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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(ヘタレ)と魔王候補(ヒメ)・6

ちょっとシリアス展開です。

 ふかふかのベッドの上で、クーファはごろりとおなかを出して横になっている。凄く幸せそうな顔だ。


「ジュージュ、イッパイ食ベタ!」

「うん、良かったね」


 確かに、自分の体よりでっかい魚を食べてたもんねぇ。生で。

 グルグルと満足そうに喉を鳴らす姿には、もう野生が微塵も感じられないけど……いいのかなぁ。まあ、平和だなって穏やかな気持ちになるからいいか。

 つい一緒にうとうとし始めていると、コンコンと扉を叩く音がした。


「ジュジュ様はいらっしゃいますか」

「はい。ええと……ゼクス様ですか?」

「はい。お休み中申し訳ありません。少々よろしいですか」

「ど、どうぞ」


 丁寧だけどどことなく高圧的な雰囲気があって、ゼクス様は少し苦手だ。なぜか拒むことできない。

 ゼクス様は扉を開けると、軽く頭を下げた。扉の近い場所から動かないまま口を開く。


「夜分に女性の部屋に押し掛けるのは失礼だと重々承知しておりますが、どうしてもお話しておきたいことがありましたので窺わせていただきました。ジュジュ様、貴女はギルドニア国で保護され、未だご家族が見つからず探されているそうですね」


 確認するようなゼクス様の口調に戸惑いながらもうなずく。

 夕食の時間に話していた内容で、公にはそういう事になっているから秘密にすることでもない。


「ジュジュ様。私は貴女のご家族に心当たりがあります。正確には、母上に」

「え?」


 母?

 思わぬ言葉に、頭が一瞬白くなる。

 わたしに母親の記憶はない。物心ついた時には、おばば様の元で過ごしていた。でも、どうしてゼクス様がわたしの母親を知ってるの? だって、わたしは――魔族なのに。


「私は彼女が貴女の母親だと確信しています」

「どうして……」

「口で説明されても納得できないでしょうから、貴女がその目で確かめた方がいいでしょう。どうぞ、こちらへ」


 ゼクス様が扉を開ける。

 ずっと、心のどこかで気にしてはいた。わたしの親はどんな人で、どこにいるのか。どうして――わたしを捨てたのか。でも、こんなところでそれを知る事になるなんて。


「どうしましたか?」


 喉が渇く。

“ジュジュ”は、ギルドニア国の勇者に保護されて、家族を探している。だから、家族の情報が得られるのならばすぐにでも知りたがるはずだ。だけど、“わたし”は、そんなの求めていない。だって、答えなんて分かっている。


 弱いから。

 みっともないから。

 傍に置く価値なんてないから。


 分かり切ったことを、確認してどうなるの?

 答え合わせをして、また傷付けばいいとでも?


「ジュージュ、ドウシタ?」


 耳元で声がして我に返る。

 声の方に目を向けると、クーファが大きな目をこちらに向けて首をひねっていた。その姿を見て、眩んでいた視界が戻ってきた気がした。


「……大丈夫。クーファ、一緒に来てくれる?」

「当タリ前ダ! 俺、ジュージュノ護衛!」


 胸をそらすクーファに、ほっと息を吐く。ああ、本当に、クーファが傍にいてくれて良かった。

 喚き散らしそうになった心がすっと冷めていった。


「ゼクス様。連れて行っていただけますか?」

「こちらです」


 コツコツと一定の速さで歩くゼクス様。彼はどんどんお城の奥へと歩いていく。通りかかる人の姿も見えなくなり、一般の人が入ってはいけないと本能的に感じられる空気が漂い始める。それでもゼクス様の足取りは迷わない。

 肩の上のクーファがきょろきょろと不思議そうな顔をして辺りを見回し、わたしの不安が大きくなってきた頃、頑丈そうな扉にたどりついた。

 複雑な模様の描かれた、重厚な扉だ。ゼクス様が手を触れると、ぼんやりと扉が光り、自動的に開いた。


「こちらです」


 言いながら扉の奥へと足を進めるゼクス様。

 おずおず彼の後をついて中に入ると、扉はまた自動的に閉まった。


「彼女が、貴女の母親です」


 ゼクス様の静かな声に、扉から彼の方へと目を向ける。そこには、いくつかの絵がかけられていた。

 それらは全て女性の肖像画で、どことなく全員似た雰囲気がある。ゼクス様が視線を向けているのは、一番右端にあった肖像画だった。そこに描かれているのは。


「……ジュージュ?」


 クーファが首を傾げる。

 わたしも息をのんでいた。

 そこに描かれていたのは、わたし――違う。わたしに、よく似た女性だった。その絵の下には、『ミシュエラ』という文字が書かれている。


「この人は……」

「ミシュエラ様です。貴女を一目見て確信しました。貴女は彼女の子です」

「でも……わたし、は」


 似ている。でも。違う。

 だって、どう見ても、彼女は……人間でしょう?


 ゼクス様がわたしを見た。その視線には何の感情も感じられなくて、動けなくなる。


「貴女は彼女の子だ。例え、その血に魔族の血が入っていたとしても」

「え?」

「貴女がセレナ国に戻ったのは必然。愛姫。貴女はその役目を負う責任がある。来い、シジェン!」


 突然、目の前に黒いローブをまとった人影が現れた。服の色と対照的に白い顔が無表情にこちらを見ている。

 これは、精霊?


 そう思った瞬間、視界が真っ暗になった。意識が薄れていく中、ジュージュ、という声が遠くで聞こえた気がした。

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