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姉(←大魔王)、妹(←超魔王)、長男(←オカン)  作者: くまのき
第十一章 天狗、九尾、インビジブル、
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91話 『弟と狐に忍び寄る黒いアレ』

 ファミレス客達から殺気立った視線を向けられている、テルミとキューちゃん。

 しかし二人は気にする事なく、話を続けている。

 

「ふふーん! せっかくやから、やっつけたい残り二匹が誰かってのもお聞きやす!」


 二度目のスーパー九尾ヘッドバッド成功に気を良くしたキューちゃんは、テルミと手を繋いだまま、そう提案した。

 キューちゃんが今やっつけたい人間三選。その残り二人についての話である。

 特に断る理由も無いテルミは、「ではお聞きします」と素直に頷く。


「二人目は当然、毒霧の爺さんどすな!」

「なるほど、先程のお話の中にも出て来ていた方ですね」


 毒霧。


 ふとテルミは、姉扮するヒーローといつも戦っている、毒霧使いの殺し屋忍者を思い出した。

 あの忍者は、「暗殺組織の一員だ」と一般人が撮るカメラの前でうっかり喋ってしまい、そのままその映像がネットに流れている。


 もしかすると……その『暗殺組織』のトップが、件の毒霧(おきな)なのかもしれない。


「って、平安時代の人が今も生きているわけないか……」


 と、テルミは心の中で自分自身にツッコミを入れた。

 そしてキューちゃんに尋ねる。


「毒霧のお爺さんは、人間だったんですよね?」

「そうどす、あれは確かにニンゲンどした」


 それなら、さすがにもう生きてはいないだろう。とテルミは考えた。


 平安時代の老人と現代の毒霧忍者に、本当に何かしらの関係があったとしてもだ。普通に考えると、遠い先祖程度の関わりだろう。

 組織の現トップが、九尾の狐と対峙した毒霧翁本人であるはずもない。


 ……多分。


 姉や妹、そして数多くの『不思議』に触れてきたテルミ。「人間だから千年も生きられない」とは言い切れないかもしれない、とも思い直すのであった。

 そう言えば祖父の友人に、自称『もう何百年も生きている』という老人がいたが……


「なんどす急に黙りはって。もっとわらわと言葉のキャッチボールしいや」


 テルミが思案している隣で、キューちゃんは「あっ、べ、別にお兄はんと会話したいとか思っとるわけやあらへんけどな!」と顔を赤くした。


「まあええどす。ほんでなぁ、あの毒霧翁の」

「ふにゃぁぁ……毒ぅぅぁ……」


 毒霧という単語に、寝ている百合が反応したが、


「子供扱いしないでよぉ……ううぅ……うわぁぁん」


 と、また別の関係ない寝言を口にしだしたので、放っておいた。

 この子供にしか見えない高校教師が、よもや今話題に挙げている毒霧翁の子孫かつ愛弟子であるとは、テルミにもキューちゃんにも知る由が無い。


 キューちゃんは「コホン」と咳をして、改めて言葉を紡ぐ。


「あの毒霧爺さんは、日本全土におる妖怪達の敵なんどす。他のニンゲンとは違って、殺しても文句は言われへん。まあ並の妖怪では返り討ちに遭うのがオチやから、手を出すなって暗黙の了解はあるんやけど……でもわらわは、めっちゃ強いから関係あらへん!」

「なるほど。しかしキューちゃんさんは……」


 一度、あのお爺さんに負けたのでは?

