勇者(オネエさん)と少女(相棒)・2
戸惑っていると、パタパタと軽い足音が近付いてきた。
思わず視線を向けると、小柄な女の子がこっちに向かって走ってきている。
「ハロルド様!」
「あっ、ごめんごめん。驚かせちゃったわね」
「いえ。その、こちらの方は……」
「あたしの知り合いとその連れよ。こいつがジェイクで、こっちの女の子がジュジュっていうんですって。ジュジュちゃん、この子はココ。あたしの相棒よ」
ね、と妙に似合うウインクをするハロルドさんに、ココという女の子は赤くなった。
「そんな、わたしがハロルド様の相棒だなんて、恐れ多いです」
「何言ってるの。それより、ジュジュちゃん。同じくらいの女の子同士仲良くしてやってちょうだいね」
「は、い……」
返事をしながらも、わたしは「彼女」から目が離せなかった。
肩につかないほどのふんわりした柔らかそうな栗色の髪。大きな緑色の瞳。少しびくびくした様子から小動物のようにも見える少女。
その隣には、もう一人の女性が立っていた。
すらりとしながらも胸が大きく腰がはっきりとくびれている色っぽい女性。全身が淡い緑色で、道を行き交う人や並んだ建物が彼女越しに透けて見えている。
どう見ても……人間じゃないですよね。
見つめていると、彼女ははっとしたように口を開いた。
『あなた、わたしが見えているの?』
「しゃべったっ……!」
「えっ?」
驚いていると、緑の彼女はずいっとわたしの前まで近付いてきた。
後ずさるわたしを、ココちゃんが不思議そうな顔で見ているのが目の端に映った。
『どうしてわたしが見えるの!? 具現化されていないのに!』
「ぐ、ぐげん?」
『あなた、何者!?』
「ひぃっ!」
美人さんの勢いに気圧されていると、ぐいっと首をひねられた。
「いっ、痛っ!」
「おい」
今度は視界に眉をひそめた別の美人さんの顔が映る。
「ジェ、ジェイクさん」
「大丈夫か?」
ジェイクさん、その質問の前に「頭は」ってついてましたよね?
「大丈夫です!」
無理やりひねられた首の方が痛いです。
心の中で付け加えていると、ハロルドさんがジェイクさんの手を引っぺがした。
「ちょっと、ジェイク! 女の子に何してんのよ。大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫です。えっと……」
ちらっと視線を向けると、緑色の女性はまだこっちを至近距離で見つめていた。な、なんか怖いです! 圧が! 圧がある……!
「その、そこに何か見えますか?」
「え?」
「緑色の女の人の幽霊、みたいな」
「……ごめんなさい。あたしには見えないわ」
「ですよね……」
うん、なんとなく分かってた。わたしが不審者に見えていることだろうなってことも。
見えない人からしたら、一人でびっくりしてしゃべっている怪しい人だ。それでもきちんと対応してくれたハロルドさんは、すごく良い人なんだと思う。
「あの、緑色の女性って……シアでしょうか」
「え?」
おずおずとココちゃんが話しかけてきた。
「その人って、長い髪の、すごく綺麗な女の人じゃありませんか? 長いドレスの様な服を着ていて、大人っぽい」
「は、はい! そうです!」
「シア? シアは精霊でしょ? 呼んでないのに見えるの?」
ハロルドさんが驚いたようにわたしを見てくる。でも、こっちは何もわからないので何とも答えられない。
シアって誰? 精霊って何?
きょとんとしているわたしに、ココちゃんが説明をしてくれた。
「わたし、精霊使いなんです。と言っても、風の精霊としか契約していないんですけど……その契約している精霊がシアなんです」
「精霊使い?」
「精霊使いは職業の一つよ。魔法使いは魔法を使うでしょ? 精霊使いは精霊を使うの。まあ使うというより、手伝ってもらうって感じかしら。精霊は魔法と違って意思を持った存在だし。でも、精霊は精霊使いが呼び出さない限り姿を表さないものなのよ。どうして見えるのかしら?」
小首を傾げてわたしを見つめるハロルドさんと、困ったような顔をして見つめるココちゃん。いや、聞かれてもわたしも分かりませんよ?
「魔族だからじゃないのか」
「「魔族!?」」
ちょ、ジェイクさん!
なんでさらっと暴露しちゃってるんですか‼




