114話 『姉は恋する異世界乙女のお手伝いをする』
其の十七。再び。
こんにちは。
恋する乙女。愛の奴隷。レア・レアーイ・レアインです。
前回までのあらすじ!
聖王レアレアと魔王。光と闇の覇権をかけた闘いから数千年……
レアレアの生まれ変わりである私は、親友面したブス女に裏切られ、王子様を寝取られてしまった。
そこで私はブスに天誅を与えるべく、黒魔術で魔王を召喚。
光と闇が、久方ぶりに邂逅す。
世界が、震え出した……!
「何ぶつぶつ言ってんのよ。さっさと要件済ませて、あたしを元の世界に戻しなさい」
と文句を言っている『喋る指』が魔王。
私の片割れ。分身。古の好敵手。
「誰が片割れよ、うざったいわねあんた。何であたしをセータン? って呼んでんのかは知らないけど、とにかく急げって言ってんの!」
「ぶへっ」
魔王が、私の鳩尾に力強い体当たりをしてきた。
これが闇のフレンドシップ、スキンシップってヤツね。
私は思わずゲロ吐いちゃいそうになるのを堪え、魔王を呼び寄せた理由を説明したわ。
あのクソゲロ女に、闇の裁きを与えよ! ってね。
すると魔王は「ふーん」と興味無さげな声を上げたわ。
ちょっぴり失礼な態度。ツンデレってわけね。
「復讐ねえ。ただの八つ当たりな気もするけど……まあ別に良いけどさ。でもそんな回りくどい真似するより、直接その王子様とやらに夜這い掛けちゃいなさいよ」
「夜這いですとぉ!?」
唐突な提案。
さすが悪魔の王。ピュアな私は思いもつかなかったような、極悪非道のアイデアを出してくれるわね。
「誰が悪魔の王よ?」
「ぶへえっ」
再び鳩尾への攻撃。
まったく悪魔は照れ屋だぜ。
「ぐへへひひへ。でも夜這いかあ。なるほど、それは話が早そうでよろしいわね」
「そう。気に入って貰えて嬉しいわ。じゃあ早速」
「そうね、早速……! うっひゃひゃひゃ!」
そして、我が意中の先輩宅へと向かったの。
刻は深夜。町全体が眠っているように静か。
私達は街灯と懐中電灯の明かりを頼りに、先輩んちに辿り着いたわ。
先輩も、もう眠っているはずよ。
彼はスポーツマンで朝練があるし、部屋の窓も真っ暗だからね。
さて。
先輩の部屋を見上げながら、私は魔王に伝え忘れていた事があったと気付いたわ。
「先輩は最近ストーカー被害に苦しんでいるらしく、自宅の戸締りが厳重になってるのよ。この前も扉をこじ開けようとしたら、けたたましいブザーが鳴って警備会社の人が駆け付けて来たんだから」
まったく、ストーカーなんて最低ね。
どこのどいつか知らないけど、私の先輩に手を掛けようとするなんて身の程を知りなさいよね。
「そのストーカーってあんた……いや、そこまで深入りはしないけど」
魔王は何故かゲンナリとした口調で、そう言ったわ。
久々のシャバで、もう疲れちゃったのかな?
「とにかくさっさと済ませましょう。要はホームセキュリティが作動しないようにして、鍵を開ければいいのよね?」
「その通りよ魔王。何か良い方法ある? 魔法でパパッと解決してくりゃ~」
「セータンじゃないけど、そうね……あたしがテルちゃんの部屋に突入する時にたまに使う、『開錠能力』が役に立つわね。それにセキュリティ対策として、電気能力を付加させれば……」
「開錠! オゥ、良いねえ」
私が喜びの声を上げると、魔王はドアノブの上にちょこんと乗ったわ。
猿の足指みたいな魔王。
こうして小高い場所に乗ってるのを見ると、ちょっと気持ち悪いよね。えへっ。
「おだまりストーカー女。とにかく開けるわよ、オラッ!」
魔王が叫ぶと、一瞬、先輩宅がバチンッと火花に包まれた。
そして先輩宅の灯りが全て消える。
それだけでなく、ご近所さん宅や街灯なんかも軒並み消灯。
辺り一帯が停電になったの。
そして暗闇の中で、次はバキンっと金属が弾けるような音。
懐中電灯で照らすと、先輩宅の扉が破壊されて開いていたわ。
停電しているからか、それとも魔王の電気ショックで機器が壊れちゃったのか、警備員達にも連絡が行っていないみたい。
「やっぱり侵入はこの手に限るわね。手じゃなくて足の指だけど!」
魔王が自信満々に言い放ったわ。
さすが魔王!
