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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十六章 魔王、魔王、長男、
189/200

140話 『魔王と姉』

「泥人形……?」

「うん。僕が死ぬ前はただの泥の塊だったのさ。いいや死ぬも何も、そもそも生きていたのかどうかも怪しいけどね」


 そう答えて静かに微笑む()。その顔を睨む莉羅。そして悩み、眉間にしわを寄せるテルミ。

 三人は今、町中のオープンテラスで話し合っている。

 桜の手にはタピオカミルクキャラメルコーヒー。テルミと莉羅はドリンク無し。


 姉を乗っ取っている者が、どうしても「外でお話しようよ」と言って譲らず、弟妹を連れだしたのだ。

 そしてカフェのテラスにて、大昔の『泥人形』の話を直々に聞かせたという次第である。


「泥の時と違って、今の体は感情が自然に表情として出るんだ。まったく楽しくてしょうがないよ」


 そう言って桜はドリンクを一口飲み、「うん、美味しい!」と小さく叫び、妖艶に微笑んだ。


「泥だった頃は体をこねて何にでも変身してたけど、今の体ではそれが出来ないのがちょっとだけ不便かな? やろうと思えば、やれるかもしれないけど……」


 その台詞を聞き、テルミはテーブルに手を付き、慌てて身を乗り出す。


「やめてください!」

「冗談さ、いきり立たないでよテルミ。桜の体は大切にするよ。何百億年もかけてようやく手に入れた、僕にとって唯一の器だからね」


 飄々と答える桜に、テルミは一応ほっと一安心。

 だが完全に安心する訳にもいかない。警戒を怠らず、引き続き桜の様子を監視する。


 そんな中、周囲にいる人々が突然騒めきだした。


「おお~……」

「えっマジか。映画じゃなくて?」


 皆、頭上の大型街頭ビジョンを眺めている。

 テルミが確認してみると、緊急ニュースが流れていた。

 町の雑音にかき消され、映像音声は聞こえない。だが字幕で様子は分かる。


『NYで銃乱射。八人死亡』


 簡単に言うとテロだ。

 しかも爆弾などの近代的かつ効率的な兵器では無く、数人の暴徒が町中で銃を乱射している、というタイプのテロ。

 場所はアメリカ、ニューヨーク。

 上空から報道カメラが撮っているライブ映像。


 アメリカンなポリスやアメリカンな軍人に囲まれている犯人達は、拳銃は当然、ショットガンやマシンガンを撃ち鳴らし、傍らにはランチャーまで用意してある。

 銃社会とは言え、明らかに一般人が用意できる装備では無い。

 ニュースのコメンテーターは、元軍人が云々やら政府抗議が云々やらと、詳しい事情を解説している。政治絡みの自国テロらしい。 


「桜はああいうのを見ると、手出ししたくて堪らなくなっちゃう性格だったね」


 ()がぽつりと呟いた。


「……『だった』……じゃ、ない……」


 と、まるで桜を過去の人扱いしているような台詞に対し、莉羅が抗議する。

 桜は「ふふっ、そうだね。ごめん」と悪びれずに謝った。


「まあそれはともかく、桜の性格についてのお話さ。彼女はテロリストを放っておけないタイプ。何故ならヒーローになりたがっているから。いや、事実ヒーローだから。こんな風にね」


