勇者(ヘタレ)と魔王候補(ヒメ)・4
近くにいた兵士さんに案内されて、屯所へと向かう。お城を出て、広い庭を横切った場所に、その灰色の建物は立っていた。んだけど。
「嫌だぁぁぁぁ!」
「嫌で通るかこの馬鹿。さっさと準備しろ」
「無理だってぇぇ!」
な、なんでしょうか。あの光景。
灰色の建物の扉にしがみついている男の人と、その人の襟首を掴んで引きはがそうとしている男の人がいた。その傍では何人かの精霊がふわふわ浮きながら楽しそうに笑っている。
「あの、あれは……」
「ああ、いつもの事ですね」
案内している兵士さんに声をかけると、さも当然のように返され、何の躊躇もなく彼らに近付いていった。同じようにジェイクさんも近付いていく。思わず肩に乗っているクーファに目を向けると、クーファは扉の前で攻防している二人の男の人を見ながら首を傾げていた。うん、多分クーファの反応が一般的だと思う。
若干遅れながら兵士さんの傍に行くと、兵士さんは未だに扉の前でもめている二人の前で足を止めた。
「勇者様。面会希望の方がいらっしゃいました」
「え? 本当!? 助かった! ありがとう! 誰!?」
声をかけられて、扉に張り付いていた男の人が表情を明るくして駆け寄ってきた。襟首を掴んでいた男の人の方は、「チッ」と大きな舌打ちをしている。……ということは、この人が勇者様、ですか……。
「ギルドニア国からいらっしゃった、ギルドニア国勇者ウィナード・レイン様の同行者であるジェイク・レイン様と、そのお連れの方のジュジュ様、クーファ様です」
「そっかそっか。初めまして! カイン・ファイクです!」
兵士さんに説明を受け、笑顔で自己紹介をするカインさん。青と緑を混ぜたような髪は短めに切っていて、清潔感のある爽やかな青年、といった印象を受ける。……ただ、さっきのやりとりを見た後だと、この人どんな人なの!? という気持ちが強いけれど。
手を差し伸べたカインさんに対し、ウィナードさんは小さく頷いただけだ。
「ジェイクだ。あんたと手合わせをしにきた」
「え? え。え? ええ―――――――――っ!!」
絶叫、という言葉がぴったりな奇声を上げて、固まるカインさん。間近で大声を上げられて煩かったのか、眉をしかめながらジェイクさんは傍にいた兵士さんに目を向けた。
「なんなんだ、こいつ」
言い方が酷い!
自国の勇者が雑な扱われ方をされているにも関わらず、兵士さんは怒るどころかジェイクさんと同じように呆れたようなため息をついた。
「はあ、まあ、こんな方です」
「くくっ、良かったな。カイン。これで訓練しにいく必要はなくなったってわけだ」
先程扉の前でカインさんを引っ張っていた男の人が、楽しそうにカインさんの肩を叩く。やっと我に返ったカインさんは、涙目でその男の人に縋りついた。
「リシャールゥゥ! 嫌だぁぁ! 代わりに戦ってぇぇ!!」
「無理。嫌だ。精々頑張れ」
「それが幼馴染に向かってかける言葉!?」
「これでちょっとは度胸がつくだろ。えっと、あんたがこいつと戦う奴? ギルドニア国の勇者の同行者か。……うん、その堂々とした態度。半分くらいこいつに分けてほしいもんだ」
「えっと、貴方は……?」
「ああ、俺はリシャール・ロワイド。カインとは幼馴染でね。それもあって勇者の仲間にされてる。ま、仲間と言っても俺だけなんだけどな」
肩をすくめて自己紹介してくれたリシャールさんは、少し長い金色の髪をひとつにまとめた背の高い人だった。細身だけど腕には綺麗に筋肉がついていて、女の人に好まれそうな容姿をしている。カインさんと並べば、正直リシャールさんの方が勇者っぽく見える。
「他に仲間はいないのか?」
ジェイクさんが尋ねると、リシャールさんがははっと笑った。
「逃げ足だけが一級品の勇者についていこうって物好きはそうそういないよな」
ああ……最後まで、勇者らしい勇者には出会えなかったか。
リシャールさんの言葉に、思わず心の中で呟いていた。




