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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第六章 オカマ、ウサギ、宇宙、
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30話 『姉と忍者と男とオカマ』

 キルシュリーパーこと真奥まおく桜と、殺し屋グロリオサは、暴漢達を縛り上げ女湯の隅に寝転ばせた。

 暴漢達は全部で五人。内一人は複雑骨折状態のため縛る必要も無かった。


「とりあえず他四人も両足の骨折って、逃げられないようにしとこっか」


 軽い口調で、桜は近くにいた男の左すねを踏み砕いた。


「……あ、あああ痛い痛い痛いよおお」


 建屋内に響き渡る、男の悲痛な太い叫び。

 凄惨な拷問に、生徒会女子達からも「きゃあっ!」と短い悲鳴が上がる。


「お次は右足を~」

「やめ……こひゅっ……い、痛い助け……」

「我慢しなさい男でしょ」


 そんな桜に苦言を呈すように、「お、おいカラテガール!」とグロリオサが割って入った。


「何もそこまでやる必要はないだろう、子供達の前だぞ!」


 そう言って、少し離れた脱衣所の方を気にする。


 脱衣所では服に着替え終わった女生徒達が、震えながらこちらを見ている。

 皆は警察が到着するまで待機中。孤島のため駆けつけるのにも時間がかかるらしい。


 桜は自分に注意するグロリオサを見て、「うーん……?」と少し首を捻った。


「なーによ忍者。殺し屋のクセに真面目ね。足くらいどうしたってのよ、あんたなんて人殺すのが職業でしょ?」

「いや私はその……」


 桜の言葉にグロリオサは言い淀む。

 実を言うと、まだ人を殺した事は無かったのだ。


 組織内では未熟と判断されているため、命のやりとりをしない『懲らしめる』程度の依頼しか貰っていない。


 最初にキルシュリーパーに挑んだ時も、「金にならない仕事だから下っ端に行かせとけ」と言われたからである。それが初めて人を殺す仕事……になるはずだった。

 まさかこんなに長期間倒せないまま、引きずってしまうとは思っていなかった。


「と、とにかくだな。私の毒でまだ手足が痺れているのだから、警察が来るまではこの男達も動けない。万一毒が解けても、ここは室内温泉だ。入口と窓だけ注意しておけば逃げられん」

「……まっ、別にあたしとしては折っても折らなくても良いんだけどさ~」


 桜はつまらなそうな態度で渋々と了承した。

 男達を見下ろし、一番体格の良い男を選び、骨が折れない程度の力で顔を踏みつける。


「それよりあんたらさ、どうしてこんな孤島の女湯を覗きに来たのよ?」

「そうだ。この島全体が私有地なのだぞ。不法侵入だ貴様ら!」


 ヒーローの言葉に呼応するようにグロリオサも言った。

 そんな殺し屋の姿を、桜はどこか冷めた目で見ながらも、わざとらしく「あら凄ーい」と口にする。


「すっごい金持ち。島全体が私有地なんだ? ……九蘭の?」

「ああ、九蘭家の私有地だ!」

「ふーん……」


 桜はグロリオサの目を見て、何か得心したようにマスクの下で口角を上げた。


「まっそれはそうとして……その『私有地』である海に囲まれた島に、どうしてあんたらみたいなチンピラ集団が住み着いてんのよ?」

「そうだ。立ち入り禁止だぞ!」


 桜とグロリオサの問いに、男は毒で息苦しそうにしながらも、


「……し、知らねえ……こひゅっ……」


 と、返答を拒否する。

 その反抗的な態度に、桜は何故か楽しそうに笑う。


「あらまあやだー。自分でも知らないのにこんなトコに来ちゃったんだ? 夢遊病なの?」


 そう言いながらしゃがみ込み、男の右手小指から中指にかけての指三本を掴む。


「じゃあ、起こしてあげないとね」


 躊躇なく、へし折った。


「ああっぎゃあ! いで、いで、いでええ」

「うるさっ。黙りなさいよ」

「あああああああ!」


 残る二本の指も折った。

 脱衣所の女生徒達からも、「いやあああ!」と再び悲鳴が上がる。

 グロリオサは慌てて桜の腕を掴んだ。


「やめろカラテガール! 子供達の前だと何度言えば……」

「知らないわよ。コイツらが素直に口を割るか、意地を張り通して痛みで死ぬか。もうその二つに一つしかないのよ」


 ヒーローマスクの下で、ニタリと冷酷に笑う。


「あたしが、そう決めたんだから」


 そう言って次は、男の眼球を掴むべく二本の指を近づけた。

 巨大な鉄怪獣さえ倒したというヒーローの、その異様な迫力と行動に、男達の意地は簡単に消え去ってしまった。


「ままま待ってくれ……ごほっ……言う、言うよ……! 俺達は兄貴アニキに連れられて、警察ポリから隠れるためにこの島に来て……」

「そ、そうだ! こひゅっ……そして草一そういちさんに言われて、あの女子高生達を襲いに来たんだよ……はぁ……はぁ……!」


 男達の答えに、桜は立ち上がり腕を組みながら更に聞き返した。


「アニキ? そーいち? 誰よそれ」

「俺たちの族長リーダー……いや、組長オヤジで……」




 ◇




 話は前後するのだが、テルミや桜達が島に到着するより少し前。

 とある男達がこの島に不法侵入し、隠れ家として利用していた。


「いや違うんですよ聞いてくださいカシラ! 取引後の金ぇ持ってくるはずだった俺の舎弟が、馬鹿だから何故か急にバスジャックなんかしちゃって! 金ごと警察ポリに捕まっちまったんですよ!」


