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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十章 ヒーロー、星屑、詩、
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60話 『姉、利用されちゃう』

 それは夏休みに入るより、少し前。


「あら莉羅りらちゃん」


 真奥家日課の早朝ランニング準備中。

 桜は、玄関前でしゃがみ込んでいる妹を発見した。


「どうしたの?」

「……鳥……さん……」


 目の前の地面に、オレンジ色の頭を持つ鳥が横たわっている。

 既に事切れているようだ。


「この辺では珍しいコマドリね。迷い込んで来たのかしら?」

「うん……でも、もう……死んじゃってて……かわいそ……」

「あらっ、莉羅ちゃんったら優しい! かわいい!」


 桜は妹の頭を撫でる。

 そんなスキンシップには無反応のまま、莉羅はコマドリの死体を両手ですくい上げた。


「その死骸、どうする気なの?」

「……裏庭に……お墓、作って……あげる……の」

「ふーん。でも莉羅ちゃん」


 桜は小首をかしげ、庭へと歩き出した妹の背中に尋ねる。


「どうして、生き返らせてあげないの?」


 その言葉に、莉羅はぴたりと足を止めた。


「自然の摂理に反するとかなんとか、そういう系?」

「……んーん……自然の摂理、なんてものは……人間が、勝手に言っている……概念……」


 そして莉羅はコマドリを見つめ、寂しそうに呟く。


「この子は……死んでから、何時間も……経っている……もう、手遅れ……なの」

「あらそうなの……って、莉羅ちゃんの蘇生には時間制限あったの!?」

「うん……そ、だよ……」


 桜には初耳であった。

 今までも『殺す。生き返らせる』を何度も繰り返している。それを思い返してみると確かに、全て死んで一時間も経たない内に蘇生させていた。

 例外は香港マフィアくらいか。あの時は……


「とにかく、りらは……お墓に、埋めてくる……ね」


 莉羅が再び歩を進める。

 そして桜は、過去を振り返るのをやめた。終わったものをアレコレ考えても仕方がない。


「よーし。お姉様も手伝うかんね!」




 ◇




 そんな姉妹の会話と、同日の出来事。


「よく集まってくれた、役員諸君!」


 都内某所。小さな貸しビルの一室。

 新進気鋭の企画広告会社が、緊急役員会議を開催した。

 若い会社であるため、役員と言っても三十代の若者達。両手でカウントしても指が余る程度の人数だ。


「まず、何も言わずにこの映像を見てくれ」


 社長の滝野川――根元の友人である――が、秘書に指示を出す。

 秘書である女性はプロジェクターに繋いでいるパソコンを操作し、スクリーンに動画を映し出した。


『△Vウ×ガゥ△●×ム○×ァァ』

『うりゃりゃりゃりゃあああー!』


 それは黒いナース服の仮面巨乳ヒーローが、鉄の巨人を退治しているシーン。


「カラテガールと、テツノドンですか?」

「ああそうだ。皆も知っているだろう」

「ええそりゃもう。インターネットで、再生回数がとんでもない事になっている動画ですね」


 役員達の返事に、社長は我が意を得たりとばかりに胸を張る。


「我が社は、このカラテガールで一儲けするぞ!」


 そう宣言し、机を叩きながら立ち上がった。

 騒めく役員達。


「企業下請けとして企画広告を打ち出すだけでは、どうしても会社発展に限界がある。それよりもカラテガールを利用し、我々自身が巨大なイベントのオーナーとなり、それを宣伝し盛り上げていくのだよ」

