気持ちを察し、そう返事をするが……


「どうして隠すんだ。せっかく『星の力』に選ばれたと言うのに!」


 突然、そんな横やりが入った。


 金属がアスファルトに衝突する、ガゴンという音。

 上空――ビルの屋上から、人影が降って来た。

 片手片膝で地面を突き、しゃがんだ状態での着地ポーズ。


「わー、な、なんだーなにー?」


 鈴は驚き、テルミの腕を掴む。

 テルミも鈴を庇うように抱き寄せた。


 その落下してきた人物は、顔を上げ、


「やあテルミくん。こんな所で奇遇だな」


 低い声でそう言った。

 ワックスで髪を逆立てている、男子高校生。


「……芹沢くん、どうしてここに?」


 彼はテルミの同級生、芹沢参人(さんと)であった。


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