 次の瞬間。

 周囲の騒めきが、突如として歓声に変わった。


 大型ビジョンに映るテロリスト達が、颯爽と現れた人物に次々なぎ倒されている。

 その人物は銃弾を避けることをせず、当たっても全く気にせず犯人へ近付き、軽く当身。

 こうして一人を気絶させ。次にまた一人を気絶させ。またまた一人。またまたまた一人。

 瞬く間に制圧した。


「すげー!」

「ヤベエよ、アイツやっぱヤバ強!」

「えっ、なんでアメリカいんの!?」


 地球の裏側で起こった暴動と鎮圧劇をライブ映像で見て、皆は大盛り上がりしている。

 しかも暴動をたった一人で治めたのが、我が国お馴染みのヒーロー。 

 大きな胸を強調する、ぴっちりとした黒いライダースーツ。ところどころに入っているピンクのラインが可愛いポイント。


「カラテガール!」

「ついに国外追ほ……じゃなくて、海外進出したのかー!」

「おお、今日の仮面はピンク色だ! 初期バージョンだな!」


 最近は色々なカラーバリエーションの衣裳を着こなしていたが、本日はピンクのヘルメット。

 顔から足まで、初めてヒーローに変身もとい変装した時と同じ衣装だ。


「カラテ! カラテ!」


 沸き起こるカラテコール。

 画面上のヒーローは、望遠カメラに向かって投げキッスをした。

 そして目を丸くして画面を見るテルミ。そんな兄の手を握り震える莉羅。


「今ニューヨークで暴れている桜は、ただの幻影さ。実体はあるけどね。関係ないけど、ニューヨークの幻って昔の映画を、最近桜が動画配信で見てたよ」


 桜は楽しそうにそう言って、また一口タピオカミルクキャラメルコーヒーを飲む。

 タピオカがストローに詰まり、口の吸引力を上げる。


「ずぞぞ……でもカラテガールじゃなくて、キルシュリーパーだ。って、桜が文句を言ってるかもね」




 ◇




「カラテガールじゃなくて、キルシュリーパーよ!」


 言ってた。


「……はっ、夢!? うん? 何故かキャラメルコーヒーの味がするわ!」


 桜の肉体(・・)がタピオカを勢いよく吸い上げていた、まさにそのタイミング。

 桜の()で、桜――この場合『本物の桜』――の人格が目覚めた。


 寝起きの桜は、とりあえず周りを見回そうとする。が、出来ない。

 何か体に違和感がある。


「なにこれー!? え、あたしの体が無ぁーい!」


 自身を触って確認したいが、触るための手も無い。

 今の桜は、人格だけの存在。

 ただ、思考するだけの存在。


「うあーん。どーしよどーしよ。とりあえず二度寝して考えるかぁ~。いやもっとマジメに対処しなきゃダメかしら?」


 桜は、意外と呑気に構えていた。


 普段、不良などに「良い乳してんじゃねーか」と絡まれたりした時には、問答無用でブチ切れている桜。

 しかし『身体が無い』という深刻も深刻過ぎるような状況に陥ってしまったら、逆に冷静になるタイプの性格。

 つまり元来肝が据わっているのだ。


「さて状況整理でもしましょ。何をやって、こんな事になっちゃったんだっけ?」


 桜は眠ってしまった直前の出来事を、物理的に無い頭を絞って、どうにか思い出す。

 暗殺組織グロリオサのリーダーであるルイ老人と戦い、その中で、


「あああっ、そうだ! テルちゃん! テルちゃんが死ん…………いえ、そうだ……違う……」


 更に思い出す。


 弟が死んだことに逆上し、その感情の揺らぎを『何者か』に利用された。

 力が制御出来ず、考えが纏まらなくなり、体が自由に動かせなくなり……


 そんな朦朧とした意識で、テルミが莉羅によって助けられた所までは確認していた。

 その救助を手伝ってくれたのが、柊木いずなやウサギやオカマや妖怪達、そして知らないおじさんとか。


「そうよ! テルちゃんは無事だったわ! ふう~、その点は安心だけど」


 だがテルミの回復を見守っている中、桜自身の体は完全に、


「誰か……っていうか『大魔王の力』に乗っ取られていたようね。あたしの意思とは無関係に『時空のなんちゃらが繋がってるのーサー』とか、沖縄弁を標準語のイントネーションにしたカンジっぽいアレで喋ってたわ」


 桜は更に考える。


 幸運の女神の力、磁力怪獣テツノドンの力、そしてグロリオサの力には意識が宿っていた。

 大魔王の力にはそういうのは無いと思っていたのだが……あったらしい。


 その意識は、以前の力の持ち主(オーナー)である大魔王自身のものなのか。

 それともテツノドンみたいに、持ち主とは無関係に『力自身』が意識を持っているタイプなのか。

 もしくはグロリオサのように、力の犠牲者の残留思念なのか。


 現状では判断できない。

 しかし。一つだけ桜が言える事は、


()には莉羅ちゃんもいるし。まっ、どうにかなんでしょー」


 という楽観的で妹任せな台詞である。


「とにかく。こんな体も無い、よく分かんない状態のあたしが、一体どんなコトを出来るのか……まずは色々と試してみなきゃね」


 前向きな姿勢の桜。

 ただこの段階で、彼女が見落としているポイントが一つある。


 現時点で、桜の体が乗っ取られて一日経過。

 しかし桜自身は、「まだ三十分程度しか経っていない」と思っている。

 この特殊な状況、および覚醒した泥人形の強大な魔力の影響により、時間感覚が狂い始めているのだ。


 時間の乱れ。これが降り積もると、あっと言う間に数万年経ってしまう。

 そのピンチに、桜はまだ気付いていない……




 が、


「……なーんか変なカンジ。時差ボケしてるわね、あたし」


 普通に気付いた。


「時計とカレンダーが必要ね」


 桜は「ううう~ん」と念じてみた。

 すると、すんなり実現。日付表記有りのデジタル目覚まし時計が現れる。

 桜が更に「むむむ~ん」と念じると、時計の針が動き、正確な日時を示した。


「うえー、二十時間くらい経ってる!」


 時計を見て、桜が驚いた。

 ちなみに時刻合わせは、その辺に飛んでいる電波を適当に受信しておこなった。


 そして桜は更に気付く。

 超能力を使えた。

 だと言うのに。


「……へえ。表のあたし(・・・・・)は、あたしが『力』を使った事に気付いてないみたいね。それどころか、あたしの目が覚めたって事にも気付いてない」


 別に「気付いてますかぁ?」なんて聞いた訳では無い。

 不思議な感覚だが、何故か分かるのだ。

 今桜の体を乗っ取っている『何者』かは、桜本来の意識に干渉出来ないらしい。そもそも存在を感知する事も出来ないようだ。


「そりゃ当然か。あたしが表だった頃も、中の人には気付いてなかったし……でも、中の人(あたし)(ヤツ)を感知出来る」


 桜は不敵に笑った(・・・)

 ()()を当て、可愛らしく小()をかしげる。


「ヤツが『気付いてない』ってのは、あたしの有利(アドバンテージ)ね。奇襲もかけ放題だわ」


 ()を組み。豊満な()を反らす。


 ――桜の意識は、いつの間にか『真奥桜本来の姿』を(かたど)っていた。


「こっからは戦争ってワケ。あたしと『力』が肉体を奪い合う。桜大戦! って言うと、父さんが大事に持ってる昔のゲームみたいな名前だけど」


 桜は念じ、豪華な椅子とワイングラスを出現させた。グラスの中にはファンタオレンジ。タピオカ入り。


「根こそぎ奪い返す。それだけじゃなく利子までブン取ってやるわ! おーっほっほっほっほっほ!」


 状況は圧倒的に不利。

 しかし桜は、自信満々に高笑いした。


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