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魔王候補と勇者たち  作者: まる
13/72

勇者(にもつ)と女性騎士(うんそうや)・12

すごく間が空いてしまいました…!

すみません(;´Д`)

「ご飯が出来ました」


 食事の手伝いを終えた後、他の作業をしていた騎士さん達に声をかけて回る。いつのまにか食事をお知らせするのが役目になっていたけど、今はそれが好都合だ。

 先に騎士さん達に声をかけてから、最後にエリオットさんの所に行く。

 勿論、彼と話す為だ。

 彼には聞きたい事……ううん、聞かなくちゃいけない事がある。

 どうして印の事を知っていたのか。わたしを魔王候補だと知っていたのか。


 エリオットさんは、他の騎士さん達から少し離れて、ぽつんと木の下に座っていた。

 相変わらずフードを深くかぶっていて顔が見えないけど、ぼんやり空を眺めているように見える。


「エリオットさん」

「……ああ、ジュジュさん。どうしましたか?」


 一拍間を開けてから、エリオットさんがわたしを見上げる。

 優しい穏やかな声から隠れている彼の表情が想像できた。


「あの、少しいいですか?」

「ええ、どうぞ」


 何のてらいもなく、自分の横を勧めるエリオットさんに従って、彼の横に腰を下ろす。

 ここまでは順調。でも、どう切り出そう。

 うーん、と悩んでいると、こっちを見ていたエリオットさんが先に口を開いた。


「ジュジュさん、ちょっと聞いても良いですか?」

「えっ? あ、はい」

「ギルドニア国の勇者はどのように選ばれるのでしょう?」

「え?」


 思いがけない質問に戸惑う。

 エリオットさんはじっとこちらを見ていた。


「あ、ええと、確かコウガ様……ギルドニア国の王様が選んだと聞きましたが」

「そうなんですか」

「え? あの、クルウェークでは違うんですか?」

「……ここでは、生まれで決まるんです」

「生まれ?」

「ええ。代々、マクシェイン家の者が勇者を引き継いでいるんです」


 勇者が世襲制?

 意外な事にびっくりしてしまう。

 きょとんとしているわたしに、エリオットさんが少し笑みを含んだ声で続けた。


「マクシェイン家は強い魔力を持つ一族として昔から王家を支え続けてきたそうです。王家にとって最も信頼のおける一族として、勇者は必ずマクシェイン家から選ばれるようになっているんです」

「そうなんですか……」

「ええ。だから、印の事も知っていたんですよ」


 さらりと言われた言葉に目を見開くと、エリオットさんはフードの下から覗く口元を微笑ませていた。


「過去の勇者に関する書物や自伝なんかがマクシェイン家の書斎に残っていますからね。魔王候補と関わった勇者もいましたし。ジュジュさんはそれが聞きたかったのかと思ったんですが、違いましたか?」

「……いえ……そうです……」


 もはや何の言い逃れも出来ない状況だ。素直に答えると、エリオットさんはクスクス笑った。


「ジュジュさんは素直ですね。魔王候補があなたみたいな方だとは思いませんでした」

「……意外すぎますよね。というか、未だにどうしてわたしが選ばれたのかが謎なんですけど……」

「そうですか?」

「そうですよ! だって、こんなんですよ? 小さくて弱くて何の特技も無いし! そりゃ魔族だって怒りますよ!! そのせいで魔族に追われるわ、勇者と戦わなくちゃいけないわ、散々です!」

「はは、随分鬱憤が溜まってたんですね」


 楽しそうに話すエリオットさんの声に、はっと我に返る。

 いや、わたし何やってんの! 何、勇者に愚痴ってんの!!


「あ、あの、すいません」

「え? ああ、気にしないでいいですよ。少しはすっきりしました?」

「えーと……はい」

「たまには嫌な事とか口に出さないと、ため込む一方じゃ苦しいですからね」

「……あの、エリオットさんも、嫌な事とか言っていいですよ。一方的に聞かせちゃいましたし、それに……なんとなくエリオットさんは他人とは思えなくて」

「ふふ、お互い変わり種ですからね」


 どこか楽しそうなエリオットさん。

 今まで変わってるとか出来そこないとか散々言われていた言葉だったけど、彼の「変わり種」という発言は嫌な気持ちになる要素は一つも無くて、逆になんとなくおかしく思えた。


「勇者も大変ですね」

「ええ。まあ、マクシェイン家にとっては呪いみたいなものですよね」

「のろい……」


 さらりと告げられたけれど、衝撃を与えるには十分な言葉だった。

 思わず呟くと、エリオットさんはスッと立ち上がった。


「そろそろ行きましょうか。食事が冷めてしまいますし」

「あ……はい」


 うなずきながらも、動揺が収まらない。

 欠陥品。呪い。エリオットさんが口にした言葉が頭をよぎる。……魔王候補に選ばれたわたし以上に、彼にとって『勇者』は厭わしいものなのかもしれない。

 その事をうっすら感じながら、立ち去るエリオットさんの背中を見送るしかできなかった。

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