勇者(オネエさん)と少女(相棒)・4
投稿が遅くなりました!(>_<)
「それが例の娘か」
王座からこちらを見下ろすのは、オルネディア国の王、ベルグ・ラーズ様。
40代半ばくらいで、思っていたよりも若かった。軍事国家ということも聞いていたから、歴戦の戦士のような姿を想像していたけど、ベルグ様は細身で、尖った顔をしていた。撫でつけられた黒い髪、じろじろとこちらを見てくる灰色の目。抜け目のない、という雰囲気もだけれど、品定めしているようなその視線に落ち着かない気持ちになる。
今まで何人かの王様に会ってきたけれど、この王様は好きになれそうにないと感じた。思わず視線をそらしたわたしの肩に、ハロルドさんが両手を置く。
「ええ。あたしの父の友人の姪で、エミル・ルーシェルです」
「聞いている。女中として働いてみたいそうだな」
もう王様にも話がいっているのか。
ハロルドさんの根回しに驚きながらも、「よろしくお願いします」と頭を下げる。
ベルグ様は、またじろじろとわたしを見てきた。な、なんだろう。何かへまをしただろうか。内心焦りながらも見つめ返すと、ベルグ様はにやりと笑った。ぞわっと悪寒が走る。
なんか、この表情見たことがある。どこでだろう。
答えが出る前に、ベルグ様が口を開いた。
「中々可愛い顔をしているな。まあ、少しの間女中というものがどういうものか経験してみるといい。その厳しさが分かるだろう」
「ありがとうございます」
ハロルドさんが頭を下げたので、わたしも倣って慌てて頭を下げた。
ベルグ様が呼んだ女中さんに案内されて、ハロルドさんと一緒に客間に向かう。女中さんが立ち去り、扉が閉まった途端、ハロルドさんが「やったわね!」と嬉しそうにわたしの両手を掴んで跳ねた。
「うまくいって良かったわ~! まあ、ルーシェル伯爵も協力してくれていたから大丈夫だと思ったけど、すんなり許可が出て安心したわ」
「問題はこれから、ですよね」
「そうね。これはちょっとジュジュに頑張ってもらわないと。悪いけどお願いね」
「自信はないですけど……できる限り頑張ります」
ハロルドさんからのお願い。それは、ベルグ様が所有している指輪を取ってきてほしいという、結構難しい内容だった。
難度の高い依頼に気後れしてしまったものの、わたしの試練には彼の協力が不可欠だ。それに、その話をした時のハロルドさんの真剣な表情に、断る事が出来なかった。
こうして、わたしはオルネディアのお城に潜り込むことになった。女中見習のエミル・ルーシェルとして。
「無関係なジュジュを巻き込むのは気が引けるけど、もう一刻の猶予もないのよ。あたしの交友関係は王様に把握されちゃってるしね。でも、無理はしないで。女中見習いをさせてもらう5日を無事に過ごすのが優先。もし5日の間にうまくいかなくても、その後にお城に上がれるチャンスがあるんだから」
「えっと、とりあえずやってみます。その前に、これ取ってもいいですか? 頭が暑くて」
「ああ、もちろんよ」
そう言いながら、ハロルドさんがわたしの頭から、悪目立ちする銀紫の髪を隠してくれた茶髪の鬘をとってくれる。
慣れない感覚から解放されて、ふっと息をはいた。
そんなわたしを見下ろしながら、ハロルドさんが深刻そうな、困ったような顔をしているのに気づく。
「どうしました?」
「あ、えーと……うん。エミルとして入り込めたことに関しては、何の問題もないの。ただちょっと……あの王様に目をつけられたのはまずかったなーって」
「えっ。わ、わたし何か失敗しました?」
「ううん。じゃなくって。……とにかく、ジュジュ。気を付けて。無事に過ごすことを優先して頂戴。いいわね」
「? はい」
この依頼をお願いした時と同じように真剣な顔で言われ、とりあえず頷いた。
どうしてハロルドさんが気をつけろと念を押したのか、その理由が分かったのはまだ
先のことだった。