こんなアッサリとセキュリティを突破するなんて、魔法って凄い!
完全に力技にも見えたけど!
なーんて私が感動してると、
「停電かしら?」
「それより何だ、今の音は……おい、ドアが開いてる!? 誰だ、そこにいるのは!」
先輩のお母さんとお父さん。
つまり私の義理の両親が、懐中電灯を手に持って現れたわ。
でも魔王が、
「ややこしくなるから、これ以上新キャラ増えんな!」
と咆哮。
「うああ……?」
「ふぁぁ……」
その声を聞いただけで、両親はあっけなく気絶しちゃった。
「超能力で眠らせたわ。今の内に先輩の元へ急ぐわよ」
「さっすが、頼りになるぅ!」
私達は二階に上がり、先輩の部屋に侵入。
彼は健やかなイケメンフェイスでスヤスヤとお休み中だったわ。
「ぐっひひひ。よう眠っとりますわぁ」
「それじゃ、後はレイプでも妊娠でも好きにしなさいアホ女」
「あざーす! ウヒヒヒヒ」
私は先輩の掛布団に手を掛けたわ。
でも魔王が「あっ、ちょっと待ちなさい。ヤる前に……」と声を割り込ませたの。
「ここまでお膳立てしてあげたんだから、そろそろあたしを元の世界に返してくれないかしら?」
「元の世界……魔界ね。良いけどどうやって?」
「魔界じゃないけど、呼び寄せた時と同じ方法でよ」
「な~る~」
同じ方法というと、『箱』に私の血を飲ませるってワケね。
私はバッグから、金属製の呪い箱を取り出したわ。
ここで断って悪魔を怒らせても損だし、ノリノリで手首を掻っ切って血を出したの。
「うわ……一切の躊躇も無くリスカしたけど……あんたもしかして、いつも……いいえ、深入りはしないけど」
魔王が若干引いてるけど、何やら誤解しているみたいね。
でもメンヘラ扱いはお門違いなのだけれどね。
私はただ、自分の血を固めて先輩の下駄箱に入れたりしてるだけの、純粋な乙女よ。
ああそうだ、今もせっかく手首切ったんだし、寝てる先輩に直飲みして貰おうっと。えへへ。
「……ああ、これ以上あんたに関わってると気が狂いそうだわ。じゃあね、バイバイ」
「バイバイ魔王。また何かあったら呼……」
「もう絶対呼ばないで!」
そして魔王は、スッと消えた。
どうやら本当に魔界へ帰っちゃったみたい。
不思議な体験だったわね。
まあでも、今は悪魔の余韻に浸っている場合じゃ無い。
だって目の前には、憧れの王子様が無防備に眠っているんだから。
「……ぐっひゃひゃひゃ……しぇんぱぁ~い、今結ばれましょうねぇ……」
私は先輩の布団を剥ぎ取った。
彼ったら上半身裸で寝ちゃってる。マッチョな腹筋がセクシー。
さて下半身も確認しないと……と、私は先程リストカットで使ったナイフを、先輩のズボンに当て……
「わ、わあああああ!」
「うぎゃ!?」
突然、背後で女の叫び声が上がったわ。
そして私の後頭部に妙な衝撃。
振り返ると、裏切り者がそこにいた。
私の元親友。そして先輩と付き合っている、エロ女。
手にずっしりとした厚手の鉄鍋を持っている。
頭が熱い。痛い。
この女、もしや……
「私を……親友の私を、殴ったなああああああっ!?」
「あ、あんたこそ、私がトイレに行っている間に……そのナイフは何よ!? その血は何よ!? 私のカレシに何をしたの!?」
そう言ってアホビッチが、今度は私の横っ面を殴りやがった。
「うぐあああっ!」
重い鉄鍋のインパクト。頬骨が砕け、歯が吹き飛ぶ。
この馬鹿女、何か勘違いをしているみたい。
というかコイツ、どうしてパジャマを着ているの?
もしかして、両親公認でお泊り会でもやってたというの?
「やっぱり、てめえを殺すべきだった……殺す、殺……す……せ、魔王、来て……」
猿の小指を呼び出す私。
でも魔王は、もう二度と私の前に現れなかった。




