魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・2
投稿が停滞していました…すみません。不定期が続くと思いますが、最後まで完走できるように頑張ります。
「島に戻ろうと思っているんです」
愛姫の事は、今は置いておこう。
ウィナードさんを真っすぐに見つめて口を開いた。
「ただ、島に渡る方法がなくて困っていたんです」
「そうだね……黒煙の島は立入禁止区域だから、島に渡る船も出てないしね」
「島の周りの海は荒れていて流れも激しいんです。船があっても無事にたどり着けるかどうか……」
口に手を当ててウィナードさんは少し考えてから、顔を上げた。
「船を使わないとすれば、転移魔法しかないかな」
「転移魔法?」
「魔法を使った移動方法だよ。かなり複雑な魔法だから使うのも難しいし、魔力の消費も激しいし、何よりも目的地の指標が必要になるんだ。だから、あまり使い勝手のいい魔法でもないんだけど、今回はその条件を全部クリアできそうかな」
そう言ってウィナードさんが目を向けたのは、ジェイクさん。
「転移魔法を使えるんですか?」
驚いて尋ねると、ジェイクさんはいつものつまらなそうな顔のまま口を開いた。
「あいつの魔力を追えば着くだろ」
「あいつ? あ、雷翔……」
そうか。魔族の動向を探りに島に行くって言っていた。雷翔の魔力を辿れば島につくんだ。
でも……。
「いいんですか? 一緒に行ったら、魔族と戦うことになるかも……あ、でも、わたしを置いてすぐに戻ってくれば大丈夫かもしれませんね! 往復する魔力は足りますか? って、痛い!」
突然おでこを指ではじかれた。なんで!
涙目になってジェイクさんを見ると、見た事のないような顔で笑っていた。目が、目が笑ってない……! 怖ぁぁ!!
「俺の楽しみを奪う気か?」
「…………イエ、スミマセン」
そうだ。そういえば、勇者との手合わせを楽しむ人種でしたね、この方! 魔族の戦う可能性は高い方がいいんでしょうね、この方!!
「それにお前は俺の所有物だろ? 持ち主から離れる気か?」
「イエ、滅相もアリマセン」
そうでした。完全にこの人に掌握されてるんでしたね、わたし。
ガクリとうなだれていると、手のひらが差し伸べられた。顔を上げると、当然のような表情でわたしの手を差し伸べているジェイクさん。
「行くぞ」
「……はい?」
「本当の魔族がどんなものか、楽しみだな」
「って、ちょ、も、もう行くつもりですか!?」
「お、おい、流石に準備くらいはして」
ウィナードさんが言い終わる前に、わたしの手はジェイクさんに掴まれていた。
にやりという笑い顔に冷汗が流れたと思った瞬間、一気に視界が歪んだ。
本当にこの人転移しちゃったよ……!
何やってんですか!
口を開く前に、体を引き延ばされたような内臓をねじられたような不快な気分に襲われた。
「真珠!?」
誰かの声が響いて、あまりの気持ち悪さに遠のきかけた意識が戻ってくる。
生理現象で浮かんだ涙でぼやける視界に、雷翔の驚く顔が映った。
「何やってんだ、お前ら……! ここがどこか分かってんのか!?」
怒鳴りたいのを必死で押し殺した声で雷翔が詰め寄ってくる。でも、でも。
「ご、めん……う、うえぇ」
その場でしゃがみ込んで口元を抑えるわたしに、雷翔は困惑しながら近付いて背中をさすってくれた。
「お、おい。どうした?」
「転移魔法で酔ったみたいだな。初めてだったか」
「ジュージュ、大丈夫カ?」
吐きそうで吐けない不快感がぐるぐると胸の辺りに残る。
転移魔法ってこんなんなの!? クーファはよく大丈夫だね!
「大丈夫……。雷翔、急に来てゴメン。試練が全部終わったから、ジェイクさんが転移魔法でここに連れてきてくれたの」
何の用意もせずに移動でしたけどね。主に心の準備とか!
心の中で追記しつつ話すと、雷翔は目を見開いた後、満面の笑顔を浮かべて左手を伸ばしてきた。島にいるからか、擬態をしていない本物の巨大な左手だ。わたしの頭をすっぽり覆う程大きな手で、ガシガシと撫でてくれる。
「やっぱ俺が言った通りだったな。お前ならできると思ってた」
「みんなに手伝ってもらったおかげだよ。勇者と戦う事なんて全然してなかったし」
「関係ねぇよ。経過はどうあれ試練を超えられたのは事実だろ」
当然のように言われて、なんだかほっとする。
わたしが頷くと、雷翔は左手を頭から離して、警戒するように辺りを見回した。
「まだここは大丈夫だとは思うけど、とりあえず落ち着いて話せる場所に移動するぞ」
そういえば、ここはどこだろう? 薄暗くてひんやりしている部屋で、周囲に木箱がいくつか積み重なっているせいか圧迫感がある。
「ここはどこだ?」
同じことを思ったようで、ジェイクさんが雷翔に尋ねる。
雷翔は少し肩をすくめてから答えた。
「魔王城の地下の倉庫だよ」