 と言おうとして、テルミは言葉を飲み込んだ。これはキューちゃんも気にしているかもしれないからだ。


「……あまりご無理はなされない方が良いですよ」

「無理やないもん! ふーん! ふーん! ふんっ!」

「痛っ」


 キューちゃんは三度目のスーパー九尾ヘッドバッドを……


「痛いどすやろ、パワーアップしたわらわのハイパー九尾ヘッドバッド!」


 もとい、ハイパー九尾ヘッドバッドを喰らわせ、またもや満足気に胸を張った。

 ちなみにどこがパワーアップしているのかは、本人にも分かっていない。



「そして、やっつけたいニンゲン三人目どす。それは~……誰やろな~。お兄はん、当ててみはります?」


 新技が決まり上機嫌なキューちゃんは、突然のクイズ形式に変えた。

 テルミは律儀に「分かりました」と返事をして、考える。


 九尾が倒したい相手と言えば、現在喧嘩中の大天狗だろうか。

 だがキューちゃんは「やっつけたいニンゲン(・・・・)」と言っていたので、妖怪は除外するべきだ。


 となると。

 というかまあ、最初から見当は付いていたのだが。


「……多分、キルシュリーパーさんですよね?」

「キルシ……何? 知らへん。誰どすかそれ。三人目はもちろん、カラテガールに決まっとるやん!」


 そのカラテガールの正式名称がキルシュリーパーなのである。


「最近悪目立ちしている、あのしょうもないヒーローどす。あの阿呆女、調子に乗ってはるもん! まるで自分が世界の王様みたいな気ぃになっとるんやろうなあ。いきっとんなあ。ド阿呆やなあ。な! な! お兄はんもそう思うどすやろ?」

「い、いやあ……どうでしょうか」

「なんや、くなど(・・・)は手こずっとるみたいやけどな。わらわの手にかかれば、あんな乳だけの阿呆女なんて簡単にやっつけて……」




「誰が、阿呆女ですって?」




 背後から、キューちゃんの肩が掴まれた。

 突然の肩叩きとその異様なプレッシャーに、狐は「こぉん!?」と一鳴き。


 テルミとキューちゃんが後ろを振り向いて声の主を確認するよりも先に、店内にいる他の客たちがその人物(・・・・)に気付いた。


「な、なあ……アレって……?」

「え? 何が……あ、ああ!?」


 ファミレスが一気に騒めく。


 テルミとキューちゃんの後ろに突如現れた、黒ずくめの女性。

 頑丈な金属製の、フルフェイスヒーローマスク。

 ぴっちりとした黒い衣裳は、本日奇しくもチャイナ服。

 きめ細やかな肌の太ももが、スリットからチラリと見えている。


 ようやく振り向いたテルミ達は、その姿を見て驚愕する。


「わっ、わっ、わっ……我、わらわ……早速見つけ……!」

ねえ……いや、あなたは」



「カラテガールだあああ!」

「うおおおお! なんでここに!?」

「カーラーテ! カーラーテ!」


 ファミレスの客たちがカラテコールを始める。

 桜はとりあえず皆に手を振り、「はぁ~い。あたしはキルシュリーパーだけどね、市民ども!」と愛想と訂正を振りまいた。

 しかしマスクの下にある瞳は、繋がっているテルミとキューちゃんの手を鋭く睨み付けている。



「……かっ、かっ……カラテガール……ふぅ……」


 突然のヒーロー襲来に目を丸くしていたキューちゃんは、一旦深呼吸し心を落ち着かせた。

 逃走防止にテルミと手を繋いだまま、いつもより余計に胸を反らし、威圧感を出す。


「カラテガール。ようもまあノコノコおいでやしたなぁ。わざわざ倒されに」

「うっさい黙れ殺すわよ」

「…………」


 キューちゃんが言い終わる前に、ヒーローが乱暴に台詞を遮る。

 せっかく醸し出した九尾の威圧感は、桜の威圧感の前に吹き飛んでしまった。

 傲慢高慢高飛車居丈高(いたけだか)女王様の本領発揮である。

 


 桜は怒っている。

 弟が、妖怪とは言え美女と手をガッチリ繋いでいる……その事実が、桜の心に炎を灯すのだ。


 一方出鼻を挫かれたキューちゃんは、めげずにもう一度喋ろうとした。


「なんや、せわしないなあカラテガール。そないイケずな事言わんと、わらわがその血肉を喰ら」

「うっさいっつってんでしょ、このビッチ妖怪」

「…………」


 またもや台詞の邪魔をされた。

 キューちゃんは折れそうになる心を鼓舞する。

 大丈夫、落ち着けわらわ。わらわの方がカラテガールより凄い。強い。落ち着け。


「わら」

「喋るな。殺す」

「…………」


 もう落ち着くのは無理。


「……な、なんやのん! なんやのん! もうちょっとわらわの言う事を聞いてくれても」

「あーあーうっさいうっさい。もう殺す」

「なんやの! もー! もー! もーー! そっちがうっさい!」


 ヒーローと妖怪大将狐の決戦。

 そのゴングが鳴る前に、既に妖怪は涙目になっていた。


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