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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・4

亀更新で、本当に申し訳ないです…orz

 高貴さを感じさせる完ぺきな立ち姿。銀色の艶やかな長い髪。陶器の様な白い肌。何の感情も映さない氷の様な青い瞳。ただそこに佇んでいるだけなのに、内に秘めている強さを感じてしまう。

 わたしの傍にいた雷翔とジェイクさん、そして肩の上のクーファが警戒している事を意にも介さず、白亜様の目はわたしだけを真っすぐに見据えている。その目がわずかに細められた。


「まだ未完成のようだな」


 その目がわたしの首元の印に向かっているのに、ようやく気が付く。

 透明の宝石の状態である事を言っているんだろう。騒ぎから逃れるようにセレナ国を出立したから、カインさんの血はまだ印に注いでいなかった。

 試練を超えていないのに何で戻ってきたんだ。つまりそういう事ですよね……!


「え、と……ゆ、勇者の血は全部集めています! まだ印に与えていないだけで」


 カインさんからもらった血を結晶化させた石を取り出して見せると、白亜様の眉間のしわが消えた。


「……そうか。好都合だ」

「え?」


 何が、という声は出せなかった。

 突然視界が揺れて、体の左側が激しく打ち付けられたからだ。


「……誰だ、貴様」

「お前こそ」


 顔を上げると、ジェイクさんが白亜様の腕を掴んでいるのが見えた。

 状況が把握しきれないけれど、襲ってきた白亜様から庇うのに、ジェイクさんがわたしを押しのけたんだろう。雷翔が駆け寄り、クーファが「大丈夫カ!」と声をかけてくれる。


「大、丈夫」


 声がかすれる。

 耳に響くほど心臓が激しく脈打っているのは、驚いたせいだけじゃない。白亜様に襲われた事に動揺しているせいだった。

 どうしてこんなに動揺してしまうんだろう。白亜様がわたしを恨んでいるのは当然だと分かっていたじゃないか。島を出るときにその姿を見ていたはずなのに。なのに。


「白亜だ。人間、そこをどけ」

「ジェイク・レイン。断る。こいつは俺の所有物なんでな」

「なんだと?」


 二人の会話が遠く感じる。

 分かっていたんだ。白亜様がわたしを嫌っている事なんて。会う度に不快そうに顔をしかめられて。必要最低限しか話もしなくて。姿を見た瞬間背を向けられるのだって日常茶飯事で。わたしも白亜様が怖かった。冷たい口調に、筋肉がまったく動かない顔。畏怖を与える姿。全てに緊張していた。だけど。

 魔王として必要な学びを、飲み込みの悪いわたしに何度も教えてくれていた。冷たい口調ではあったけど、体調が悪い事をすぐに見抜いて部屋に戻らせてくれた。きつい言葉を浴びせられたこともあったけど、差別する事も間違った事も言われなかった。魔族の人に襲われた船で姿を見たけれど――見ただけだった。

 こうしてはっきりと襲われてから気付く。心のどこかで、白亜様を信じていた自分がいた事に。


「真珠! おい、しっかりしろ!」

「っ! ら、雷翔」

「呆けてる場合じゃねぇ。白亜とジェイクが戦ったら巻き込まれる。立てるか?」


 我に返ると、次第に二人から殺気が膨れ上がってきているのが分かった。

 雷翔に腕を引っ張られ立ち上がると、白亜様がこちらを見て舌打ちをした。初めて見る苛立ちを露わにした表情に息をのむ。


「時間がない。邪魔立てするな!」


 突然叫んで腕をふるう。突然長く鋭く尖った爪に襲われ、ジェイクさんがさっと身をひるがえした。服の袖が鋭利な刃物で切られたように裂ける。

 わたしの方に肉薄する白亜様に、雷翔が体を滑りこませて防ぐ。その前に、ジェイクさんが剣を白亜様に振りかぶった。

 ジェイクさんの剣を避けて、白亜様が後ろに跳ぶ。雷翔はわたしを守るように立ち塞がっている。肩の上ではクーファが姿勢を低くして歯をむき出していた。白亜様が眉間のしわを深くする。


「何故邪魔をする。お前たちの相手をしている暇はないというのに」

「お前が何をしたいのか分からないからな。それに、強そうだ」


 どちらが悪者か分からなくなるような顔で、楽し気に笑うジェイクさん。


「白亜。真珠は試練を乗り越えた、もう充分だろ」


 左手を前に、身を低くして構えている雷翔は、どこか辛そうな声で呟くように言った。

 雷翔は白亜様がわたしを排除しようと考えているとは思っていなかったから、裏切られたような気分になっているんだろう。……わたしと一緒で。


「……資格は放棄してもらう。なんとしても」

「っ! お前っ、こいつがどれだけ苦労して試練を超えたと思ってる!? 魔族に追われて、力も無いのに勇者を倒せなんて無茶言われて! ようやく試練を達成したと思ったら放棄しろとかふざけんな! そんなに魔王になりてぇのかよ!!」

「勘違いをするな。魔王になるのは――貴様だ。雷翔」

「…………は?」


 え? どういうこと?

 予期していなかった白亜様の言葉に、その場にいた全員が固まる。


「は? 何、言ってんだよ」

「時間がない。邪魔をするというなら、力づくでも印を渡してもらおう」

「アイツ、敵ダナ?」


 肩の上のクーファがふいに呟いた。

 その問いに答える間もなく、クーファが突然白亜様に向かっていった。


「だ、駄目! クーファ」


 白亜様に敵うわけない。手を伸ばしたその時、突然クーファが動きを止めた。いや、止めたんじゃない。その小さな緑色の体は、黒い刃に貫かれていた。


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