「待ってください社長。カラテガールを使うと言っても……」

「先程諸君が言ったように、彼女の動画は軒並み凄まじい再生回数。すなわち凄まじい人気! つまり、カラテガールは金になるのだ」

「そりゃあ、その理屈は分かりますよ社長」


 役員達は、難しい顔で唸った。


 今までも、様々な企業があの女性ヒーローに接触しようと試みていた。だが彼女は、それを全てつっぱねている。

 あまりにもしつこく迫ったスカウトマンに至っては、怒ったヒーローのオーラに圧倒され、泣きながら脱糞してしまった程である。


「カラテガールは、企業広告塔になるのを完全に拒んでいますよ」


 理由は分からない。正義のヒーローなんてやっているのだし、何かしらの信念があるのだろう。と言うのが業界の通説。


 本当の理由はもっと単純だ。

 真奥まおく桜は、ヒーローに生徒会にお嬢様ごっこに武術に勉強に弟へのセクハラに忙しく、これ以上活動範囲を広げられないからである。


「その懸念は分かる。私も、カラテガールが我々のビジネスに賛同してくれるとは思わない」

「ええ……では、彼女をどうやって利用すると言うのですか」

「ふむ。それはだね……」


 役員達が予想通りの反応を見せ、滝野川社長はしたり顔になる。


「説明のため、次の映像を観て貰おうかな」


 社長がそう言うと、秘書が新たな動画をスクリーンに映し出した。

 そこには、象ほどの大岩に両手で触れている青年の姿。


『おおっしゃあ!』


 青年が気合いを入れると、岩が派手に砕け散った。

 役員達は、またもや騒めきだす。


「次の映像」


 また別の動画。

 目から光線を出す老人だ。その光線は分厚いコンクリート壁を貫き、野球ボール程の穴をあけた。


「次」


 体が鋼鉄のように固い少年。

 逆にドロドロに溶ける女性。

 異形の姿に変身する童女。

 閃光弾のように激しく光る男。


「社長。これはトリック映像か、それとも……」

「もちろん本物の超能力だ。カラテガールと同じくな」


 滝野川社長は、堂々とした笑みを浮かべる。


「この超能力者達は、私のビジネスパートナーが()()()ものだ。いわば『人工超能力者』。まだまだ増やし続けている」

「つ、作った……人工……増やす……ですか?」

「どういう事です社長!」


 動揺している役員達。

 滝野川社長はわざとらしく大きな咳をし、彼らを一旦静かにさせた。


「そのビジネスパートナーは、とある方法で『他人を超能力者』に出来るのだよ」


 もちろんビジネスパートナーとは、根元のことである。


「なんと……信じ難い……」

「とある方法とは。も、もしや人体改造でしょうか……?」

「ふむ、それは分からん。彼の機密情報というわけだな」


 これは嘘だ。

 滝野川社長は『超能力者を作り出すプロセス』を根元から全て聞いている。

 ただ役員達に教えたくなかったのだ。彼らはあくまでも自分の駒。余計な知識は与えない方が良い。


 役員達は更に質問する。


「超能力者を作り出すとは……もしかしてカラテガールや毒霧忍者も、その方法で作り出された能力者なのでしょうか?」

「それは分からん。そうかもしれんし、そうじゃないかもしれんな。私には判断しかねる」


 これも嘘。

 根元から「カラテガール達は、俺とは関係ない」と聞いている。


「ともかく『我々が作った人工超能力者』の話に絞ろう。彼らには、こう伝えようと思う」


 スクリーン画面が切り替わる。

 今度は動画ではなくスライドだ。二つの文が書かれている。


『①君達は星の力に選ばれたヒーローだ。人々を助けろ』

『②他のヒーローは倒せ。最後まで生き残った者は、なんでも願いが叶う』


「社長、これは一体……」

「ふむ。まず①。もっともらしい嘘設定で、人工超能力者達をその気にさせるのだ。星の力とは、夜空に輝く星でもこの地球そのものでもどちらでも良い。細かい事は考えず、彼ら自身の想像力に任せた方が効果的かもしれんな。ただ『それっぽく』なれば充分。星空のヒーロー……彼らのことは『星屑英雄スターダスト・ヒーローズ』とでも名付けようか。子供じみているくらいの名称が丁度良い」


 星の力、という設定。

 この計画を立てている時に、根元がふと「流星……」と呟いた事から着想を得た。

 根元自身はその呟きを覚えていなかったのだが。


「コスチュームや武器、活躍に応じた報酬を我が社が用意する。そして彼らのヒーロー活動を専用ホームページ上で独占配信。上手くいけば、カラテガールのような人気ヒーローが、我々の手で誕生するやもしれぬ」

「ヒーローの独占配信……なるほど。カラテガールがブームの今、軌道に乗ればかなりの収益が見込めそうですね」


 社長は頷き、さらに説明を続ける。


星屑英雄スターダスト・ヒーローズのコスチュームには、発信機と録音機能を付けておく。ヒーロー活動が始まったら、すぐに我が社の撮影部隊が飛んでいくのだ。撮影隊が辿り付くまでの間は、とりあえず音声だけでも録音しておく。事業が軌道に乗れば、録音だけでなく小型カメラによる撮影も出来るようにしたいがね」


 その計画に、役員達は「なるほど」と理解を示す者が半分。「はたして軌道に乗せることが出来るのか?」と疑問顔が半分。

 後者の役員達を見て、滝野川社長は、


「当然、これだけでは成功しないだろう」


 と、彼らの考えを見透かすように言った。

 疑問顔だった半分が頷く。


「そこで②だ」


 社長はスライドを指差す。


『②他のヒーローは倒せ。最後まで生き残った者は、なんでも願いが叶う』


「『願いが叶う』という偽りのニンジンを目の前にぶら下げてやり、星屑英雄スターダスト・ヒーローズ同士で決闘させるのだ。ヒーローと言っても即席、しかも最近超能力を獲得し増長している奴ら。ご褒美があれば喜んで殺し合うはず。戦いを避け逃げる者もいるだろうが、それを後ろから刺し殺す者もいれば娯楽になる。スターダスト・バトルロワイヤル。いや、コロシアム……ううむ、シンプルにスターダスト・バトルか。人助けの映像よりも、こちらの方が遥かに話題を呼ぶ」


