勇者(オネエさん)と少女(相棒)・12
展開が怒涛になるかと……。
宿屋さんの部屋に戻ってくると、開放感からため息がでた。
オルネディアのお城にいた時にはなかった安心感がある。お風呂に入ってきたせいもあってか、すっかり気が抜けてベッドに倒れこむ。
「ジュージュ、疲レタカ?」
「ううん、大丈夫」
枕もとで首を傾げるクーファの姿に、ああ、やっと戻ってきたんだと実感する。
「クーファ。元気にしてた? ジェイクさん達と仲良くしてた?」
何気なく尋ねた言葉に、クーファは渋い顔をした。
もしかして、何かあった?
「ジェー、不機嫌。俺達、迷惑。ハロルド、機嫌直ソウトシテタ。ココ、困ッテタ」
「ジェイクさん、不機嫌だったの?」
「ジュージュ、イナイカラッテ。ハロルド、言ッテタ。ジュージュハ、大丈夫ダッタカ?」
「わたし?」
「ハロルド、心配シテタ。大変ナ事、頼ンダッテ」
「そっか……。大丈夫だよ、無事に頼まれた事も出来たし」
バンさんのお店で、ハロルドさんに指輪を渡したことを思い出す。
ハロルドさんは嬉しそうに「助かったわ~、ありがとう!」と言っていたし、ココちゃんも「良かったですね」とハロルドさんを見て嬉しそうにしていたけど、どうしてもシアさんの表情が気になって仕方がなかった。どうしてシアさんだけ、あんなに苦しそうな顔をしていたんだろう。
そう思った時だ。コンコンと扉が叩かれた。
「ジュジュちゃん、今大丈夫?」
「ハロルドさん?」
扉を開けると、ハロルドさんは目を丸くした。
「お風呂上がりだったの!? やだ、そんな無防備にドアを開けちゃだめじゃない!」
「え? あ、はあ」
「そんなんだから、あのスケベ王に襲われるのよ! お年頃なんだから、もっと危機感持たなきゃだめよ!」
素早くベッドの上の毛布を掴むと、すっぽりとわたしにかぶせてくる。そうは言ってもちゃんと寝間着も着てるんだけど……。そう言うと、「そこが無防備なのよ!」と更に怒られた。
毛布にくるまれてミノムシみたいになったわたしを椅子に座らせると、怒りがだいぶ収まったハロルドさんは、テーブルの上に小さな瓶を置いた。
「はい、これ」
「? なんですか?」
親指くらいの大きさの、本当に小さな瓶だ。中には赤い液体が入っている。
「血よ。あたしの」
「うえっ!?」
「ああ、ちょっと! 落とさないでよ!?」
「あっ、は、はい!」
思わず手放しかけた瓶を慌てて握り締める。そうか。わたしが協力する代わりに欲しいって言ってた『勇者の血』だ。
「ちゃんと渡しておこうと思って。色々ありがとね。本当に助かったわ」
「いえ。……あの、聞いてもいいですか?」
「ん? なぁに?」
「どうして、王様から指輪を取ってきてほしいなんて……」
「そうね……気になるわよね。でも、ごめんなさい。これは聞かないで。巻き込んでしまって申し訳ないけど、この国の問題に無関係の人をこれ以上巻き込むわけにはいかないわ」
微笑みながら、はっきりと言う。
あからさまな境界線を張られた事に、少し胸が痛んだ。
「トイの指輪の件もあたしがなんとかしなくちゃいけなかったんだけど、どうしてもうまくいかなくて精霊が見えるジュジュちゃんに頼っちゃったのよね。時間がなくて、焦ってたところもあるんだけど……これは言い訳ね」
ハロルドさんは軽く首を振ってから、わたしを見た。
真っすぐな藍色の瞳がこっちを見ている。その目からは、何事にも揺るがない確かな決意が感じられた。
「あたしはあたしのやるべき事をやるわ。ジュジュちゃんも自分のやるべき事を進んで」
「……はい」
わたしが頷くと、ハロルドさんはにっこり笑って部屋を出て行った。
ハロルドさんがいなくなった後、わたしは瓶の蓋を開けた。印を首から外して机に置き、その上に瓶の中身を垂らす。ポタリ、と音を立てて印に赤い雫がかかると、眩しい光が部屋中に溢れた。
それも一瞬の事で、印は何事無かったかのように元の様子に戻っている。青い宝石が透明になった。
今までも同じだった。経緯はどうあれ、色んな国の色んな勇者から血をもらってきた。それと同じ。
だけど、どうしてだろう。今までのどの瞬間より、印に与えた血の重みを感じた気がした。
その理由を知るのはもう少し後の事。
翌朝、「勇者が城を襲った」という騒ぎが起こってからだ。




