勇者(きゅうこんしゃ)と王様(そのあいて)・2
リリアナちゃんは、わたし達の雰囲気を物ともせず、コウガ様に詰め寄った。とはいうものの、あまりに身長差がありすぎて完全に見上げる形になっちゃってるけど。
「さあ、今日こそは余と勝負してもらうぞ!」
「だから、断ると言っているだろう」
「何故じゃ!」
苛立ったように、リリアナちゃんがダンダンッと片足で床を踏みつけた。
その様子は微笑ましくも見えるけど、踏みつけた床にヒビが入った。さすが勇者……。
「第一、何故余を避けるのじゃ! 失敬であろう!」
「こうして絡まれるのが分かっているのに避けない理由がないだろう。それに私はこの国の王だ。王の方が勇者より立場は上なんだから、失礼もないだろう」
「じゃ、じゃが余はロゼンテッタ国の第三王女じゃ!」
「王女として来られたのならば、私もそれなりの対応はさせてもらう。王女と戦うわけにはいかないけどな」
「くうっ……!」
完全に言い負かされて、膝をついてしまうリリアナちゃん。表情一つ変えずに見下ろすコウガ様。……この状況だけで、二人の位置関係がよくわかる気がする。
「えーと……これって」
「ああ。あの子が来てからいつものことだから気にしなくていいわよ」
「いや、気にしなくていいと言われましても」
そういうわけにはいかないですよね! 話を聞く限り、この子が勇者らしいし!
「まあ、見ての通りよ。ロゼンテッタ国の勇者はコウガ様に夢中ってわけ。で、ああいう風にアプローチしてるのよ。結局コウガ様に言いくるめられておしまいだけど」
「ああいう風って……決闘の申し込みがですか?」
わたしのひそひそ声が耳に入ったらしい。リリアナちゃんが突然こっちに振り返った。突然鋭い視線を帯びて、思わずびくっとしてしまう。
「決闘ではない! 求婚じゃ!」
「きゅ、きゅうこん?」
「コウガ様が強き者を愛するということは調査済み! なれば、強くなればコウガ様も余を愛してくださるだろう。そう思って修業し、勇者の地位まで昇りつめたのじゃ! 後はコウガ様に勝ち、余の強さを認めてもらうのみ! さあ、勝負して」
「断る」
「何故じゃ!」
がくりと崩れ落ちるリリアナちゃん。
その肩を、一緒にやってきたお付きの人らしき女性がそっと抱えた。
「姫様。もう諦めましょう」
「何を言うルーナ! 余は七年も修業して勇者になったのだぞ! ここで諦めるわけにはいかぬ‼」
「ではせめて、今日はもう部屋に戻りましょう。引き際も肝心です」
「何だと! だから、余は諦めるわけには」
「あまりしつこくするとコウガ様に嫌われてしまいますよ」
「……今日はこれくらいで許してやる! 明日こそ勝負じゃ‼」
来た時と同じように、ビシッとコウガ様に指を突き付けて去っていくリリアナちゃん。
残されたルーナさんという人は、はぁとため息をついてからコウガ様に頭を下げた。
「申し訳ありません、コウガ様」
「いや、お前も大変だな」
「そんなことありませんよ。本来は努力を怠らない素直で優しい方ですから、私は姫様に仕えられていることを誇りに思っております。まあ、コウガ様の事となるとあんな風になってしまうんですけれども」
「王女が努力家なのはよく理解している。そうでなければ、勇者になるために幼い少女の身で七年も修業を続けられないだろうしな。かと言って妻に迎える気はないが」
はっきり答えたコウガ様に、ルーナさんは困ったような少し残念そうな表情で微笑んだ。
「王女にも、早く諦めてもらえるといいんだがな」
「それは難しいでしょうね。良くも悪くも真っすぐで諦めを知らない方ですから……少なくともコウガ様が独り身でいる間は諦めるという事はないでしょう」
「なら、やはりお前が嫁ぎに来るしかないな」
「へ? えっ、ちょ! ななな何言ってるんですか‼ 急に変な事言わないでください!」
いきなり変化球でこっちに話がとんできましたけど!
ちょ、本当にやめてください! 巻き込まないで‼
「別に急ではないだろう。以前も言ったと思うが」
確かに言われた。一生隣に置いてても飽きないとか、人間の王と魔族の王が結ばれたらわたしの目指す人間と魔族が共存できる世に近付く事もできるとか。
でも、どう考えても真面目に言ってなかったよね、あの時!
ルーナさんが驚いた顔でわたしとコウガ様を見比べる。
「え、あなたがコウガ様の婚約者……?」
「違います!」
「残念ながら、まだ快い返事はもらえていない」
「何言ってるんですか! 本気にされるからやめてください! 冗談ですよ!? ルーナさん、冗談ですからね!?」
「心外だな。私は本気で言っているというのに。信じられないのなら、改めて言えば良いのか?」
「だからっ!」
ふざけないでください! と言う前に、コウガ様がわたしの手を取った。
ぐっと顔を近付け、見つめてくる。真剣な眼差しに、怒っていたことも吹っ飛んで固まってしまう。
「あ、あの」
「ジュジュ。私と一緒に生きてくれないか? 私が私でいられるように、お前に傍にいてもらいたい」
え? 何これ。冗談……なの?
「な、なんで、わたしなんですか?」
「お前は私に似ている。お前なら異質な者として孤立していた気持ちがわかるだろう? それに、化け物の私を受け入れてくれるのはお前くらいなものだ」
自嘲気味に笑うコウガ様に、わたしは自分の表情が曇っていくのを感じた。
コウガ様が自分のことを化け物と呼ぶ理由。それは、彼に魔族の血が流れているからだ。今のこの姿も、魔力を抑えた姿であって、本来はもっと魔族に似た容姿をしている。
人間に似た姿で魔族の世界で生きてきたわたしと、魔族に似た姿で人間の世界で生きてきたコウガ様は、全く逆でありながら同じような環境で過ごしていた。だから、彼のいう事は分かる。
でも、それはわたしと結婚したいという理由にはならないんじゃないかな。
だって、恋人とか夫婦って、妥協や同情でなるものじゃないと思う。
口を開く前に、ずしっと肩に重みがかかった。
「コウガ、勝手なことをするな。これは俺の所有物だといったはずだ」
わたしの首に後ろから腕を回したジェイクさんが、低い声を発する。
そんなジェイクさんにコウガ様は口元に笑みを浮かべた。
「名で縛るなんて、随分古風だな。今は禁止されている契約魔法のはずだが」
「俺は俺の自由にさせてもらう。拝命された時にそう言っただろ? お前もそれに同意したはずだ」
「……そうだな。それについては早まったな」
ジェイクさんにがっしりと捕獲されているし、コウガ様は笑顔だけど目が笑ってないし、恐ろしすぎて泣きそうなんですけど……!




