勇者(オネエさん)と少女(相棒)・6
ああ、どうしよう。
心の中で呟きながら、王様の部屋に向かう。今日はアイリーンさんがいない。心なしか持っている掃除のセットが重たく感じる。
出掛けにレイナさんに言われた「とにかく頑張れ」という謎の励ましと、同情に満ちた目が忘れられません。
とりあえず、王様が部屋に戻る前に早急に掃除を終わらせよう。
目標を立てて、重い扉を開ける。
部屋の中は、大きな天蓋付きのベッドと、バルコニーに出る大きな窓、クローゼットと全身が映る鏡。目に映るのはそれくらいだ。一国の主の部屋にしては物のない部屋だと思うけれど、壺や花瓶とかを置かなくなった理由を思い返すとうなずける。
「とにかく、早く終わらせよう……」
まず目に映ったベッドから手をつける。シーツを外して、新しいものに取り換え、また綺麗に整える。掃除を進めていくうちに、そちらに集中していき、自分でも気付かないうちに初めの緊張が薄れていった。
窓を拭き、床を掃き、鏡を磨く。その時だった。
『――て……』
「え?」
ザラザラという雑音と、それに混じって微かな声が聞えた気がした。
どこから聞こえたか分からないまま、思わず手を止めて耳を澄ます。
『……し……』
やっぱり聞こえる。すごく、弱った声だ。
『だ……て…………だ、して』
出して?
「えっと……誰、ですか? どこかに閉じ込められてるの?」
『き……た? ……は、だれ?』
ええと……聞こえた? あなたは誰? ってところかな。
ザラザラした音が邪魔くさくて、ちゃんと声が聞えない。声の主が弱っている様子もあって、焦りからちょっとイライラしてしまう。
「わたしは、ええと、このお城の女中見習いです」
『な……で、聞こえ……? ……は、な……もの?』
「えっと、なんで聞こえるかと聞かれても。聞こえるので。すごくザラザラしていて聞こえにくいですけど」
『ふ……いん……てるから。わ……は、トイ』
「封印されてる? トイさん?」
『そう。わた……、土の……れい』
「土の……精霊?」
呟いたその時、ガチャっと扉が開いた。
「ああ、まだ掃除中だったか」
「こ、くおう様」
ベルグ様が笑顔で立っていた。目を細め、じっくりとこっちを見てくる。その視線に、ぞわぞわと鳥肌が立った。
「あの、すみません! まだ終わっていなくて」
「まだ不慣れなのだから仕方あるまい。こちらはこちらで寛がせてもらうよ」
「は、はい」
ゆったりと上着を脱いで、ベッドに腰を下ろす。
部屋の主に掃除が終わるまで出て行ってほしいと言えるわけもなく、とにかく残りの鏡の掃除に集中しようとした。でも、鏡越しにこっちをじっと見ているベルグ様が映る。
なんで、そんなに見るのぉぉ!
なんだか撫でまわされているような感覚に泣きそうになりながら、ごしごしと一心不乱に鏡を磨いた。トイと名乗ったあの声の主は、ベルグ様が部屋に入ってきてから口を噤んだようだった。ザラザラという音さえ聞こえなくなっている。
結局、何事もなく退出することができたけれど、掃除中口元に笑みを浮かべながらじっくり見つめられたわたしは、精神的な疲労を感じながらよろよろと戻ることになった。
何もされなかったけれど掃除中見られ続けたと訴えたら、レイナさんはよしよしと頭を撫でてクッキーと紅茶でねぎらってくれました。




