勇者(きゅうこんしゃ)と王様(そのあいて)・4
きょとんとしているわたしをビシッと指さし、リリアナちゃんが目を吊り上げる。
「ルーナに聞いたぞ! そこの小娘、我が君を誑し込んだそうじゃな!」
「た、たらしこむ……?」
「失礼ね、コウガ様が勝手にジュジュを気に入ってるだけのことでしょ」
鈴さんが涼しい顔で告げると、リリアナちゃんは顔を赤くしてダンダンと床を踏んだ。
「何故じゃ! 何故このようなぼーっとしたお気楽そうな小娘に我が君の心を奪えたのじゃ!」
「お、お気楽……」
「どう見ても余の方が強そうではないか! もしや魔術師か?」
「いえ、魔法の才能はなくて……戦いに関してもですけど」
「では何故我が君はお主に惹かれたのじゃ!? 戦えない、魔術も使えない女に、コウガ様がうつつを抜かすなど! 一体お主はどんな手を使ったのじゃ!」
「ど、どんな手と言われても」
何も思い浮かびませんが。
戸惑うわたしと憤るリリアナちゃんを見ていた鈴さんが、ふいに口を開いた。
「料理とかじゃないの?」
「……りょうり?」
「そ。ジュジュの得意な事は、料理とか掃除とか」
「な、何を言っておるのじゃ! コウガ様は強い者を好んでおるのじゃぞ。そんななよっちょろい事」
「分かってないわね~」
チッチッチ、と鈴さんが指を振り、リリアナちゃんの言葉を遮った。
「女には女の強さがあるのよ。いくら強い男でも、女の色気には敵わないわ。涙一つで国を傾けられる女だっているのよ」
「色気……」
目からうろこが落ちたような顔をして呟くリリアナちゃん。
「ジュジュの場合は色気じゃなくて、献身的な姿勢とか家庭的なところが力よね。胃袋を掴まれたら従わざるを得ないし、健気に支えてくれる女は手放したくないものよ」
「献身的で……家庭的……」
リリアナちゃんは呟くと、ふらあっと崩れて床に両手をついた。
ルーナさんが慌ててその肩を抱く。
「そ、そんな……余は強さを勘違いしていたというのか……」
「リリアナ様! 気を確かに!」
「余の7年は、一体……」
ずーんと沈んでしまったリリアナちゃんと、必死に励ますルーナさん。
ど、どうしよう。これ。
「す、鈴さん」
「これくらいで諦めるならそれくらいの気持ちだったってことでしょ」
「ちょ、鈴さん!」
「……なんだと」
地を這うような声が床からする。
ひっ、と震えながら視線を下げると、リリアナちゃんが恨みと憎しみに染まった目をこちらに向けていた。こ、怖い! 怖い‼
思わず鈴さんに取りすがる。鈴さんは動じる様子もなく涼しい顔だ。
「諦めないでジュジュと勝負したいというなら、料理で相手してあげるわ」
「……分かった。銀の君に相応しいのがどちらかはっきりさせてやろう! 小娘、三日後に余と勝負じゃ! 逃げるのは許さんぞ‼」
「えっ、えっ?」
「よいな! ルーナ、厨房に行くぞ! 料理の仕方を教えるのじゃ」
来た時と同じように、嵐のように去っていった。
残されたわたしは唖然とするばかりだ。
「す、鈴さん……」
「うふふ、成功ね。ジュジュの得意分野で勝負できるじゃない」
「まさか、その為にあんなこと言ったんですか?」
「だって、ジュジュがあんまり自信なさそうにしてるから。勇者と勝負して勝つことにこだわるのなら、勝てる土俵を用意しなくちゃ」
悪びれない鈴さんに少し呆れながらも、わたしの気持ちを理解してくれていることが嬉しかったりもした。
「じゃあ、わたしも勝てるように練習しないとですね」
初めてきちんと勇者と戦える。その事も嬉しかった。




