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魔王候補と勇者たち  作者: まる
36/72

勇者(オネエさん)と少女(相棒)・4

投稿が遅くなりました!(>_<)

「それが例の娘か」


 王座からこちらを見下ろすのは、オルネディア国の王、ベルグ・ラーズ様。

 40代半ばくらいで、思っていたよりも若かった。軍事国家ということも聞いていたから、歴戦の戦士のような姿を想像していたけど、ベルグ様は細身で、尖った顔をしていた。撫でつけられた黒い髪、じろじろとこちらを見てくる灰色の目。抜け目のない、という雰囲気もだけれど、品定めしているようなその視線に落ち着かない気持ちになる。

 今まで何人かの王様に会ってきたけれど、この王様は好きになれそうにないと感じた。思わず視線をそらしたわたしの肩に、ハロルドさんが両手を置く。


「ええ。あたしの父の友人の姪で、エミル・ルーシェルです」

「聞いている。女中として働いてみたいそうだな」


 もう王様にも話がいっているのか。

 ハロルドさんの根回しに驚きながらも、「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 ベルグ様は、またじろじろとわたしを見てきた。な、なんだろう。何かへまをしただろうか。内心焦りながらも見つめ返すと、ベルグ様はにやりと笑った。ぞわっと悪寒が走る。

 なんか、この表情見たことがある。どこでだろう。

 答えが出る前に、ベルグ様が口を開いた。


「中々可愛い顔をしているな。まあ、少しの間女中というものがどういうものか経験してみるといい。その厳しさが分かるだろう」

「ありがとうございます」


 ハロルドさんが頭を下げたので、わたしも倣って慌てて頭を下げた。

 ベルグ様が呼んだ女中さんに案内されて、ハロルドさんと一緒に客間に向かう。女中さんが立ち去り、扉が閉まった途端、ハロルドさんが「やったわね!」と嬉しそうにわたしの両手を掴んで跳ねた。


「うまくいって良かったわ~! まあ、ルーシェル伯爵も協力してくれていたから大丈夫だと思ったけど、すんなり許可が出て安心したわ」

「問題はこれから、ですよね」

「そうね。これはちょっとジュジュに頑張ってもらわないと。悪いけどお願いね」

「自信はないですけど……できる限り頑張ります」


 ハロルドさんからのお願い。それは、ベルグ様が所有している指輪を取ってきてほしいという、結構難しい内容だった。

 難度の高い依頼に気後れしてしまったものの、わたしの試練には彼の協力が不可欠だ。それに、その話をした時のハロルドさんの真剣な表情に、断る事が出来なかった。

 こうして、わたしはオルネディアのお城に潜り込むことになった。女中見習のエミル・ルーシェルとして。


「無関係なジュジュを巻き込むのは気が引けるけど、もう一刻の猶予もないのよ。あたしの交友関係は王様に把握されちゃってるしね。でも、無理はしないで。女中見習いをさせてもらう5日を無事に過ごすのが優先。もし5日の間にうまくいかなくても、その後にお城に上がれるチャンスがあるんだから」

「えっと、とりあえずやってみます。その前に、これ取ってもいいですか? 頭が暑くて」

「ああ、もちろんよ」


 そう言いながら、ハロルドさんがわたしの頭から、悪目立ちする銀紫の髪を隠してくれた茶髪の鬘をとってくれる。

 慣れない感覚から解放されて、ふっと息をはいた。

 そんなわたしを見下ろしながら、ハロルドさんが深刻そうな、困ったような顔をしているのに気づく。


「どうしました?」

「あ、えーと……うん。エミルとして入り込めたことに関しては、何の問題もないの。ただちょっと……あの王様に目をつけられたのはまずかったなーって」

「えっ。わ、わたし何か失敗しました?」

「ううん。じゃなくって。……とにかく、ジュジュ。気を付けて。無事に過ごすことを優先して頂戴。いいわね」

「? はい」


 この依頼をお願いした時と同じように真剣な顔で言われ、とりあえず頷いた。

 どうしてハロルドさんが気をつけろと念を押したのか、その理由が分かったのはまだ

先のことだった。

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