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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・5

 クルウェークの王様は、わたしが想像する「王様」にぴったりな姿をしていました。

 白い髪に長い髭。どっしりと落ち着いた雰囲気の中から醸し出される風格。クルウェークの王様は、ジェイクさんから渡されたギルドニア国の王様、コウガ様からの手紙に目を通し、わたしたちの方に目を向けた。茶色の瞳はどこか鋭くもあって、見つめられると自然と背筋が伸びてしまう。


「勇者レイン。我が国の勇者と戦いたいと申すか。お主が修行を行いたいなど、槍でも降らなければ良いが」

「御冗談を」


 にやりと笑みを浮かべるジェイクさん。

 クルウェークの王様は笑いながらも、その目はジェイクさんを窺うように見つめている。これは間違いなく、疑ってますよね……。まあ、ジェイクさんの性格を知っている人ならそうなりますよね。面倒くさい事を堂々と避ける人が、いきなり「頑張ります」なんて言っても説得力皆無ですよ。かと言って、わたしにはどうすることも出来ないので見守るしかないですが……。


 少しの間、窺うようにジェイクさんを見ていた王様だけれど、顔色も変えない様子に「まあいい」と早々に話を切り上げてしまいました。


「勇者同士で戦い、高め合うのも悪い事ではないしな。エリオットにとっても、良い経験になるかもしれん。しかし、すぐには出来ないだろう」

「えっ?」


 思わず声を上げてしまって、慌てて口を抑える。

 王様はわたしの方を見たけれど、咎める気はなさそうだった。


「今、あやつは西にあるマルダードの森の魔物討伐を始めるところでな。明日の朝には我が国の騎士と共に出立してしまう。マルダードの森まで行くのに二日、討伐もどの程度日数がかかるか分からんからな」

「魔物討伐に時間がかかると?」

「そう時間はかからんと思うが、どうやら繁殖してしまったようで魔物の数が多いらしくてな。――もし、早く手合わせをしたいのなら、一緒に討伐に向かってもいいが」


 王様の目が細まり、ジェイクさんを見据える。

 何だろう? 何か、不穏な感じがするのは気のせい……?


「――では、共に向かわせてもらいましょう」


 ジェイクさんの答えに、わたしは瞠目した。

 だって、興味のないことには一切かかわろうとしないジェイクさんですよ? 面倒な事を他人に押し付けてまで避けるジェイクさんですよ? それが他国の魔物討伐に参加するなんて――本当に槍でも降るかも。


「わかった。騎士団にはこちらから伝えておく。エリオットには、手合わせの件も伝えておこう。明日の早朝に移動するからな。今日は城でゆっくり休んでいくがいい」


 王様は部屋の隅に控えていた女中さんの一人に目を向けた。

 一歩前に出たその人に、「案内を」とだけ告げる。女中さんは一度王様にお辞儀をしてから、わたしたちのそばにやってきた。


「お部屋に案内いたします。こちらへどうぞ」

「では、失礼」


 ジェイクさんが頭を下げる。わたしの隣で雷翔も当たり前のように頭を下げたので、わたしも慌てて頭を下げた。


 謁見の間を出て、女中さんの後をジェイクさんが、その後ろをわたしたちがついていく。黙って前を歩くジェイクさんに、わたしは違和感を覚えた。

 王様の前で話すジェイクさんは、いつものジェイクさんじゃないように見えた。なんだろう、この違和感。このもやもやした変な感じ。


「どうした?」


 わたしの様子が違うと感じたのか、雷翔が小さく声をかけてきた。


「なんかジェイクさん、おかしくない?」

「おかしい?」

「うん……だって、他国の討伐に参加するなんて、らしくないというか」

「あれはああするしかないだろ」

「え?」


 思わず雷翔を見上げると、少し呆れたような目がこっちを見ていた。


「少し考えてみろよ。勇者レインは、何のために他国の勇者と戦うんだ?」

「それは……」


 わたしへの協力……は隠しているから、建前は。


「修行……?」

「ああ、修行。だから、討伐なんていう『格好の修行の場』を断るわけがないだろ? もし断ったとしたら、理由が覆っちまうからな」


 そうか、だからジェイクさんはあんなにあっさり討伐に行く事を承諾したんだ。雷翔の言葉で、もやもやしていたものが一気に晴れた。

 すっきりしたわたしの横で、雷翔が複雑そうな顔をした。


「あの爺さんも、それが分かっててあんな事を言ったんだろ。討伐に参加してもらえれば自国の戦力を割かなくて済むし、もし拒否すれば勇者レインがなぜ他国の勇者と戦うのか尋問できるだろうし」

「う、わぁ……」


 思わず顔を引きつらせると、雷翔はガリガリと頭を掻きむしった。納得できなかったりすっきりしなかったりする時にやる雷翔のくせだ。


「書状を読んだ後、疑うのが短かったのが気になってたんだ。これが目的だったんだな。それにしても……王様ってのは侮れない生き物だな」

「……うん」


 雷翔の言葉に、しみじみと同意するしかないわたしでした。

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