勇者(きゅうこんしゃ)と王様(そのあいて)・3
女中さんに案内されて入った部屋を見回して、気持ちが落ち着くのを感じた。
見るからにフカフカのベッドが二つ。窓の傍には小さな机があって、部屋の真ん中にはソファが二つ、テーブルをはさんで向かい合っておかれている。
以前、このお城に滞在させてもらっていた時と同じ部屋だ。
「なんか、こうして鈴さんと一緒の部屋にいるのが懐かしいです」
左側のベッドに腰を下ろして声をかけると、鈴さんはにっこりと微笑んだ。
「本当ね。ジュジュがいるの、なんか嬉しいわ。ずっとこの部屋を使わせてもらってたけど、やっぱベッドが二つあるのに一人だと物足りない感じがするものね。クーファも元気だった?」
隣に座って、肩の上にいたクーファに鈴さんが声をかけた。
鈴さんに喉を撫でられて、クーファが目を細める。
「勿論! オレ、ジュージュノ護衛!」
「あはは、そうよね! お仕事お疲れ様。ところでさ、ジュジュ。ジェイクはどう?」
「え?」
ジェイクさん?
鈴さんの質問の意図が掴めなくてきょとんとすると、鈴さんはなんだか楽しそうな顔をした。
「あいつを送り出した時は、そのうち興味なくして途中でどっかにふらっと行っちゃうんじゃないかな~とか思ってたけど、あれだけジュジュを気に入ってるならその心配はなさそうね」
「気に入ってる、ですか? 面白がっているようにしか思えませんけど……。わたしの事は枕替わりにしか思ってないでしょうし」
「……何も伝わってないのね。ジュジュも鈍いんだろうけど」
「? 鈴さん?」
「あー、いいの。気にしないで。それより、どうするの? コウガ様」
「えっ」
「本気だと思うわよ~? あの人、冗談は言わない性格だし」
それって、あれだよね。傍にいてもらいたいってやつだよね。
「コウガ様の事は……尊敬してますし、嫌いではないです、けど」
「けど?」
「コウガ様が言っていたのは、わたしがコウガ様に似てるから……気持ちがわかるから、ですよね。わたしのことを好きなわけじゃないですから」
「……なるほどね」
「それに、ただ共感できるからっていう理由で結婚するのは違うと思うし」
「ふぅーん」
意外なものを見つけたような顔で、鈴さんがまじまじと見つめてきた。
なんだかその視線に落ち着かない気持ちになる。
「あ、あの、鈴さん?」
「あ、ごめんごめん。ジュジュが思った以上にちゃんと自分の考えを持ってることにびっくりしちゃって。この一年で随分成長したのね」
「わたし、成長してますか?」
「したわよ。初めの頃は不安そうにしてばかりだったもの」
明るく笑いながら鈴さんが頭を撫でてくる。
「魔王の試練で、随分度胸もついたみたいね」
「戦いに関してはさっぱりですけどね。マルグイード国のルディさんともシデン国のイノさんとも戦わずに協力してもらっちゃいましたし」
マルグイード国の勇者のルディさんは、結構その、丸い体型の人で。なんだかぬいぐるみのような、見てて癒される感じのお兄さんだった。何も知らずに町で会って、食べ物やお菓子の話で意気投合して、クッキーを作ってあげたらすごく喜ばれました。お互いの立場を知った後も、「あんなにおいしいお菓子を作れる人に悪い人はいない」とかいうルディさんの自論であっさり協力してもらえた。マルグイードの人の話では、凄い体力と腕力の持ち主で、本気になると威圧だけで魔物も逃げていくくらいらしいけど、最後まで戦う姿は一度も見ませんでした。
シデン国のイノさんは、年配のご婦人だった。背が高くすらっとしていて、白くなった長い髪を緩く一つに編み、薙刀というシデン国の武器を持ったその姿はすごく様になっていて綺麗でした。傾国の美女と呼ばれていたという話だけど、その顔立ちや立ち振る舞いを思い出すと、その話は本当だと思う。彼女はわたし達の話を聞くと、人間と魔族が共存する難しさを語り――それでも努力していきたいというと協力してくれた。シデン国を出るときに「貴女の作る魔族の国を見るのを楽しみにしていますね」と微笑んだイノさんを思い出すと身が引きしまる思いがする。
まあ、そんな感じで「協力してもらう」結果が続いてしまったわけだけど。
「あんな形で、試練を超えられたっていうんでしょうか」
わたしの言葉に、鈴さんが首を傾げる。
「印に血を注ぐので、クリアの条件はそれで済んでるんじゃないの?」
「それはそうなんですけど……勇者を倒してこその試練だと思っていたので、なんだかごまかしているような気がして」
「真面目なのは変わらないのねぇ。……ジュジュ。あたしは全然卑怯だとは思わないわ。むしろそれがジュジュのやり方で、あんたの強さだと思う」
「わたしの強さ、ですか?」
「確かに、力でねじ伏せるのも強さの一つよ。でも、相手に協力したいと思わせる方がはるかに難しいわ。それが出来ちゃうのがジュジュの力。魅力ってやつよね」
「み、魅力?」
思ってもみなかった言葉が出てきたのに困惑していると、急にクーファが顔を上げて扉の方に目を向けた。
「何カ来ルゾ」
「え?」
鈴さんと一緒に扉の方を見ると、ドドドという地響きのような音が近付いてくるのが聞えた。それはどんどん近付いてくると、バンッ! と扉が開かれた。
「失礼する! そこの女、余と勝負じゃ!」
あ。これ、すごい見覚えある。




