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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(オネエさん)と少女(相棒)・10

投稿が遅くなってました…すみません。


 壁を覆うように設置された本棚。静かな雰囲気に、本のある場所独特の匂い。ほぉっとため息が出てしまう。

 なんて魅力的な場所だろう……! できる事ならここにある本を色々読んでみたい!

 でも、今はこの国の事を調べるのが先決だ。「読んで」と訴えるように魅力的な題名を見せる物語の本に後ろ髪をひかれながら、文献の並ぶ本棚に必死に目を移す。


「オルネディアの歴史について……これかな?」


 やっと見つけたそれらしい本は、分厚く、でもほとんど読まれた形跡のない綺麗な表紙の本だった。引っ張り出して、机に向かう。

 オルネディアの戦歴や国の成り立ちなどを飛ばし、代々の王様の歴史の章を探す。オルネディアは長く続いた国家らしく、何代も王様がいて、また軍事国家の時代が長いせいか入れ替わりも激しかったみたいだ。でも、今の王様の前の王様までは、しばらく戦争をすることを控えていたようだった。


「えっと、リチャード様。それから、シルヴィア様と、コレット様、だったかな」


 レイナさんが口にしていた名前を思い出しながら、本を探していく。今の王様であるベルグ様の名前を探すと、すぐに見つける事が出来た。大体予想していた通り、リチャード様はベルグ様の前の王様の名前で、シルヴィア様はお妃様、そしてコレット様は二人の間に生まれた王女様の名前だった。

 レイナさんが言っていた通り、リチャード様は今から10年前に病死。そしてシルヴィア様とコレット様は馬車での事故に遭い、シルヴィア様は死亡、コレット様は行方不明となっている。……ただ、その馬車の事故が、リチャード様の死からたった2か月後の出来事だという事が気になった。レイナさんの影響かもしれないけれど、なんだかただの事故として見過ごしていい事ではない気がする。それに、ベルグ様が王位を引き継いだのも、そんな事件のたった1か月後の事だ。大臣の地位にいたとしても、血縁者でもない人がそう簡単に王位を継げるものなんだろうか? 例え、それがリチャード様の血族を探し出すまでの間の仮の王だとしても、国の一番上に立つ人をすんなり決めていいもの?


「うーん……」


 オルネディアでどんな方法を取っているかはわからないし、国内を色々見て回る時間もなかったから、国の人たちがどう思っているかはわからないけど、レイナさんみたいに不満に思っている人がいるのは事実だ。

 それに、ハロルドさんは?

 ふと、レイナさんの「ハロルド様は薄情すぎる」という言葉を思い出す。

 ハロルドさんとはあまり関わっていないけど、薄情な人であるという印象は受けなかった。結構危険な事に協力させられたことは事実だけど、「無事に過ごす事を優先して」と真剣に伝えてくれたし、ジェイクさんだって薄情な人に好意を持つ人じゃない。


 ……そういえば、勇者って王様が変わった時にはどうするんだろう。


 王様が勇者を決める国もあれば、血筋で決まっているという国もあった。オルネディアはどうなんだろう?

 読んでいた本を閉じ、勇者についての本を探す。けど、どこにも勇者についての本はなかった。


「うーん……」


 本に載っていないとなれば、誰かに聞くしかないのかな。

 辺りを見回したけれど、書庫にはわたし以外の姿はない。どこかに行って誰かに話を聞いてみようかな。でも、みんな仕事中だろうし。

 どうしようか悩んでいると、きぃ、と書庫の扉が開いた。両手に何冊か本を抱えたアイリーンさんが入ってくる。彼女はわたしの姿を見ると、足を止めて眉をひそめた。


「エミル。部屋にいなくて良かったのですか?」

「え? あ、その」


 思わず挙動不審になってしまう。

 レイナさんからアイリーンさんから休んでいいと許可が出ていると聞いたけれど、実際に彼女から聞いたわけじゃない。それに体調が悪いわけでも、ベルグ様にひどい目に遭わされたわけでもない。なんだかいけない事をしていた気分になっていると、アイリーンさんはつかつかと近付いてきて、わたしの傍の本棚に持っていた本を並べていった。


「まあ、気分転換も必要でしょう。本は気持ちを慰めてくれますからね」

「え? あ、はい……」


 アイリーンさんから出たのは、少し柔らかい口調の慰めるような言葉だった。

 いつも背筋を伸ばして厳しい表情を浮かべている彼女の優しい態度に戸惑っていると、珍しくアイリーンさんは言葉を続けた。


「私も本には慰めてもらいます。悲しい事や辛い事を、一時だけでも忘れさせてくれますから」

「あの、アイリーンさんも、辛い事があったんですか?」

「いえ、これは貸し出していた本を返してもらったものです。騎士の方々はこういう事にはずぼらで困ってしまいます」

「あ……そうですか」


 てきぱきと本を片付けるアイリーンさんは、いつもの様子に戻っていた。でも、なんとなく今は色々話を聞いてもいいような気がした。


「あの、アイリーンさん。ハロルド様は、薄情な人なんですか?」

「は?」

「いえ、その、ちょっとそんな風な話を聞いたもので! わたしはそうは思わないんですけど、リチャード様からベルグ様にあっさりと鞍替えしたとか」

「ああ、その事ですか」


 アイリーンさんは持っていた本を全部閉まって、少し間を開けてからわたしを見た。


「それでいいんです」

「え?」

「そう思われる事が大事ですから。勇者を信じなさい。彼は、オルネディアの為に命をかける覚悟は出来ているんですから」


 アイリーンさんは真剣な目でわたしを見つめ、何事も無かったかのように去っていった。

 その視線は、あの時のハロルドさんの視線によく似ていた。

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