勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・7
訂正しました。本文の最初が切れていて…(汗)
すみませんでした!
女中さんに連れられて、一度部屋に戻り湯浴みと着替えをしてから、わたしは広間に戻った。
扉を開けた瞬間、朗々とした王様の声が響く。
「マルダードの森は、我が国の重要な資源の一つである。魔物が棲みついたことで、その資源を得られなくなってしまう可能性もある。皆も知っていると思うが、マルダードの森の資源は……」
王様の話を聞きながら、雷翔の姿を探す。
他の人達は全員銀色の甲冑姿だから、すぐに見つけることができた。雷翔も同じようで、すぐに軽く手を上げて位置を知らせてくれる。
「早かったな」
「うん、女中さんが手伝ってくれたから。それにしても……随分長い話だね」
わたしが湯浴みをして着替えをしている時間、そんなに短くは無かったはずだ。それなのに、未だに話が終わらないなんて。
雷翔は苦笑いを浮かべた。
「まあ、要はマルダードの森の魔物を退治しろ。無事に帰れ。みたいなところだな。その内容を小難しく長々と話しているだけだ」
「そうなの?」
広間を見ると、銀色の甲冑の騎士さん達は、ピクリとも動かずに王様の方を見ている。もはや中に人が入っているかも疑わしいくらいだ。
「騎士さん達、よくこんなに長い話を聞けるね……」
「まあ、慣れでしょうね」
ふいに聞き覚えのある声が横からした。
いつの間にか横に立っていたアメリアさんという女性の騎士さんが、苦笑いを浮かべながらわたしを見下ろしている。
「すみません。初めてこの場を見た人はそのように思うのだと知って、思わず口を挟んでしまいました」
「いえ。あの……勇者様は?」
「もう落ち着きました。ほら」
アメリアさんが視線を向けた方を見ると、丁度王様がエリオットさんの名前を呼ぶところだった。
「エリオット・マクシェイン。ここへ」
王様の呼び声に答えるようにして、横の扉から灰色のローブを羽織った人物が現れる。頭には深くフードをかぶっているので顔は見えないけれど、おそらくエリオットさんだろう。エリオットさんは王様の隣まで来ると、騎士さん達の方を見て頭を下げた。
「陛下のあの話は、何の意味もなさないわけではないのです」
アメリアさんがひとり言のように呟いた。
「先ほど見たからお分かりでしょうか、彼は体調を崩しやすいのです。彼の体調が戻るまでの時間を稼ぐために、あのように長い話をされているのです」
「ふーん。ってことは、あいつがああいう体だってことは、機密事項ってわけだ」
アメリアさんが真剣な目を雷翔に向けた。
「勇者とは秀でているが故に狙われる存在でもあります。弱みを見せる事は死につながります。ですから、勇者は決して姿を現す事はしません。陛下も勇者の姿を隠し続けているのです」
わたしはもう一度、エリオットさんの方を見た。
全身を隠すような灰色のローブ。あれは細い体を隠す為のものなんだろう。顔を隠すフードも、顔色の悪さを隠す為。言葉を一度も発さないのも、弱々しい声を聞かれないようにする為だ。
それは分かりました。でも。
「あの……エリオットさんって、戦えるんですか?」
失礼を承知で、つい尋ねてしまう。表情を変えずアメリアさんを見ている雷翔も、多分同じ事を思っているはずだ。
あの人、戦えないですよね! 魔物に遭っただけで失神とかしちゃいそうですけど!!
けれど、わたしと雷翔の無言の訴えを感じていないのか、アメリアさんは力強く頷いた。
「ご安心を。彼は我が国の勇者として申し分の無いお方です」
え、ええー……。
思わず雷翔と顔を見合わせる。
わたしの脳裏のあるのは、アメリアさんに背負われてゴホゴホ咳き込みながら退出したエリオットさんの姿だ。
わたしと雷翔が微妙そうな表情を浮かべたのを見て、アメリアさんは苦笑いを浮かべた。
「ま、まあ、体力がないのですぐに動けなくなってしまったり、環境の変化ですぐに体調を崩されてしまったり、長時間の移動で倒れてしまわれたりすることはありますが……その為の護衛ですから。その辺りは私がフォローさせて頂いております」
「……それって……」
護衛ではなく、介護ですよね!
というか、本当にエリオットさんが勇者なんですか!?