 冷や汗だらけの顔で電話越しに言い訳をしているのは、犬舘いぬだて草一そういちという青年。


 暴走族の族長から成り上がり、いまや暴力団の組長である。

 ただし暴力団とは言っても、大きな組の枝葉の枝葉の枝葉のそのまた枝葉にあたる、五次団体のチンピラ組織。

 要は、上位組織の都合が悪い時に捨て駒や生贄になるために存在している、奴隷みたいなものだ。


 電話の相手は上位組織の若頭。草一の直接の上司にあたる男である。


 草一は、若頭に上納するための資金が無くなってしまい、必死に謝っていた。


「捕まっちまっただあ? おうおうおうおう草一よお。そりゃあテメエが、女子供みてえに華奢なホスト崩れ野郎ばっかり舎弟や子分にしてるせいじゃあねえのか? ひ弱なんだよテメエんトコは」

「うぐ……い、いえカシラ。中にはちゃんと筋肉質な男も」

「んな事ぁどうでもいいんだよ!」

「ひぃっ」


 若頭は、電話越しでも身をすくめてしまうような、威圧感のある声で怒鳴りつけた。


「じゃあダイナマイトを腹に括りつけて警察に特攻するか、シンプルに俺に死体ホトケにされるか、選べや草一」

「い、いや……あ、カシラ」


 電話が切れた。


「草一の兄貴、どうでしたか?」

「顔色悪いようッスけど、組長オヤジ……」


 舎弟や子分達が心配顔で聞いてきた。

 草一は、


「駄目だ……警察署で死ぬか、カシラに殺されるか、選べだとよ……」


 と、運命を悟ったような悲痛な表情で答える。


「死ぬか殺されるかって……き、きっと若頭の冗談ですよ兄貴」

「カシラは冗談を言わねえ……」


 草一は絶望し、床に膝をついた。



 危ない橋を渡り大金を作った。

 実際に現金が手に入るまでの期間、一時的に身を隠すため、若頭に言われるがままこの島に不法侵入した。

 金持ちの別荘島。今の時期は使用されておらず、八月になるまで誰も来ない。おあつらえ向きだ。

 セキュリティー機器がある別荘建屋には入れないので、機器の無い小さな倉庫で寝泊まりする事になった。


 そして数日前。

 いよいよ金が手に入り、二人の舎弟にこの島まで運ばせようとした。

 しかしどうした事か、その二人が急に不必要なバスジャックを行い、全て台無しにしてしまったのだ。



 上に納めるための金が、一瞬で消えた。

 しかもそれを警察に押収されるという、下手をすれば上位組織にも波及する失態。

 せめて上納金分だけでも掻き集めようにも、島の外に出ると警察に捕まる。

 そうこうしている間に、ついに上納の期限日となってしまったのだ。



 若頭は厳しい男。

 こうなった場合、草一は組長という立場を剥奪され、そして殺される。

 他の五次団体への見せしめとなるのだ。

 草一は、今まで何度もそういう場面を見てきた。


「俺は、もう終わったのか……こんなんで死ぬのか……」


 草一が泣きそうな声で呟いた、その時。



「【こっちから出向いてやって、カシラってのを逆にヤっつけちゃえば良いのよぉ~ん!】」



 突然、ゴツイ男の声がした。

 草一は顔を上げ、周囲を見回す。


「……おいお前ら、さっきのカマっぽい喋りは誰だ?」

「カマ? 何言ってるんですかい、草一の兄貴」

「【こいつらにはワタシの声は聞こえないわよぉん。それより、目を閉じてご覧なさいよぉ】」


 また声がした。

 自分は恐怖のあまり、ついに発狂してしまったのだろうか? と思いながらも、草一は言われた通りに目を閉じる。


「【ハロ~ぉん】」


 闇の中に、大柄で筋肉質な男が立っていた。

 両手で白いウサギを抱え、優しく撫でている。


「うわあっ!?」


 草一は驚き目を開け、立ち上がろうとしてバランスを崩し、尻もちをついた。

 組員たちの「どうしたんですかい!?」という言葉は無視し、再び目を閉じる。


 まぶたの裏には、やはり先程の男がいた。


「【ワタシの名前は、ロンギゼタ601シックスハンドレッドワンよぉん】」

「ろ、ロンギ……?」

「【気軽にロンちゃまって呼んでねぇん。アンタの事はソーっぴで良いわよねぇん?】」


 大柄な男は、わざとらしい程のオカマ口調で語りかけて来る。


「【それよりぃ~ん、ソーっぴ。ちょっと床を叩いてごらんなさいよぉん】」

「床を……? どうして」

「【いいから早くぅん!】」


 急かされた草一は、目を閉じたまま、手の平で床を軽くはたいた。


 ズドンという巨大な音。

 そして揺れ。


「わあああ!? 地震!? 地割れ!? あ、アニキィィ!」


 そして組員たちの叫び。

 それらの騒々しさに、草一は再び目を開けた。


