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魔王候補と勇者たち  作者: まる
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勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・1

プロローグ的なもの

片膝をつき胸に手を当てるという体勢を保ったまま、アメリア・エドワーズは今にも飛んで行きそうな意識をなんとか繋ぎとめ、床に敷かれた赤い敷物を見つめていた。

 許可が下りない以上顔を上げる事は出来ないが、普段は近くに感じる事のない威圧感と、それが頭の先に鋭く集中している事が感じられた。


「お前が、第4騎士団のアメリア・エドワーズか?」


 低い声が耳に響く。

 アメリアは震えそうになるのを堪え、なるべくはっきり発音するように「はい、陛下」と答えた。

 そう。目の前に居るのは、まぎれもなく彼女の仕えている相手であり、このクルウェーク国を治めている国王その人だった。

 突然の呼び出しに、アメリアの心臓は今にも破裂しそうなほど高鳴っていた。


 ――一こんな一介の騎士。それも女の騎士に、一体何の用なのだろう。


 不安と緊張で白くなりそうな頭の中、アメリアは必死に自分の行いを省みていた。

 規則を破った事はないはずだ。元々アメリアは真面目な方で――むしろ、生真面目と言われる方だ。遅刻をしたこともないし、仕事だって手を抜いたりはしていない。

 もし何かの任務だとしたなら、城の護衛が中心の地味な第4騎士団ではなく、遠征や討伐を中心に華々しく活動している第1騎士団や第2騎士団の精鋭が呼ばれるだろう。

 女の手が必要な任務ならば分からないでもないが、第4騎士団にはアメリアの他に6人の女性騎士が居る。その中でアメリアだけが呼び出されるというのはいまいち釈然としなかった。


 国王が口を開くまでの数秒間で色々な考えを巡らせたアメリアだったが、「顔を上げよ」の声に反応して、また頭が真っ白になった。

 それでも、自然とその指示に従い顔が上がった。

 アメリアの目に、国王の顔が映る。

 髪も長い髭も白くなっており、その顔には年を重ねた落ち着きが見てとれる。一方で、真っ直ぐな茶色の瞳はアメリアの全てを見通しているような鋭さがあった。

 初めて対面した国王の姿に、アメリアは音を鳴らさないようにしながら唾を飲んだ。


「アメリア・エドワーズ。精霊祭の闘技会では、中々の成績を残したようだな」

「はっ。ありがたきお言葉」


 一瞬何を言われたか分からなかったが、反射的に言葉が口をついて出た。アメリアは答えてから、国王の言葉の意味を理解した。


 毎年、クルウェーク国では『精霊祭』という祭りが開かれる。闘技会は、一週間続く祭りのイベントの一つだ。ちなみに、騎士団は義務的に闘技会に参加することになっている。騎士団は国の守りの要として一般人に負けるわけにはいかないと奮起するし、参加する方も力自慢の猛者ばかり。激しい戦いは観客にとっても一見の価値があるらしく、闘技会は精霊祭の大きなイベントの一つとなっている。

 勿論、アメリアも騎士団として参加をした。優勝は出来なかったものの、女性騎士の中では一番だったし、男性騎士三人と一般参加の男性二人に勝てたので、アメリアの中ではまあ満足できた結果だった。

 とはいえ、20位以内に入れた程度の順位。国王がわざわざ呼び立てて褒めるような内容ではないだろう。

 国王は彼女の困惑を読みとったのか、一つ頷いた。


「勿論、こんな話をする為だけにお主を呼び立てたのはない。アメリア・エドワーズ。この国を代表する女性騎士として任務を与える。――入れ」


 国王が、アメリアの後ろにある扉に向かって声をかけた。思わず、アメリアもそちらに目を向ける。

 すると巨大な扉が開き、一人の人物がやってきた。


 足元まで隠れる灰色のローブ。深くかぶったフードのせいでその顔を見る事は出来ないが、そのひょろりと伸びた柱の様な姿だけで、アメリアは誰なのかを瞬時に理解した。


「幻影の勇者……」


 それは、姿を現す事の少なさから幻影の勇者と呼ばれている、クルウェークの勇者・マクシェインだった。


 ――なぜ、彼がここに?


 アメリアの頭に当然の疑問が湧き出る。

 勇者の登場に存在を忘れ去られそうになっていた国王が口を開いた。


「アメリア・エドワーズ。そなたの腕を見込み、勇者・マクシェインの護衛を任命する」

「――は……?」


 全く予想もしていなかった任命に、アメリアは相手が国王である事も忘れて惚けた声を出した。

 唖然としているアメリアに、灰色のローブの頭が揺れた。


 どうやら、「よろしく」というように会釈をしたようだった。

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