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魔王候補と勇者たち  作者: まる
14/72

勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・13

 騎士さん達の威圧感のおかげか、帰りも行きと同じく何事もなくお城につくことができました。銀色の甲冑の集団には町の人も気が付いていたようで、町に入った瞬間大きな歓声で出迎えてくれました。外や家の窓から笑顔で手を振る町の人に対し、騎士さんたちは何も言わずに黙々と歩き続けている。真ん中を歩くエリオットさんはというと、歓声をあげられている当人であるはずなのに、うつむいて歩いていて……なんだか、騎士に連行されている罪人のような姿にさえ見えてしまう。少し背中を丸めているのか、身長も普段より小さく見えた。

 隣の雷翔はわたしと目が合うと肩をすくめてみせた。雷翔も同じように感じているんだろう。

 少しもやもやした気持ちになりながらも、お城に向かう。

 門をくぐって敷地内に入ると、当たり前のように騎士さんたちは姿を消し、残されたのはエリオットさんとアメリアさんとわたし達だけになった。


「では、皆さん。陛下に報告に参りましょう」


 この微妙な空気を変えるようにアメリアさんが明るく言う。それに答えるようにフードをかぶったままのエリオットさんが頷いて歩きだした。


「さ、行きましょう」

「あ、はい」


 アメリアさんに声をかけられて、わたしもエリオットさんに続く。

 謁見の間に行くと、初めて会った時と同じように、王様が王座に腰かけて待っていた。


「エリオット、アメリア。討伐ご苦労だった。ジェイク殿、ライカ殿、ジュジュ殿、クーファ殿。そなたらにも感謝しておる」

「はっ」


 アメリアさんが膝をついて頭を垂れる。

 エリオットさんはのそのそとフードをとって、相変わらずの青白い顔でほほ笑んだ。


「勇者としての仕事を全うしただけです、陛下。それより、ジェイクさんとの手合わせはいつ行えばよろしいでしょうか?」


 ゆったりした口調で王様に尋ねたエリオットさんの横で、アメリアさんがはじかれたように顔を上げた。驚愕の表情でエリオットさんを見上げている。きっと、ジェイクさんがエリオットさんと手合わせにきたということを知らないのだろう。


「それはいつでも構わないが、お前はいいのか?」

「ええ、ジェイクさんさえよければ、明日にでも」


 伺うように見てきたエリオットさんに、ジェイクさんが軽くうなずく。


「では、明日練習場をお借りしてよろしいですか?」

「では、騎士隊長にわしから明日は練習場の立ち入りを禁止するよう伝えておこう。討伐の褒美として休暇を取らせるのも不自然ではあるまい」

「ありがとうございます」


 礼をして、エリオットさんが退出する。アメリアさんが、慌てたように立ち上がると王様に頭を下げてエリオットさんの後を追いかけた。

 その後を追いかけて廊下に出ると、


「エリオット様!」


というアメリアさんの声が響いた。


「手合わせとはどういうことですか?」


 焦った表情のアメリアさんに、エリオットさんが穏やかな顔で微笑む。


「今回ジェイクさんがこの国に来たのは私と手合わせをすることが目的だったんですよ。すみません、心配かけると思って言わなかったのです」

「そ、そうだったんですか。いえ、私もつい声を上げてしまい申し訳ありませんでした。では、明日は何時に練習場に向かえばよろしいでしょうか」

「アメリアさん。援護は必要ありませんよ」

「えっ……」

「一対一で行います。手合わせですから、命の心配もありませんし。討伐後ですから、アメリアさんはゆっくり休んでください」

「で、ですが、ジェイク様は剣士です! エリオット様とは戦い方が違います」

「俺なら、その女が一緒でも構わないが」


 援護するようなジェイクさんの言葉に、アメリアさんが表情を明るくする。

 けれど、エリオットさんは首を横に振った。


「気持ちは嬉しいですが、私の個人的な事にアメリアさんをお付き合いさせるわけにはいきません。いつもの勇者への依頼とは違うんですから」

「で、ですが!」

「アメリアさん。無理に私に付き従う必要なんてないんですよ? 貴女の自由を奪っている私にこんな事言う資格はないかもしれませんが、貴女はもっと自分を大切にしてください」


 エリオットさんの言葉に、アメリアさんは目を見開いて立ちすくむ。

 その間に、エリオットさんは彼女に背中を向け、フードをかぶりながら立ち去って行った。


「結局、あいつと一対一か」


 気まずい空気をものともせず、欠伸をしながらぶらぶらとジェイクさんがその場を離れる。ライカもその後に続いた。

 まだ呆然と立っているアメリアさんを放っておけずにいると、小さく彼女が口を開いた。


「エリオット様……私は、無理なんて……」


 ぎゅっと唇を噛みしめ、エリオットさんが去っていった方に背中を向けて歩き出す。

 無理なんてしてないのに。足早に去っていく背中が告げている気がした。

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