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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(オネエさん)と少女(相棒)・7

投稿が遅くなりました(;´Д`)

 王様の部屋に向かいながら、わたしは自分の疑問に思いを巡らせていた。


 どうしてハロルドさんは、王様から指輪を奪おうとしているんだろう?


 お願いされた時に、その内容に驚きすぎて、一番重要な理由を聞いていなかったことが悔やまれる。

 勇者は国に仕えている人物。つまり王様に従う人だ。その人が、どうして王様から指輪を奪おうとしているのか。緊張していてあまり覚えていなかったけど、王様とハロルドさんのやりとりは、なんだか不自然な感じだった。今まで出会った勇者は、それぞれ差はあっても王様と信頼しあっている様子があった。でも、ベルグ様とハロルドさんは、お互い探り合うような気配があったように思う。それに、一刻の猶予もないと言っていたけど、一体どういう事だろう。

 疑問はいくらでも浮かぶけど、それに対する答えは一つも見つからなかった。情報が少なすぎる。やっぱり、きちんと理由を聞いておくべきだった。流されやすい自分の性格に後悔してしまう。


 がっくりしながら王様の部屋の扉を開ける。

 その途端、またあの声が響いた。


「トイさん?」

『きてくれたんだね。よかった』

「はい、また来ました。あれ、昨日よりはっきり声が聞えますけど……」

『君が来ると思って、あの後封印に抗えるように休んでいたんだ。でも、きっとあまり時間がない。もう、疲れてきたから』


 トイさんの声が、なんとか気力を振り絞っているのが分かる。


「無理しないでください。ちゃんと話を聞きますから」

『うん……ありがとう。君の名前は?』

「名前は、えっと、ジュジュです」


 エミルと名乗るべきか一瞬悩んだけど、ジュジュを名乗ることにした。

 精霊に偽名を使っても仕方ないし……って、そういえば、ジュジュも偽名だった。本名を名乗ろうとする前に、トイさんは話を初める。


『ジュジュ、お願いだ。わたしを連れ出してくれ。これ以上、あの男に利用されるのだけは耐えられない』

「えっ、連れ出すって……精霊さんを?」

『ああ。わたしは今、指輪に封印されているんだ』

「指輪!?」


 指輪って、あれか! ハロルドさんが持ってきてほしいと言った指輪だよね!?

 そうか。ハロルドさんがわたしに頼んだのは、精霊の声が聞こえるからか!


「えと、わたし、あなたを連れ出してほしいって頼まれてきたんです。この国の勇者様に」

『え?』

「トイさん、どこにいるんですか?」

『ああ。鏡があるだろう? その後ろの壁に隠されている。ただ、目くらましの魔法がかけられているから、手探りで探さないと分からないと思う。それに、指輪も盗難防止用に魔法がかけられていて、素手で持つと怪我をしてしまうだろう』


 う、かなり厳重に保管されているっぽい。まあ、当然と言えば当然か。

 とりあえず、探して持ち帰れば、ハロルドさんになんとかしてもらえるだろう。明日の朝には城を出る予定だし。


 トイさんに言われた通り、鏡をどかして壁を見る。

 そして、唖然とした。


「……丸見えですけど」


 壁に、ぽっかりと穴が開いていて、黄色い宝石と美しい彫刻が施された指輪が入れ物に鎮座していた。指輪は、ガラスのケースに守られるように入れられている。

 あれ? 目くらましの魔法は?

 首をひねり、ケースに手を伸ばす。


『駄目だ!』

「え?」


 トイさんの声に驚きながらも、ケースに触れてしまう。が、何も起こらなかった。


『魔法が発動しない?』

「魔法? あっ、盗難防止用の?」


 そうだ、丸見えな状態に困惑して、すっかりトイさんの「盗難防止用の魔法がかけられている」という忠告を忘れていた。

 あれ、でも、何も起きてないし。……あ、そうか。印だ。魔王の試練に使うための道具。あれには魔物を寄せ付けない力と、魔法を打ち消す力も備わってるんだった。


『よくわからないが、何も起こらなくてよかった』


 封印されている状態で疲れているのか、本人の性格なのか、トイさんはあまり考えずにいてくれた。説明する時間も惜しいので、すごく助かる。

 ケースを外すと、指輪を取り出しエプロンのポケットに入れ、また元の状態に戻した。鏡を戻す時に、丸見えな壁が目に入り、落ち着かない気持ちになる。

 ……わたしには見えないけど、目くらましの魔法がかかってるんだよね? 大丈夫だよね? ばれないよね?

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