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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(オネエさん)と少女(相棒)・9

投稿がかなり遅くなりました…すみません。

「あれ?」


 目を覚ますと、ジェイクさんの姿はなかった。

 いつの間に帰ったんだろう。というか、すっかり抱き枕になれちゃってるし……。

 自分の適応力になんだか気落ちしながら起き上がると、メイド服に着替える。


『――ジュジュ』

「え? あ! トイさん」

『ああ、よかった。まだあの男の所には戻らずに済んだか』


 ポケットから指輪を取り出すと、指輪から明らかにほっとした声が響いた。


「あの、トイさん。あなたは土の精霊なんですよね? 指輪に封じられたってどういうことですか?」

『君は、わたしの事を知らずに助け出したのか? 勇者に頼まれたと言っていたが、事情も知らずに手伝うとは酔狂だな。それともお人よしだろうか』

「うっ」

『ふふ、君は後者のようだな。だが、そういう人間は嫌いじゃない』


 今まで聞いた中で一番明るい声でトイさんが話をし始めた。

 ただ、その内容は全然明るくなかったけれど。



 このオルネディアの領土の端に、連なる山々がある。その山の麓に、小さな集落があった。集落の人々は必要以上に人々と関わらず、昔ながらの生活を大切にしており、そんな生活をしていた為、精霊との繋がりが深く、共に穏やかにすごしていた。だが、突如としてそんな生活は、オルネディアの国王ベルグによって終わりを告げられた。精霊の力を欲したのか、精霊を使う力に畏怖したのか、それとも他に理由があるのか、なぜかは分からないが、大勢の兵士に襲われた彼らに、戦う事も逃げる事も出来なかった。


『わたしは集落の長と契約をしていた。彼と共に最後まで戦うつもりだったが、あの男が連れてきた術者によって、わたしは指輪に封じられ、指輪の持ち主だけに従うようにされてしまった。……あの男がわたしに最初にさせた仕事は、あの集落を埋めることだった。苦楽を共にしてきた長も、集落の者も、あの美しい風景も、全てわたしが消し去ったんだ』

「トイさん……」

『……許されるとは思わない。だが、このままあの男のいいなりになるのだけは、それだけはもう耐えきれなかった。だから、君があの場所から救ってくれて本当に良かった。わたしは勇者とは面識がないのだが、君をよこしてくれたことを本当に感謝している』


 トイさんは、それ以上何も話さなくなった。まだ封印されているから、眠ってしまったのかもしれない。


「ジュジュ、いる?」


 トントン、とノックをされて、はっと我に返る。

 慌てて指輪をポケットに入れて返事をすると、レイナさんが入ってきた。手にクッキーを持っている。


「あの」

「いいの。何も言わなくていいから」

「え?」

「今日は休んでいいって、女中頭も言ってたわ。ま、これでも食べてゆっくりしなさい」

「えっと、ありがとうございます……?」

「……愚痴くらいなら聞くわよ。泣いてもいいし。あたししかいないから」


 愚痴? 泣く?

 ……あ、そうか。わたし、襲われたことになっているんだった。

 そのことに思い当たると、レイナさんの気の毒そうな複雑そうな表情に納得がいった。


「本当、あのエロじじい、早くいなくなってくんないかしら」

「れ、レイナさん? その、言い方が」

「いいのよ! プライベートでまで、不敬だのなんだの言ってらんないわよ。大体の人がそう思ってるわ。第一、あのおっさんは代理の王なんだから」

「え? 代理?」

「そうよ! あんたの方が知ってるでしょ、貴族の娘なんだし」

「あっ、あー、そうでしたね」


 ま、まずいまずい。

 冷汗をかきながら、笑ってごまかす。怒っているレイナさんは、挙動不審なわたしに気付かなかったみたいだ。


「それに、リチャード様の病死だってあのおっさんの仕業じゃないかって話よ。シルヴィア様とコレット様の事故死だって怪しいし! コレット様に至っては、死体さえ出てないのよ。遺体を探してるとか言ってるけど、本当に探しているんだか。勇者だって、あんなんだし」

「え、勇者様?」

「勇者様の知り合いのエミルに言うのはあれだけど、ハロルド様は薄情すぎるわ。リチャード様が亡くなられてから、あっさりあのおっさんに鞍替えして! 前は魔物の討伐にも積極的だったのに、それさえほとんどしないで! エミルからも何とか」


 言いかけて、わたしの顔を見てピタッと止まる。

 さっきまで怒っていた表情から一転、泣きそうな顔になってぎゅっと抱きしめてきた。


「違う。違うの、ごめん。あたしだって、何もしてない。あのおっさんの悪口を言うのも、ハロルド様の文句を言うのも、そんな資格無いよね。ごめんね、エミル。怖かったよね? 助けてあげられなくて、ごめん」

「レイナさん……」


 肩がじわりと濡れているのがわかる。

 わたしはレイナさんを抱きしめ返して、そっと離れた。


「違うんです。わたし、レイナさんに励まされるようなことはされてないから。こっちの方がごめんなさい。レイナさんを傷つけてしまいました」

「え? ……どういうこと?」

「えっと、姉に、助けてもらったんです。王様に幻覚剤、ですか? そういうものを飲ませて」

「へ?」


 きょとんとしたレイナさんに、わたしは洗いざらい話した。いや、勿論、指輪を盗んだことは言わなかったけど。姉(に扮したジェイクさん。これも内緒で)がうまくごまかして薬を王様に飲ませた事。そのすきに逃げ出した事。

 レイナさんは唖然としていたけど、そのうち爆笑し始めた。


「あははっ! 何、それ! じゃあ、あのエロじじいはしてやられたってわけ? ざまぁみろ!」

「れ、レイナさん」

「あはは、もう、こんなに笑ったの久しぶりだわ」


 目尻にたまった涙を指で払いながら、レイナさんがわたしを見る。


「それにしても、あんたのお姉さんやるわね。自分で毒見してまであんたを助けるなんて」

「そう、ですね」

「ま、何にせよ安心したわ。今日はさぼっても文句言われないんだし、せっかくだから好意に乗っかっちゃいなさい。それに明日までなんだし、またお手つきされる前にさっさとこんな場所からおさらばした方がいいわよ」


 レイナさんは「化粧が崩れちゃったわ。やり直さなきゃ」と言いながらも楽しそうに去っていった。

 ……思わぬ休暇が出きてしまった。一度身に着けたメイド服を着替えようかちょっと悩んでから、立ち上がる。

 初めてこのお城に来た時、アイリーンさんに書庫を案内されたことを思い出したからだ。行ってみたいと思いながら、仕事で手一杯で一度も足を踏み入れられなかった場所。

 リチャード様、シルヴィア様、コレット様という人物。それにベルグ様が代理の王だという話。この国のことを、きちんと調べてみよう。

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