 その説明に対し、役員の一人が手を上げ発言した。


「ヒーロー同士の殺し合い大会を、我が社が開催するのですか? さすがにイメージが悪いですよ」

「ああそうだ。なので名前だけの別企業を設立し、我が社は関係ないていを装うのだよ」


 滝野川社長は椅子に座り、腕を組んだ。


「殺人映像を配信するのだ。広告費で稼ぐことは出来ないだろう……最初はな。だが話題になれば、そんなものどうとでもなる。ヒーロー達の専門誌やニュースペーパーを自社出版、それにキャラグッズ販売等の小遣い稼ぎも出来るだろう。我々に『人工超能力者達を作っている』というアドバンテージがある以上、便乗してくる他企業にも負けん。まずはとにかく話題になればいいのだ。話題にな……よし、次」


 社長は再び秘書に指示し、スライドを操作させた。

 文章②の下に、補足文が現れる。


『補足:ヒーローは、他のヒーローが誰なのかを知らない』


「これが肝心な部分だよ、諸君!」


 社長はせっかく椅子に座り直したばかりだが、再び勢いよく立ち上がった。


「こうしておけば、本来無関係なはずのカラテガールに、戦いを挑む者が現れるだろう?」




 ◇




 会議終了後。

 社長室。


「ふん。役員達の反応は、まずまずと言ったところか」


 滝野川社長は部屋から秘書を追い出し、ビジネスパートナーである根元に電話をかけようとした。

 彼には会社名義で新しいスマホを買い与えている。


 あと一操作で通話発信、という所でノックの音がした。


「社長。よろしいでしょうか」

「うん?」


 男性社員の声。

 先程の会議にも参加していた、役員の一人が訪ねてきたようだ。


「ああ、入りたまえ」


 滝野川社長は携帯電話の操作を中断し、社員を招き入れる。


「どうしたんだ?」

「ええ。その……ええと、ですね……」

「何? なんだか歯切れが悪いな。言いづらい事柄なのかもしれんが、ハッキリ喋って報告してくれないと困るぞ」

「分かりました。実はですね……あ、社長。スーツにゴミが付いていますよ」


 そう言って、社長の体に触れた。


「ああすまないな。それより話と言うのは一体なんだね?」

「はい。それがですね」


 社員は、口の端を歪ませた。


「社長に死んでもらおうかな。なんて思って」


 その言葉を発した瞬間。


「……え?」


 滝野川社長の上半身が床に落ち、叩きつけられた。


 自分の腹から下部分を、見上げている。

 上、下。()()から大量の血と臓器が漏れている。


 社長の体は、二つに切断されていた。


 突然すぎる体の消失。不思議と痛みは無い。

 社長は、虚ろな目で社員を見上げた。


「ど、どうし……お前、能力……? ね、根元に……あった……のか……?」

「へえ。あのおじさん、根元さんって名前なんですね」

「き、きさ……ま……どこで……」


 滝野川は声を振り絞る。

 呼吸がままならない。痛みも徐々に感じてきた。


「すぐ近くの繁華街ですよ。突然話しかけられ肩を叩かれた。その後すぐでした……なんとなく触れた鉄の看板が、綺麗に真っ二つ。その瞬間理解しましたよ。私はあのカラテガールと同じ、スーパーヒーローになったのだと」


 彼はナルシシズムを満足させるように、目を閉じ両腕を頭上へ掲げた。


「急に発動したスーパーパワー。そのきっかけは、あの肩を叩いたおじさんが怪しいと思っていたのですが……今の社長の態度だと、ビンゴのようだ」

「ぐっ……う……」

「でも根本さんも、まさか私が滝野川社長の部下だとは思っていなかったでしょうね」

「……だ、だが、私を殺して……ど、どうす……ふ」


 滝野川社長の意識は薄れ、それ以上何も言葉を発せなくなった。


「社長を殺したのは、自分の能力の出所を知ったからです。人工超能力、なるほど。ならばこれを利用しない手は無いでしょう」


 社員は念入りに、滝野川社長の頭部も切り刻む。


「とにかく社長の後釜に就いて、星屑英雄スターダスト・ヒーローズで一儲けしとこうかなって思いまして。こんな能力があれば、皆も私を新社長だって認めてくれるかも」


 社員はそう言って、床に落ちている滝野川()社長のスマホを見る。

 そこには、根元の名前と電話番号が表示されていた。


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