勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・3
内容的にあまり進んでいないです(汗)
どうして、ギルドニア国の勇者がわたしの「勇者を倒す」という無茶な試練に同行しているのかというと、正直わたしにもその理由ははっきりしていない。
わたしにわかるのは、彼が相当「規格外」な勇者であるということくらいだ。
勇者と言って想像するのは、品行方正、正義感が強く、義を貫く。弱い者を救い、悪を許さず、命に変えても他者を守ろうとする。
まあ、そんな感じだと思う。というか、わたしはそうだった。今まで趣味で読んでいた物語の本で描かれていた「勇者」という人物はそういう存在だったし。
でも、断言できる。ジェイクさんは違う。何一つ「あ~」と納得出来るものはない。
彼が動くのは、「自分の興味のあるもの」に対する事だけだ。それ以外は歯牙にもかけない。困っている人がいても、当たり前のように素通りできる性格だ。
今、ジェイクさんの興味は、わたしの試練に向いているらしい。実際、「勇者と戦うのも面白そうだ」と楽しそうに語っていましたからね、この人。
つまりは、彼――ギルドニアの勇者様は、他の勇者と手合わせをする為に、わたしの試練に付き合ってくれているわけです。
「ジェイクさん、ギルドニアの仕事は大丈夫ですか?」
「ああ、問題無いだろう。兄上がしっかり働いてくれているだろうからな」
にやりと笑うジェイクさん。「兄上」っていう言葉が、非常に嫌みに聞こえるのは私だけですか?
ジェイクさんの言う「兄上」の姿を思い出して、わたしは遠い目になった。
ジェイクさんの実の兄、ウィナードさん。
爽やかで快活。しっかり周囲を見て、気遣い、進む道を指し示してくれる。困っている人を見捨てられない性格で、ジェイクさんよりもよっぽど「勇者」に向いている人物だと言える。実際、ギルドニア国ではウィナードさんが「勇者レイン」だと認識されている状況だ。
まあ、そんな状況だから、ジェイクさんも勇者業をウィナードさんに押し付けて、あっさりギルドニアを離れることができたわけだけど。
「鈴もルークもいるしな。それに、俺が居ない方があいつらも楽だろう?」
当然のことのように言ってるけど、迷惑掛けている自覚あったんですねジェイクさん。しかも治す気ゼロですよね。
「ジェイクさん……あんまり無茶な事しないで下さいね?」
「さぁな」
雷翔が先刻言っていた事をもう一度確認すると、聞いているのか聞いていないのかわからない曖昧な返事が返ってきました。
さぁって、おい!
口に出来ない言葉を込めてジェイクさんを見るけど、彼は軽くあくびをしただけだ。
ジェイクさんは、勇者なだけあって強いし、勇者と対峙しても負ける要素しかないわたしにとってはありがたい協力者ではある。問題は、気まぐれなジェイクさんの関心がいつまで試練に向いてくれているかだ。
もう飽きた、とあっさり姿をくらます未来、結構ありありと想像出来ます……。
「ジュージュ!」
とにかくジェイクさんの動向に気をつけないと、と考えていたわたしは、高い声で我に返った。
見ると、クーファがキラキラした目で海の向こう側を見ている。その視線を追いかけて、やっとクーファが見ているものに気が付いた。
「町……」
青い水平線の上に、緑の山と白い建物が並んでいる。
あれが、クルウェーク。
「第二の試練か」
「……うん」
雷翔の言葉に小さくうなずく。
怖がっている場合じゃない。戦わないと生き残れないんだから。
可愛らしい積み木の玩具の様な町を眺めながら、わたしは決意を固めた。
魔王になる為に、クルウェークの勇者と戦う決意だ。
「エリオット・マクシェイン」
倒さなければならない相手の名前を、確認するように呟く。
そうしている間にも、船は流れるように町へと向かっていった。