「……なんだ、これ?」

「【すんごいでしょぉん? 軽く叩いただけでコレ。これがソーっぴの新しいパワーなのよぉん】」

「お、俺の……パワー……?」


 草一が叩いたコンクリートの床が割れ、倉庫の壁まで砕けている。

 そして外には数十メートル先まで続く、大地を穿つ巨大な亀裂が入っていた。




 …………




「カシラ」


 突如、背後から草一の声。

 事務所で日本刀の手入れをしていた若頭は、驚いたように振り向いた。

 その場に三人いた組員達も、草一が魔法のように突然現れたように見え、困惑している。


「草一? おめえ、あの金持ち島に潜伏してたんじゃねえのかよ。さっき電話したばかりだが」

「カシラに渡したいモンがありまして。泳いで駆けつけたんでさあ」

「お、泳いでだあ?」


 実際に草一は泳ぎ、そして走ってここまで来た。

 距離にして約五キロメートルの水泳と、五十キロメートルのマラソン。

 そして現在は、先程の電話からまだ十分も経っていない。


「ふん、島ぁ抜け出して元々この近くにいたってわけかよ……で、何をプレゼントしてくれるってんだ草一? 上納金を用意し……」

「バーン」


 草一は手を銃の形にし、若頭の額に人差し指を当てた。

 その蛮行に、周囲の組員達はドスを構える。


「……何の真似だ草一」

「プレゼントってのは、地獄へのフリーチケットでさあ」


 次の瞬間、事務所内が赤く染まった。


 まずは若頭の頭が吹き飛んだ。

 次に、三人いた組員の体がバラバラに分解された。

 その一連の虐殺が終わるまで、十秒もかからなかった。


「はは……はっはっは! すげえ、すげええええよ! ロンギゼタシックス……ええと、わかんねえ601(ロクマルイチ)!」

「【んもぉーロンちゃまって呼んでぇん! でもこれで分かったでしょぉん、ソーっぴ。アンタは特別な人間になったのよぉん……物語の、主人公にぃ!】」




 ◇




 草一は意気揚々と手下達が待つ孤島へ帰った。

 船を使う必要も無い。今なら太平洋さえ泳いで横断できる。


 上位組織から奪い取った紙幣や貴金属を眺めながら、皆で祝杯をあげた。


「俺は新しい組を作るぞ! 日本の全ヤクザの頂点に立ってやっからよぉ、テメーらついて来いやあ!」

「いよっ、兄貴!」

組長オヤジ、カッコいいぜ!」

「明日はこの島を出て、さっそく本土で大暴れだからなあ!」


 そして一晩中飲み明かし、朝になった。

 舎弟達は皆床で眠りこけている。

 草一は高揚し、いつまでも酒を飲み続けていた。


 一晩中飲んでいても全く眠くならない。それどころか力がどんどん満ちる。

 酔っ払って良い気分を味わいながらも、頭はハッキリとしている。

 これもロンギゼタ601の力のおかげであろうか。


「【ちょっとぉん、ソーっぴ飲みすぎよぉん?】」

「そうだな、確かにちょいと飲みすぎちまったかも。今日から新しい組織を立ち上げるってのにな」


 ロンギゼタ601にたしなめられ、草一は酔い覚ましに海岸へと続く林の中を歩いた。


 すると、



「わー島だー砂浜だー」

「泳ぐ……のはまだ季節が早いから、波打ち際でぱしゃぱしゃターイム!」

「荷物が濡れちゃう濡れちゃう!」



「……女のガキども? 時期外れだが、金持ち連中がもう来ちまったのか。まあ今となっちゃあどうでも良いけどよお」


 草一は一応木の影に隠れながら、様子を伺った。


「なんだ全部メスガキかよ。女子中学生だか高校生だかが数人に、小学生が一人……か」


 ちなみに小学生と評されたのは、実際は二十六歳の成人女性である。


「【あら、男の子もいるみたいよぉん。可愛い顔してるけど、ワタシはもっとマッチョでゴッツイ系が好みねぇ~ん】」

「おお? そうか、ありゃあ男か……うん、女の子っぽい顔立ちだが、確かに男だ……」


 草一は目を凝らし、その一人だけいる男の子――テルミの顔を眺めた。

 そして小さく舌打ちをする。


「ちっ……」

「【あらぁんソーっぴジェラシ~? そうよねぇ~ん。男の子一人で、あんな大勢の女の子達に囲まれちゃってぇん】」

「ああ、許せねえな……」


 草一は憤怒した。



「あんな可愛い少年が、メスガキどものモノになるなんて!」



 そして、熱い目でテルミを見つめるのであった。

 ロンギゼタ601はしばらく絶句した後、ぽつりと呟いた。


「【な~んかシンパシー感じると思ってたけどぉん……アンタもソッチ系だったのねぇん】」


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