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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十一章 天狗、九尾、インビジブル、
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94話 『弟は知り合い』

「と、ともだち……?」


 キューちゃんは目を大きく見開き、自分をお姫様抱っこしているテルミの顔を見た。

 そして、


「ふんっ!」

「痛っ」


 ハイパー九尾ヘッドバッドを、少年の肩に炸裂させた。


「わ、わらわがニンゲンと友達になるわけあらへんやん!」

「すみません」

「うっ……」


 少し残念そうに謝るテルミを見て、キューちゃんはドキリとする。


「んああ、なんどす! ああもう! ああもう! ああもーう!」

「ちょっとー、何二人でイチャついてんのよ。前歯折るわよ?」


 桜の物騒な台詞は置いておき。


 キューちゃんは、ふと千年前を思い出した。

 この少年と顔が瓜二つの武士。

 今まで仲良くなった……という程でも無いが……少なくとも『魅了(チャーム)無し』で喜怒哀楽をぶつけ合うような会話をした人間は、あの武士だけであった。


 ただ、あれは別に友達というわけでは……



 そう考えている最中、自分自身でも信じがたいような台詞が、キューちゃんの口から飛び出した。


「………………お、お兄はんは、わらわと友達になりたいんどすか?」

「はい。せっかく一緒に食事をしたのですから」

「……べ、別に友達くらいなら………………えけど」


 キューちゃんは拗ねた表情で、テルミから目を逸らしながら言った。

 しかしテルミは語末を聞き取れず、首を傾げる。


「すみません、今何と」

「せやから、友達になったるわ! って言いましたんどす!」


 大声を出した後、キューちゃんはバツが悪そうにテルミの眼を睨んだ。

 桜が「何この妖怪女。チョロっ!」とヤジを飛ばしているが、それはさておき、テルミはキューちゃんの台詞に笑顔で応える。 


「では、今から友達ですね」

「と、友達やから……その……わらわと……わらわに……」


 急に気恥ずかしくなり、ごにょごにょと小声になるキューちゃん。


「なぁに見つめ合ってんのよ」


 桜は眉間にしわを寄せながらも、一応空気を読んで手出しせずにいる。

 それに『友達』という単語を聞き、冷静さも取り戻した。


 あくまで『恋人』などでは無い。『友達』だ。

 思い返すと、少々我を忘れて早とちりしてしまったかもしれない。反省反省。

 それによくよく考えてみれば、弟が私以外の女に惚れるはずがない。


 と、自信過剰な桜なのであった。

 とはいえ、


「やっぱムカツクから、死なない程度に殴っておこう」


 未だ物騒なヒーローのままである事には変わりない。

 ニヤリと微笑み、テルミ達に近づこうと一歩踏み出す。

 が、その瞬間。



「分かったどす。わらわ、もうカラテガールとは戦いまへん」



「…………はぁ?」



 桜は思わず間の抜けたな声を上げた。

 キューちゃんが、急に降伏宣言をしたのだ。


「さっき、戦うのはやめとくれって言わはったやろ……とっ友達ぃ……を心配させるのは、あきまへんからなぁ。ホントは勝てるんどすけど! ふふーん!」

「分かって頂けたのですね。ありがとうございます」


 微笑むテルミ。もう一度目を逸らすキューちゃん。そして、


「ちょっとぉ! ありがとうございます、じゃあ無いわよ!」


 腑に落ちず、叫ぶ桜。


 弟と妖怪女がますます仲良くなり、桜としてもますます殴りたい。

 しかし、無抵抗になってしまった者を殴るのは、流石にはばかられる。


「ぐぅ……あ、あんた卑怯よ!」

「えっ、何がどす? 白旗上げてやったんどすから、恨まれる筋合いはありまへん」

「わああ、ムカツクムカツク!」


 一気に精神的優位性が逆転してしまった、ヒーローと妖怪。

 桜は「うがああああ!」と叫んだ後、大きく深呼吸し、気を落ち着かせる。

 そしてボソリと、


「……焼肉」


 と呟いた。


「焼肉がどうしたんどす?」


 ヒーローの唐突な言葉を聞き、キューちゃんは疑問顔になる。

 しかし、テルミは姉の意図が分かった。

 桜は「今夜の夕食は焼肉にしろ。それで姉弟喧嘩はチャラにしてやる」と言っているのだ。

 テルミはキューちゃんに気付かれないよう首を縦に振った。


 桜は一応納得したようで、腕を組み首を振り返す。

 これにてこの場は、一件落着……


「分かったわよ、見逃してあげる。でも今度会ったら……」




「見つけたぞ、クソ狐ババアああああああああッッッ!」




 一件落着、とは行かなかった。

 突如空から、身の丈三メートルある大男が降って来たのである。


「よ、妖怪大将さん!?」

「げっ、阿呆天狗……!」


 テルミとキューちゃんが、大男の姿を確認して驚く。


「オラオラオラオラあああ! テメエ、ババア、俺の縄張りに無断で入って、美少年をかどわかし、あまつさえカラテガールと勝手にやり合って! 何してやがんだあああ!」


 大風と地鳴りと共に地面へ降り立ったのは、東海道の妖怪大将、鼻高天狗くなど(・・・)であった。

 彼はテレビで生中継されていた『カラテガールVS男子高校生&着物美人』を偶然視聴し、この場へ飛んできたのである。


「てめえええ! オラあああ! コラあああッ! ああ、そこのカラテガール! ついでだ、テメエも今ここで片付けてやらあああああッッッッッッッッッ!」


 一々煩いこの天狗。

 桜はフルフェイスマスクの下で苦い顔をし、


「ちょっと、うっさいし邪魔よデカブツ」


 そう言って小さく飛び上がり、天狗の腹を軽く(・・)小突いた。


「ぶっへあああああああああ!?」


 桜にとっては軽くでも、普通の人間や妖怪達にはとても重い。

 大将天狗は悲鳴を上げながら、空の高くへ飛ばされてしまった。


「ああ、ついにやってしまいましたね……」


 テルミは姉の蛮行を見て、キューちゃんを抱いたままガックリとうな垂れる。


「……わっ、わっ、わっ……ええ……えええ……!?」


 そしてキューちゃんは、今更ながらこのヒーローの怖さを理解したのであった。




 ◇




「阿呆天狗、わらわはもう喧嘩はしいひん。今後は放っといておくれやす」

「な、なんだとぉぉ~~……!?」

 

