魔王候補(わたし)と愛姫(わたし)・1
島に行くと決めたものの、島へ渡る為の手段がないということに気付いて、わたし達はとりあえずギルドニアに戻る事にした。セレナ国で知った色々な事が頭を占めて、船の中ではぼんやりと過ごす事が多くなってしまっていた。ジェイクさんの帝王っぷりは健在で、すぐに人を枕代わりに使ったり、よしかかったりしてくるものの、ただそこにいるだけだから考え込んだり悩んだりすることに邪魔にはならなかった。むしろ、逆に気遣ったり、心配されたりするよりも気楽に過ごせていたような気がする。
「ジュジュ! おかえりなさい!」
船を降りるなり、連絡を受けていたらしく鈴さんが駆け寄ってきた。その勢いで抱き着かれ、大きな胸にむぎゅっと潰される。ああ、懐かしい。この背徳感……!
「おい、鈴。ジュジュがつぶれてるぞ」
「ジュジュもクーファもジェイクも、元気そうで何よりだぁ。ジュジュ、体の調子はどうだべ?」
鈴さんの後ろに、苦笑いをしながらやってくるウィナードさんと、相変わらず美しい姿と美しい声との差が激しい口調のルークさんの姿が見えた。懐かしい顔ぶれにほっと体の力が抜ける。
「お久しぶりです。えっと、無事に試練は終わりました」
「試練が終わったってことは……もしかして全部集めたの!? やったじゃない!」
嬉しそうな声を上げる鈴さんに、わたしは微笑むことしかできなかった。どうしてもうまく笑えなかったわたしに気が付いたのか、鈴さんが首を傾げる。
「どうかしたの? 何かあった?」
「えっと……セレナ国で、色々とあって。ちょっと静かな場所でお話できますか?」
「ああ、とりあえず城に行こう」
近くで話を聞いていたウィナードさんがすぐにうなずき、戸惑っているルークさんに声をかけて城へと先導してくれた。相変わらず頼りになるお兄さんだ。
お城につくと、以前わたしが鈴さんと一緒にお世話になっていた部屋に通してもらえた。席に着くと女中さんがみんなの前にお茶を用意していく。全員分のお茶の用意が終わると、ウィナードさんが声をかけて退出してもらった。
何から話していいか答えが出る前に、ウィナードさんが微笑んで口を開いた。
「まずは、試練が終わったんだってね。おめでとう」
「あ、はい。ありがとうございます」
「試練が終わったんだか? なら、もうジュジュは王様なんだべか?」
「え、いえ。まだ正式に魔王にはなっていないと思います。お城にいって報告して魔族のみんなに認めてもらうまでは」
「まあ、そうよね。でも、なんかそれが一番大変そうでもあるわよねぇ」
鈴さんの言葉は一理ある。いくら試練を超えたといっても、魔族のみんながわたしを認めてくれるとは限らない。わたしは本当に魔王になれるんだろうか?
「ジュジュが暗い顔をしているのは、魔王として認めてもらえるか心配だからかな?」
ウィナードさんの声に顔を上げると、優しい青い目がこっちをみていた。
「試練の間何があったか分からないけど、何かできる事があるなら手伝うよ? もちろん、鈴もルークもね」
「……ありがとうございます」
そうだ。この人たちはそういう人たちだったな、と改めて認識する。
わたしが魔族でも、魔王候補でも、偏見なく自分たちの考えで協力することを選んでくれた。だとしたら、わたしが愛姫という立場だった時、彼らはどういう答えを出すんだろう。
ウィナードさん達はいつも正しい。そして優しい。
――わたしは愛姫として、義務を果たすべきでしょうか。
こんな質問をするのは、きっと悩ませて苦しめることになってしまうだろう。




