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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・10

一週間も開いてしまっていました……本当にもう、もう……凹

 目を開けると、ジェイクさんの顔が見えた。


「よぉ」


 いつもの何の感情も表さない表情で、手を伸ばして来る。目を覚ましたばかりのぼんやりした頭で頬を撫でられていると、彼の右目の下の絆創膏が目に入った。その途端、今までの事が一気に思い出される。


「ジェイクさん! 怪我は?」

「? とっくに手当は済ませてる」

「そ、そうですか。えっと、ここは……魔王城?」


 いつの間にか寝ていた大きすぎるふわふわベッドも、全身映るんじゃないかというくらいの鏡台も、キラキラとシャンデリアも、物凄く見覚えがある。わたしが魔王城にいた時に使っていた部屋ですね。

 というか、どうしてここで寝ていたんだろう。あの白い空間から戻ってきたからの記憶が完全に消えている。


「ここに戻ってきた後、急に気を失ったから運んできた」

「え、ジェイクさんが!? そっそれはお手数おかけしました! いや、それもですけど、わざわざあんな所まで来てくれて、あの、助けてくれてありがとうございました! お礼はたいしたことは出来ないと思うんですけど、何かできる事があれば! お金は、あまりないんですけど、食べたいものとか作ってほしい物があればすぐにでも!」


 どうやって来たのか分からないけれど、あんな謎の場所まで大けがをしながら迎えに来てくれたんだ。何かお礼をしなくちゃ。……そういえば、白亜様も来てくれたんだよね。白亜様にもお礼を言いに行かなくちゃ。

 すっと頬に手が触れてきた。考え事をしていたせいで気付くのが一瞬遅れる。何、と思う間もなく、唇に何かが触れた。

 …………え。え?

 至近距離にジェイクさんの顔が見える。


「礼ならこれでいい」

「は」


 は、い? っていうか、今、キスされた?

 え? え? な、なん!? 何がなんでそうなったし!!


 混乱していると、ガチャ、と扉が開いた。白亜様だ。

 白亜様はわたし達の方を見ると、眉間に皺を寄せた。


「起きているか確認したら報告に来いと言ったはずだ」


 つかつかと近付いてくると、ジェイクさんを押しのけてわたしの顔を見てくる。


「顔色は良さそうだな。色々知りたい事もあるだろうから、準備が出来たら応接間へ」

「は、はい」


 返事をすると、白亜様は頷いてジェイクさんを引きずるようにして出て行った。


 白亜様の行動にぽかんとしていたけれど、すぐにさっきのジェイクさんの事を思い出して枕に顔をうずめて悶絶した。

 あれは一体何だったの! 準備が出来たらっていってたけど、白亜様! 心の準備ができません……‼




 応接間には長いテーブルがあって、そこには白亜様とジェイクさん、それに雷翔が座っていた。ジェイクさんの姿に一瞬気まずく感じたものの、すぐに緑色が広がって視界を遮った。


「ジュージュ!」

「クーファ! 怪我は? 大丈夫!?」


 床に倒れて血を流していたクーファの姿を思い出して、抱き着いてきたクーファをはがしてひっくり返す。よくよく見てみるけれど、ぽよぽよしたお腹には傷の跡さえ見当たらなかった。お腹を触られながら、クーファはくすぐったそうに笑っている。


「ジュージュ、心配スルナ。ソノ白イノ、治シタ」

「白いの……」


 クーファの視線の先には、腕組みをしてこちらを見ている白亜様の姿があった。白いのって、もしかしなくても白亜様だよね……。


「あ、あの。クーファを治してくれたみたいで、ありがとうございます。それに助けに来てくれたのも、ありがとうございました」


 声をかけると、白亜様は「それより」と口を開いた。


「席につけ。お前には全てを知る権利がある」


 うう、相変わらずの距離感……!

 一番奥の席に座るように視線で伝えてくる白亜様にそれ以上何も言えなくて、そそくさと椅子に向かうと。


「相変わらずだねぇ」


 聞き覚えのある声が響いた。

 思わず声の方に目を向けると、扉の前に一人の老婆が立っていた。小さな体に羽織っている、いつから着ていたのか分からないほどボロボロですすけたローブ。紫色の宝石がはめ込まれた、複雑な模様の刻まれている太い木の杖。皺に覆われた顔に、閉じられた瞳。


「おばば様……」


 懐かしい姿に、吸い寄せられるように近付く。その瞬間。

 ゴン、と脳天に衝撃が走った。


「ったぁぁぁ~‼」

「何、幽霊を見たような顔をしてるんだい。ほれ、さっさと席につきな。全く、ぐずだね」


 ああ、本当におばば様だ……。

 辛辣な対応に、痛み以外の理由で涙が出てきた。ここにきて、やっと故郷に戻ってきたことを実感できた気がした。

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