 九尾の言葉に、大天狗は唸るように返事をした。

 桜によって吹き飛ばされた天狗は今、山の頂にある高い木の枝に引っかかっている。


「ってこたぁ、名古屋妖怪の権利は俺様のものって事で良いのか!?」

「ああ。好きにしたらええわ。うちはもう争いとかよう好かん……友達が心配するし……うん……」


 狐は柄にもなくはにかんでいる。

 しかし天狗は狐の心境の変化には興味がないらしく、折れたあばら骨を押さえながら大笑いした。


「うあっははははは、勝った! 俺の勝ちだあああ! これで俺様は名実共に東海道全域の妖怪大大大大将様だぜい! ういろう! あんかけパスタ! 名古屋駅前のでっかい人形は俺様のモンだあああああ! って、痛ってえ横っ腹があああッ!」




 ◇




「名古屋……のために、戦ってた……の?」


 妖怪屋敷。

 突然叫びながら出て行ったくなど(・・・)の様子を千里眼で覗いていた莉羅が、妖怪達へと尋ねた。


「ワンと! 莉羅ちゃん莉羅ちゃん、ナゴヤって何でありんすワン?」


 ちなみに千里眼の映像は、テレパシーを駆使し、この部屋にいる全妖怪が見られるようにしている。


「ああ。数十年前から妖怪大将どもの間で、名古屋の権利がずっと宙ぶらりんになっておってのう。くなど(・・・)とキューちゃんが取り合いしとったんだ……いや、あんかけパスタや人形は人間の所有物だから、くなど(・・・)のモノにはならんがのう」


 後ろ髪が長い青年、ぬらりひょんが床に寝転がり欠伸をしながら答えた。

 彼は莉羅と若い妖怪達に、狐と武士の昔話――ぬらりひょんが知り得る部分だけだが――を教えた後、床で居眠りをしていたのである。


「でも、あの二人の気性じゃ話し合いでは済まないからね」


 赤鬼の鬼華が、付け加えるように説明をする。


「かと言って、人間みたいに戦争で潰し合うのはゴメンだ。というわけで私達手下が裏で談合して、なんちゃって合戦を繰り返してたのさ」


 そう言ってため息をつく赤鬼。隣で木綿さんや他の妖怪達も同じように肩をすくめた。

 するとぬらりひょんが起き上がり、床に胡坐で座り直す。


「とにかくだ。どういう理由かは分からんが、どうやら莉羅の兄さんのおかげで、天狗と狐のナワバリ争いに決着がついたようだのう」


 妖怪の言葉に、莉羅は「うん……そ、だね……」と頷く。

 大天狗を千里眼で覗くと、何故か兄と姉と狐が一緒にいて驚いたが……しかしその時には、何かしらの事件が既に解決した後であった。

 一体何が起こったのかは知らないが、兄がまた母性を醸し出し、狐に懐かれてしまったらしい。


 またもや兄に好意を持つ女、というかメスの登場に、莉羅は複雑な気持ちで息を吐いた。

 そんな莉羅に向かって、ぬらりひょんはからからと笑いながら人差し指を立てる。


「わしも妖怪大将の一人として、どうやらお前さんら兄妹に借りが出来たようだのう。もしお前さんらが困った時は、いつでも力を貸そう。用があったら、そのテレパシー能力でいつでも呼んでくれよ」




 ◇




「ま、真奥くんが……カラテガールと戦ってた、だって?」

「ああ、あの少年は百合の生徒だったのか? 経緯は知らんが、カラテガールから着物美女を守ってたぞ」


 ヒーローと狐の騒動をこっそり監視していた毒霧グロリオサ達が、やっと駆けつけて来た百合へ状況を説明している。


 ちなみに九蘭琉衣衛には、『ヒーローと九尾の戦いを百合に間近で見せたい』という考えがあったのだが、結局戦闘は起きず、百合の修行にならなかった。


「あの男子、カラテガールに毅然とした態度でな。怖く無かったのかねえ」

「カラテガールいわく『怪人』らしい着物美人と仲良かったし。タダの高校生じゃなかったりして」


 そんな噂話をする若いグロリオサ達が、年配のグロリオサから「おい、無駄口を叩くな!」と怒られている。


 一方、百合は考えが纏まらない。

 何も言わずにテルミの顔を思い浮かべ、こめかみを押さえた。


 百合が苦悩する間にも、親戚達は話し合っている。


「伯父さ……じゃなかった隊長。今後はあの少年も、監視対象になったりするんですかね?」


 そんな台詞が聞こえ、百合は目を見開いた。


「あっ、あの! あの子は私の生徒だから」


 と抗議をしようとしたが、それより先に隊長は手を振り否定する。


「いいや。あの少年は監視しなくて良いと、家長(いえおさ)からお達しが来てるぞ」

「家長から?」

「ああ。何でも知り合いの子らしい」



「……知り合い?」



 予想外の言葉に、百合の頭はますます混乱するのであった。


第十一章 完



第十二章へ続く


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