勇者(きゅうこんしゃ)と王様(そのあいて)・5
「……どうしてそんな話になったんだ」
頭が痛いとでも言いたげな顔で、コウガ様がわたし達を見てくる。
戸惑うわたしの隣では、涼しそうな顔の鈴さんが、これまた涼しそうな声で答えた。
「あのお姫様がジュジュと戦いたいって言いだしてきたんですよ。普通に戦って勝てる相手じゃないから、料理対決をすることになったってわけです」
「それはいい。だが、どうして私がその判定係なんだ」
「仕方ないじゃないですか。料理で物理的に戦うわけじゃないですし」
あの後、鈴さんが料理対決にはその勝敗を決める人が必要な事を指摘してくれました。正直、わたしはそこまで頭が回ってませんでした……多分リリアナちゃんも気付いてないと思う。
二人で話した結果、この話に一番関係の深い人物としてコウガ様が候補に上がったのだ。そしてコウガ様の執務室で彼を説得している――というのが今の状況です。
本来ならわたしの役目ではあるんだけど、何せあのきゅ、求婚の後だ。一人で話をしに来る勇気はありませんでした、はい。
「物理的に料理で戦うって、どうやるんだ……まあ、料理対決は認めよう。ただ、何故私が判定をする立場になるんだ? 他の者でもいいだろう」
「ある意味当事者じゃないですか、ねえジュジュ」
えっ、ここで話を振るんですか?
戸惑いながら鈴さんからコウガ様に視線を変える。執務室のソファに座っているその姿を見て、前にここで同じように彼と話したことを思い出した。同時に、恐ろしい光景も脳裏をよぎった。
「どうした?」
わたしの表情が強張ったのに気が付いたのか、コウガ様が少し身を乗り出した。
「あの、コウガ様にお願いしようって思ったのは、リリアナちゃんとわたしに一番関わりが深い人だと思ったからで……でも、断ってくれてもいいんです。その、何があるかわからないし」
思い出したのは、コウガ様が毒を盛られた時の事だ。
わたしとコウガ様に出されたお茶に毒が入っていて、知らずにお茶を飲んだコウガ様が倒れたのだ。割れた茶器、乱れた呼吸、床に広がる金色の髪。あの時の恐怖がおなかの底からせりあがってくる気がした。
「……また妙な気遣いをしているな」
コウガ様は小さくため息をついてから、わたしの方に手をのばした。
「コウ、がひゃまっ」
「前にも言ったはずだ。多少の毒は効かない体だと。ついでに、お前に心配されるほど落ちぶれてはいないつもりだ」
「そうれふけど~」
なんで事あるごとにほっぺ引っ張るんですか! 何、柔らかいの? 太ったの!?
コウガ様の手を軽く叩いて抗議すると、フンと鼻を鳴らして手を放してくれた。ああ、絶対赤くなってる……。
「いいだろう。お前とリリアナ姫の戦い、私が直々に見届けてやる
「流石コウガ様! ジュジュも心配しないで。あたしがちゃんと毒見するから。ほら、あたしって元々は暗殺稼業してたでしょ? 間違いなくコウガ様より毒の耐性あるし。っていうか、口に入れたら直ぐに毒かどうかわかる自信もあるし」
「鈴さん……」
堂々と言われても返事に困ります……。でも、これだけ自信があるなら大丈夫かな。口に入れたら分かるなら、飲む前に吐き出すことも可能だろうし。
「じゃあ、鈴さん。コウガ様。お願いします」
ぺこりと頭を下げると、コウガ様は満足そうな顔で微笑んだ。
「まあ、お前の料理を食べられると思えば役得だな。情けない結果にならないようにな」
「はい、頑張ります! それに、リリアナちゃんもすごく喜びますよ。コウガ様に食べてもらえると知ったらもっと頑張れると思いますし‼」
それに負けないように頑張らないと!
気合を入れなおしたわたしに、鈴さんは微妙な顔をしていた。
「鈴さん?」
「ジュジュ、あんた結構毒が強いわよね」
「えっ?」
わたしが毒? なんで?
「……いや、いいわ。自然発生してるものだし。コウガ様、ちょっと同情してもよろしいでしょうか」
「気にするな。こういう相手だと分かって選んだんだしな」
微笑みながらも、コウガ様はどこか気落ちしているようだった。
一体、何が起こったんだろう?
首を傾げるわたしの前では、二人が深々とため息をついていた。




