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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・12

 島に戻ってから、数日が立った。

 いきなり攫われたり、衝撃事実が暴露されたり、色んな事に驚く暇もなく目まぐるしく色んな事が起きていって、もう何日たったかも分からないくらいだ。


 まず、わたしは魔王候補から魔王になりました。

 カインさんの血を与えると、印は赤く染まって、それから赤い宝石のままになりました。魔力のないわたしでも、触るのがためらわれるくらい重量感と威圧感に溢れたものになりました……。たじろぐ位魔力の圧が感じられるみたい。ちなみに、魔物から保護してくれる魔法は白亜様がかけてくれていたらしい。おばば様に教えられてお礼を言うと、そっぽを向いて「ああ」と短く返事をされました。そっけない、と思ったけど、よく見ると耳が赤かったので照れていたの、かな?

 次に、魔王の試練を完了させたことを島の人に伝えました。

 いなくなっていたわたしが白亜様を伴って急に現れたものだから、まあ、想像の通りです。大騒ぎ、というか暴動一歩手前状態でした。その状況を一喝……いや、あれは一撃ですね。それを入れたのはジェイクさんでした。いきなり魔族の皆さんに向かって魔法発動ですよ。本当にピカー、ドカーン! って感じだった。


「ギルドニアの勇者、レインだ。こいつは俺のもんだから、手ぇ出すつもりなら……分かってるな」


 近くで聞いてたわたしも鳥肌ものでしたよ!

 いやー、見事にしーんってなった!

 言いたいこと言ったジェイクさんは殺気を解くと「眠い」と言って(わたし)を部屋に引っ張っていきました。……あの後どうなったかは分かりません。ていうか、あんな宣言されて何事もなく島の人に顔出せる精神力はないです!

 数分後、ジェイクさんとわたしを引きはがしに来た白亜様(鬼のような形相でした……)の説明によると、島の人からは「あのギルドニアの勇者を手下にした」という評価が下されたそうです。いや、どう考えても逆なんですけどね……。でも、島の人の態度が柔らかくなった気がするので、多分少しはわたしの株が上がったんだろうな。……わたしの実力なんてこれっぽっちもないけどね! 泣いてなんかない。


 なんとか島の人にも認めてもらえて、魔王業につく事にはなりましたが、とにかくまだ見習状態。魔王になる為の勉強も途中の状態で島を出る事になったものだから、勉強することがまだまだまだまだあるそうです。今日も今日とて白亜様にみっちり歴史やら地理やら経済やら言語やら色んな分野を教えられました。それでも、昔の様な息苦しさや緊張感がない分勉強しやすい環境ともいえるかもしれない。ただ、白亜様との距離感がお互いに掴めずに躊躇してしまう事はあるけど。なんとなく、だけど、あの時思わず口走ってしまった「お兄様」呼びを求められているような気がしてるんだ……いや! でも、気のせいかもしれないし! そんな風に呼んで「え?」とか「は?」とか反応されたらいたたまれない……! それでやっぱり「白亜様」呼びになっちゃうんだけど……そう呼ぶとちょっとがっかりした顔をするんだよなぁ。やっぱり、今度「お兄様」に挑戦してみようかな……もう3度目以上の今度だけどね。


 そして、わたしの試練に協力してくれていたジェイクさんとクーファ。

 クーファは、今はいない。

 無事に魔王に就任したことを伝える為に、ギルドニアに向かった雷翔と一緒に帰っていった。すごく寂しいけど、「マタナ!」と何度も繰り返していた声を思い出すと、きっとまた島に遊びに来てくれると思う。

 それからジェイクさん。彼はまだ島にいる。というか、今もわたしの部屋のベッドを占領して寝てる。

 いや、ギルドニアの勇者なんだけどね、この人。いいの? ウィナードさんに仕事押し付けてから一年以上経ってると思うんだけど。でも……ジェイクさんが傍にいなくなることが想像つかなくなってきているあたり、わたしも毒されてきているのかもしれないなぁ。


 そんなこんなで、変化した日常にだいぶ慣れてきました。そうなると、今まで頭の片隅に置いていたことをじっくり考える余裕が出来てくるわけで。ぼんやりと考え込んでいると、ずしりと背中に重みがかかってきた。


「……重いです、ジェイクさん」

「どうした?」

「……」


 なんでだろうなぁ。なんで、この人はわたしが悩んでいるとすぐに分かるんだろう?


「……ゼロさんの事を考えてたんです。いや、ジェイクさんが嫌っているのは分かりますけど! でも、彼も被害者なんです。勝手に作られて、力が抑えられなくて閉じ込められて、今も一人でいるんだと思うと……なんだかやりきれなくて」

「じゃあ、出せばいい」

「……は?」

「閉じ込めたなら出せるだろ。印を使えば開ける事も出来る。実際、白亜はそれを使って門を開いたからな」


 なんて事のないように言うと、ジェイクさんはわたしの手を引いてスタスタと歩き出した。向かったのは王座の間だ。途中で遭遇した白亜様も巻き込んで、ジェイクさんは重厚な扉を開いた。


「一体何をする気だ?」

「ゼロとかいう奴を開放する」

「……は?」


 わたしと同じような反応を返した白亜様を他所に、ジェイクさんが「印」と手を差し出す。自然と渡してしまったのは、もはや条件反射っていう奴ですよね。分かってます。

 わたしから印を受け取ったジェイクさんは、それを白亜様に放り投げた。思わず、というように受け取った白亜様に、「開けろ」とジェイクさんが顎をしゃくる。白亜様にこんな態度をとれるのは、世界広しといえども間違いなくジェイクさんだけだと思います。

 白亜様は少し呆然とした顔をしてから、眉間に皺をよせた。


「……本気であれをあの場所から出すつもりか?」

「そうじゃないと、こいつが気にするからな」

「あれの暴走で、国1つが滅んだんだぞ。また暴走したらどうする?」

「まあ、そうなったらそうなったで止めればいい」

「止める? あれを倒せると、本気でそう思っているのか?」

「やってみないと分からないが、あれと戦うのは楽しそうだ」

「…………」


 白亜様……ジェイクさんとの対話を諦めましたね。


「お前はどう思ってるんだ?」

「えっと……」


 以前だったら、意見なんて言えなかっただろう。でも、今は白亜様はちゃんとわたしの話を聞いてくれることが分かっている。つたない言葉でも、分かろうとしてくれる人だ。


「わたしは、ゼロさんともう一度話をしてみたいです。それに、出来るなら自由になってほしいと思います。それが周りに悪影響を及ぼすのなら諦めなくちゃいけないと思うけど……今のゼロさんはちゃんと自分の力を制御できていると思うんです。もしゼロさんが暴走するなら、わたしがあの場所に連れて行きます」

「それは、贄になるということか?」

「必要なら、そうします」


 白亜様の眉間に深いしわが出来る。ジェイクさんから強い視線が向けられているのも感じた。でも、これはわたしの我儘だ。誰かの犠牲の上で暮らすのは、ずっとわたしの中に暗い影を落とす事になるだろう。今までいろんなことに縛られてきた分、後ろめたさや自己否定を感じずに生きたいと思ってしまう。

 見つめていると、白亜様はふっと息を吐いた。


「……分かった。ただし、条件がある」

「条件?」

「あれが暴走した場合、あの場所には私も行く。いいな」


 きっぱりと告げられた言葉。昔だったら冷たい命令のような言葉に感じていた口調が、今では温かく優しく感じられた。

 ありがとうございます。それすら口から出てこなくて、頭を深々と下げるしかなかった。

 そうするしか、泣き顔を隠す方法が見つからなかった。

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