魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・7
更新が停滞しており、本当に申し訳ありません……(-_-;)
殆ど説明文です。
僕が存在したのは、随分昔だった。ここだと時間の流れがよく分からないけれど、まあ、少なくとも君のいた場所だと数百年は昔のことだろうね。
僕は何も知らなくて、分からなかった。ただ自身の中にある何かが溢れそうで、留めておく事も出来なかった。それが近くに会った町や村、国を壊している事や、その力に侵された生き物が魔物と呼ばれる害獣になっていく事も知らないままに、暴走する力を抑えきれずに放出し続けていたんだ。どのくらいそうしていたかは分からない。ただ、だいぶ力が収まってきた頃、誰かが僕に声をかけてきた。
こんな場所で何をしているの? そう言って笑いかけてきた女の人。それがセラフィーナ。初めの愛姫だった。
彼女は変わった人だったよ。初対面の僕に、あなたは脅威なの、とか言うんだから。
僕の力で、国が滅びた。魔物が生まれた。でも、それは僕のせいじゃない。だけど、皆の迷惑になるから一緒に行きましょう。要約すると、そんな感じかな。
僕も特に異論はなかった。自分が誰かも、どこに行けばいいかも分からない状態だったから、話し相手がいるだけで満足だった。そうして、彼女の作ったこの空間に移動してきたんだ。
彼女は色んな事を教えてくれた。自分がいた国の事。三人兄弟で、頼れる兄と可愛い双子の妹がいる事。彼女との時間は楽しかった。けれど、それもすぐに潰えてしまった。人の一生はとても短いね。
『この場所の入り口は、兄が守ってくれている。だから貴方を傷つける人は誰もいない。どうかここで穏やかに過ごして』
彼女は亡くなる前にそう言ったけれど、僕は穏やかに過ごす事なんて出来そうにもなかった。彼女のいない世界は空っぽで、彼女に出会う前一人でいた時よりも寂しかった。
苦しくて、悲しくて、辛くて。
泣き叫び続けていると、一人の女性が現れたんだ。
だいぶ年をとった女性だったけれど、どこか懐かしさを感じる人だった。彼女は、自分がセラフィーナの妹だと名乗った。僕が泣き叫んでいる間に、世界は闇に包まれてしまったらしくて、宥める為にやってきたんだ。
セラフィーナに比べて物静かで穏やかな彼女は、少しの間僕に付き合ってここで過ごしてくれた。けれど、年をとった彼女は長く生きられなかった。でも希望を残してくれたんだ。それは彼女の子どもと孫の存在だった。
『私が亡くなったら、貴方はまた一人ぼっちになってしまうでしょう。でも、悲しむことはないわ。すぐに私の娘がここにやってくるでしょう。その子が亡くなっても、孫娘が来てくれます。だから嘆くことはないんですよ。貴方を一人にはしませんから。それが、私達が貴方と皆に対する償いです』
彼女が言った通り、彼女の娘はすぐにやってきて話し相手になってくれたよ。彼女が亡くなると、彼女の孫娘も来てくれた。でも、少しずつ何かが変わっていったんだ。
それは、来てくれる子が「愛姫」と名乗り始めた頃にはっきりと分かってきた。どの子も話が出来ないんだ。いや、出来ないわけじゃないけれど、会話が成り立たないんだよ。僕もここ以外の場所について分からないことだらけだけど、愛姫と名乗る子たちはそれ以上に何も分かっていないみたいだった。ただ、ここに来るためにやってきた。それだけ。彼女たちの存在は疎ましくはなかったけれど、何の役にも立たなかった。まあ、寂しいとは思わなくなったけれど、楽しいと感じる事もなかった。
そんな事がずっと続いてたんだけど、君の前に来た愛姫。彼女は違ってた。
屈託なく笑う顔を見た瞬間、嬉しくなったよ。彼女は色んな話をしてくれた。その彼女の話を聞いて、初めて「愛姫」という子たちが揃いも揃って無知なのかを知る事が出来たよ。「愛姫」は生贄として監禁されて過ごしていたんだね。そりゃあ、何も知らないわけだよ。
彼女は今までの愛姫と違って色んな事を知っていたけれど、その話は正直あまり楽しい話ではなかったかな。だって、自分の恋人と子どもの話ばかりしていたからね。なんでも、監禁場所から救ってくれた魔族で、しかも王様だったとか。子どもがすごく可愛くて会えないのが寂しいとか。
のろけ話ばっかりしていた彼女だけど、亡くなる前にはちゃっかり約束をしていったんだ。
『貴方を生み出してしまった罪を償うのは、わたしでおしまいにして欲しい。自分の娘を贄にするのは心苦しいから』
そんなこと言った人は一人もいなかったからね。正直戸惑ったよ。だけど、そんなの都合がよすぎるよね? 僕はこれからどうしたらいいんだ? 一人でこんな空っぽの世界で生きていかなくちゃいけないの?
そう聞いたら、ちょっと考えて笑ったんだ。あの表情は今まで見たことなかったな。いたずらっこみたいな笑顔でね。
『それじゃあ、賭けをしましょう。あの子を愛することが出来て、あの子も愛してくれたら、愛姫の制度を続けましょう。でも、あの子を愛することが出来なかったり、あの子に愛してもらえなかったら、わたしでおしまい。これでどうかしら』
僕は彼女の賭けにのった。
正直、賭けにのる必要なんて何もなかったけど、あの何か企んだ笑顔を見て乗り気になったんだよね。それに、彼女の言う「愛しい」という感情も味わってみたかった。
「だから、ね?」
ゼロさんはわたしにずいっと顔を近付けてきた。
「僕の事、好きになって?」
「…………」
「……あれ?」
うん。もうね。
何もかも、容量を超えてます……!
遠くなる意識の中で、「おーい?」というちょっと間の抜けたゼロさんの声が響いた。




