勇者(きゅうこんしゃ)と王様(そのあいて)・1
今回は短めです(;´Д`)
お互いの話が一段落ついてお茶を飲んでいると、コンコンと扉が叩かれた。
答える間もなく、扉が開いて男の人が現れる。
「コウガ様」
思わず呼ぶと、彼はにこりと微笑んだ。
コウガ・サーベント様。このギルドニア国の王様だ。
さらさらの金髪に緑の瞳、軍服の様な軽装。初めて会った時と変わらず、王様というより王子様と呼ぶ方が相応しい感じの美形な男の人だ。
でも、初めて会った時と雰囲気が違っている。
あの時は、すごく睨みつけられて近付き難い雰囲気が漂っていたけど、今はなんだか楽しそうな顔をしていた。
「久しぶりだな」
コウガ様は真っすぐわたしの方にやってくると、なぜかむにっと頬をつかんだ。
「は、はにするんでふか!」
「相変わらずしまりのない顔をしているな。王としての覚悟はできたのか?」
「う」
「……」
「いひゃいいひゃいれふ!」
「まったく……相変わらずだな。まあ、お前らしいと言えばお前らしいけどな」
やっとコウガ様の手から解放された頬をさすっていると、背後からずしっと重たいものが覆いかぶさってきた。
あ、この感覚はもうあれだな。あの人ですね。
「コウガ。これは俺の所有物だ」
「ジェイク。お前も久しぶりだな」
コウガ様がにこやかに挨拶するのを見て、あれ、と思う。
初めて会った時は、彼は「強い人」を支持していて、ジェイクさんをとても気に入っていた。そんな彼が、ジェイクさんを後回ししたことに僅かな違和感を覚えた。
「だから、ジュジュは物じゃないって言ってるでしょ! それより、ジュジュがここに来たってことは、ロゼンテッタ国の勇者がらみでしょ」
べりっとジェイクさんの腕をはがしてくれた鈴さんに慌てて頷く。
まだ説明をしていないけれど、勘のいい彼女はわたし達がこの国に戻ってきた理由を察していたらしい。
「はい。実はまだロゼンテッタ国の勇者とは会えていなくて……今はギルドニアに滞在中と聞い」
「失礼する!」
バーン! と壊れるような勢いで扉が開き、可愛い声が飛び込んできた。
扉の奥には長い黒髪を右側の耳の上あたりで括った女の子が立っていた。見たところ、十歳くらいかな? 大きくて吊り上がり気味な目のせいか、少し気が強そうな感じに見える。
わたし達がぽかんとしていると、彼女の横から一人の女の人が駆け込んできた。
「姫様、なんというはしたない真似を! すみません、皆様。あああ、コウガ様まで!」
「ええい、うるさいぞルーナ! 余は姫ではなくロゼンテッタ国の勇者リリアナとしてこの国に来ておるのじゃ。作法についてとやかく言われる筋合いはないぞ!」
ダンダンッと地団太を踏んでから、女の子――リリアナちゃんは、びしっと一点に指さした。
「今日こそは逃がさぬぞ! 余と勝負じゃ!」
指さしの先。うんざりした顔のコウガ様が、あからさまに大きなため息をついた。
「何度言ったら分かる。私お前と勝負する気は微塵もないし、お前の言う条件を呑む気も一切ない」
「男子たるもの、勝負から逃げるなど許さんぞ! 余が負けたら、素直に国に帰ってやろう。でも、もし余が勝てたなら結婚してもらうぞ、我が君!」
う、うぇぇぇぇ!?
「なんつーか……まともな勇者、一人くらいいねぇのかよ」
今までの流れを静かに見ていた雷翔の呟きは、あまりに全う過ぎて何も言えなかった。




